今季からG大阪のコーチに就任した遠藤。全体の練習をサポートしながら、タイミングを見て選手たちにアドバイスする。写真:河治良幸

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 沖縄県の中城でキャンプを行なっているガンバ大阪。昨シーズンは16位という結果で、“降格枠は1”というレギュレーションに救われたところもある。今季はダニエル・ポヤトス監督の2年目で、山田康太や中谷進之介といったタレントが加入して、チームとして活気があるなかでも、目を引くのは“ヤットさん”こと遠藤保仁コーチの姿だ。

 横浜フリューゲルスでプロデビュー、そこから京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)を経て、2001年から19年半に渡り、ガンバ大阪の栄光を築いてきた遠藤コーチは、昨年までの3年半、ジュビロ磐田でプレーし、年明けに電撃的な引退発表をしたばかり。コーチ就任がリリースされたのは、1月12日に行なわれた新体制発表の3日前だった。

 基本的には、ポヤトス監督や参謀のマルセル・サンツヘッドコーチを中心としたメニューをこなすなかで、郄木和道コーチ、上村捷太コーチとともに全体をサポートしたり、グループ分けの1つを見たりといった役割だ。ただ、やはり選手にボールを渡す時にビシッとつけるキックなどを見ていると、現役時代を彷彿させるものがある。

 全体の練習をサポートしながら、本当にちょっとしたところで声掛けをするシーンもよく目につく。筆者が取材に訪れた日には、FWの食野亮太郎をつかまえて話し込んでいた。食野に聞くと「現役の時にヤットさんが自分に対して感じていたこと、縦プレーをしていたことも言ってもらえたので。今シーズンはそれを多く出していければ」と語ってくれた。
 
「僕はもうパスを出せる選手に、ここにくれっていうふうにアクションで示してきたので。ヤットさんは特に現役時代、そういうところをいっぱい見てくれた」

 昨シーズンの司令塔的な存在だった山本悠樹は川崎フロンターレに移籍したが、柏レイソルから山田康太が加わり、セレッソ大阪から鈴木徳真も来た。そうした出し手と受け手の両方がどう生きることで、良い攻撃が生まれるか。そういう意味でも“ヤットさん”の存在は大きなものになりそうだ。

 鈴木は加入して間もないが、さっそく遠藤コーチにアドバイスを求めたという。「ちっちゃい頃からプレーを見さしてもらっているという話をして、こういうプレーってどうしたらいいんですかというのは聞いたりさせてもらいました」と鈴木。山本が抜けた状況で、イスラエル代表のMFネタ・ラヴィと同じく、攻守のバランスを取りながら、中盤の底からゲームを組み立てる役割を担いそうだが、遠藤コーチは心強い存在だろう。

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 そうしたプレー面もそうだが、メンタル面での効果を歓迎するのは、2014年の国内三冠を一緒に経験した倉田秋だ。35歳になる倉田だが、10番を背負って心身両面でチームを支える存在。昨シーズンに関しては、チームは一体感を欠くことが多々あったという。そこをしっかり作っていきたいという倉田は、遠藤コーチのもたらす影響を人一倍、感じているかもしれない。

「ヤットさんが見てくれているだけで、緊張すると言っている選手だったり、そういう空気感は去年とは違う」

 中盤から前線にパスを送り込む一人でもある倉田は、「人には無い見方というのがヤットさんはできると思うし、それをしっかり伝えてくれると思う」と語り、そうしたアドバイスにも期待を寄せる。遠藤コーチは43歳といっても現役を引退したばかりで、熊本の指導者講習会に1週間参加して、C級ライセンスを取得したのが昨年の暮れだ。
 
 日本代表のロールモデルコーチではないが、選手とコーチングスタッフの両方と向き合いながら、指導者として学んでいく立場に過ぎない。それでも強かった時のガンバを知るというより、そのガンバを作ったレジェンドの一人であり、現役に限りなく近い感覚と目を持ち合わせている遠藤コーチの存在は、ガンバが強さを取り戻すことに大きく寄与するはず。

 ここから遠藤コーチがどういう指導者のステップを踏んでいくかは楽しみだが、今シーズンのガンバを陰から支える存在としての効果を期待して見ていきたい。

取材・文●河治良幸