PCテクノロジートレンド 2024 - Storage編
2024年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はStorage編だ。SSDとHDDを取り扱うが、まずはNVMe M.2 Storageについて。あまり進んでいなかったPCIe 5.0対応で、今年は色々前向きな話がある。
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2023年はPCIe 4.0対応のNVMe M.2 Storageが完全にMatureになった一方、PCIe 5.0対応の方は(まぁ予想できたことではあるが)あまり進んでいない。ただ今年は色々前向きな話があるので、もう少しPCIe 5.0対応が進む様に思われる。また大容量化も進み、ついに2TBのNVMe SSDがブランドとか速度を選ばなければ1万円切り、Crucialの2TBで\16,000、4TBで\34,141(いずれも1月2日現在の価格)まで下落してきている。
では、もうHDDは要らないか? というとそういう訳でもない。Vtuberの方とかだと、素材だけで動画ファイルが数十TBとかになる事も珍しくない。編集そのものは速度も必要だから大容量のSSDを使うとしても、それとは別に保存用に大容量ストレージは必須だし、そうなるとコストパフォーマンスの観点でもHDDはまだまだ現役である。そのHDDも2023年には大容量品が続々投入され、東芝の20TBのものが\65,680とかいう値段で買える時代になっているわけで、まだコストパフォーマンスの観点ではSSDの追従を許さない。そんな訳で2024年のストレージ事情をちょっと説明したい。
2024年のNVMe M.2 SSD
2023年初頭の時点で既に4TB品が出回っている、という話は昨年のロードマップでも触れた通り。では今年は? というと、2024年元旦現在で言えば、Enterprise向けはともかくとしてコンシューマ向けは依然として4TBが最上位で、ただし価格が下落しているという感じになっている。理由は簡単で、2280サイズのモジュールだとNAND Flashを片面で4つは積めるがそれ以上は困難というか不可能で、一方でNAND Flashのダイの容量は主流が512Gbit品から1Tbit品にシフトしつつあるが、1Tbit品を4つ積んでも512GBにしかならないので、実際にはこのダイを複数枚積み重ねたパッケージを利用する。4TB NANDというのは、要するに8Tbit NAND Flashを4つ(ないし、4Tbit NAND Flashをモジュール両面に4つづつ実装だが、最近はこのパターンを見なくなった)積む形だが、8Tbit NAND Flashというのは512Gbitのダイ×16ないし1Tbitのダイ×8を積層するというもので、流石にこれ以上積層するのはちょっと難しくなりつつある。
実はコンシューマ向けのコントローラであっても、PCIe拡張カードの形で使い事を前提にしているためか、最大サポート容量は16TBとか32TBになっている事が多く、なのでNAND Flashの容量がさらに大きくなれば、より大きな製品が登場する事は技術的には可能である。なので、あとは更に容量の大きいNAND Flashの量産が可能かどうか、というあたりに掛かっている。
この点に関しては、正直ちょっと厳しい。2023年中に、主要なメーカーは200層を超える3D NAND Flashの量産に入っている。Samsungは2022年11月に第8世代V-NANDの量産を開始した事をアナウンスしており、2023年にはこれを採用したSSDを発表している。SK Hynixは2023年8月のFMS(Flash Memory Summit)において321層の3D NANDのサンプルを展示した。Micronも2022年7月に232層の3D NANDの量産をアナウンスしており、これを採用したSSDも2023年には市場投入している。
では次は? というと、SK Hynixの300層でもまだ容量倍は厳しく、できれば400層位にしないと現在の倍の容量、つまり1ダイあたり2Tbitの実現は難しいのだが、こちらはこちらで製造難易度が急激に上がるし、そもそも200層を突破した時点でコストダウンも難しくなってきている。100層→200層で、bitあたりのコストは30%程度しか低下しておらず、恐らく同じ様な仕組みで400層を実現するとなると、bitあたりのコストは下がらないどころかむしろ上がりかねない。また多値化に関しても、既にTLC→QLCの時点でかなり性能や寿命にインパクトがある事が判っており、最近はQLCを利用できる製品であっても敢えてTLC止まりにして性能と寿命を延ばし、更に一部はSLCとして使う事でDRAMを省く(SLC領域をキャッシュとして使う)事でコストを下げる、なんて取り組みがされている時点で、割とこの方向は頭打ちになりつつある。技術的に言えば既にPLC(Penta Level Cell、5bit/cell構成)も不可能ではないのだが、QLCにも増して性能と寿命にインパクトが大きいので、まだ最終製品で利用されているケースはなく、2024年中もそうした製品が市場に出て来るかどうか疑問である。
現状4TBというのはSSDとしては手頃な容量であり、これを超える容量はHDDを併用といった形で使い分けがなされており、2024年もこれを継承する事になるかと思う。ただし価格的に言えば次第に下落傾向にあるので、現状だとメジャーブランドだと4TB品が3〜4万円の価格帯にあるのが、年末位までには2〜3万円までおちてくるかもしれない。
むしろ違いはI/F対応の方にありそうだ。2023年、PCIe 5.0対応のコントローラとしてConsumer製品に採用されたのは結局PhisonのE26のみだった。いや別にE26が悪いという訳では無い(*1)が、何しろ12nmプロセスでPCIe 5.0のNVMe制御を無理やりやってる訳なので、ご存じの様に「爆熱SSD」が出来上がる羽目になった。数cmもある巨大ヒートシンクはまだ可愛い方で、どうかすると水冷ブロックを使って冷却というのはやはり尋常ではない。さすがにこれは運用上も問題がある(基板上に巨大なヒートシンクやら水冷ブロックやらが聳え立つ関係で、GPUと干渉したりしかねないケースがしばしばある)。そんな訳で、価格的にはそれほど高価ではないにも関わらず、まだConsumer向けのM.2 NVMe SSDはPCIe Gen4対応のものが主流だった。
ところが今年はこの構図が少し変わりそうだ。2023年2月に中国Silicon MotionはTSMC N7で製造されるSM2504XTの存在をアナウンス。当初は2023年9月に量産と言っていたがちょっと遅れているようなのが残念であるが、間もなく最初の搭載製品が市場に登場するとみられる。またMarvellやBroadcomなどは既にEnterprise向けには5nmあるいは7nmプロセスで製造したPCIe Gen5対応のNVMeコントローラを保有しており、これのサブセットを作るだけでコンシューマ向け製品が用意できる。これは自社でコントローラを開発しているKioxiaとかMicronなども同じであり、既にEnterprise向けにはPCIe 5.0のコントローラを搭載した製品を投入済である。今年はこうしたメーカーからも、Consumer向けコントローラが出てくることが期待できる。これが普及すれば、Consumer向けのNVMe M.2 SSDも本格的にPCIe 5.0に移行する事になるだろう。
(*1) と言いつつ、筆者自身「でも悪い」と言っている様な気もする。
2024年のHDD
意外、というのも失礼なのだろうが、大容量HDDが相次いで投入されたのが2023年だった。Seagateは4月にCMR方式の22TB品、10月にはCMR方式の24TB及びSMR方式の28TBを発表。WDも11月にCMR方式の24TBと28TBのSMR方式の製品を発表。東芝は9月にCMR方式の22TBを投入するなど、より大容量化が進んでいる。
興味深いのはCMR方式の大容量品が以前より増えてきている事で、やはりSMR方式は用途が限られる、という事なのかもしれない。結果として、よりConsumer向けであっても大容量のHDDが安価に入手できる様になった。例えばAmazon.co.jpでWD Red Plusシリーズ及びSeagate IronWolf Proシリーズの価格を調べてみると表の通りである(1月2日調べ)。小容量だと1TBあたり7,000円〜1万円でぜんぜん美味しくない(冒頭に書いたように4TBのSSDが\34,141だから、容量単価は\8,535.3円/TBになる)訳だが、8〜10TB以上になると\4,000/TB程度まで下落しており、ほぼSSDの半額である。まぁ以前はこれが10倍位の差だったから、それに比べるとSSDも安くなったというべきなのだろうが、8〜16TBあたりのHDDは絶対価格的にもそう高い買い物ではなく、しかもCMR方式だから普通にアクセスしても性能が落ちるわけでもない。
■表: HDD価格の比較表
各HDDメーカーもこの先のロードマップを既に提示済である。この先の基本はHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録方式)なりMAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording:マイクロ波アシスト磁気記録方式)で、2022年にSeagateが示したロードマップでは、2023年にHAMRを利用した30TB級、2024年〜2025年に40TB級、2026年に50TB級のHDDを投入予定だった。WDは2026年度にはHAMRベースの製品で容量を現在から大幅に引き上げるとしており、また東芝は2024年にMAMRベースで30TBの製品を、2025年に35TB、2026年には40TB以上の製品を投入するとしていた。
いずれもちょっと古いロードマップだし、実際の所これまで各社とも30TB以上の容量を持つ製品を(Seagateのサンプル出荷の話などはあったものの)市場投入出来ていなかったあたりは、HAMRにしてもMAMRにしても実装に手間取っている様だが、まだまだHDDの容量増加の勢いは(以前に比べてスローダウンしているものの)止まらない事になる。幸い、と言って良いかどうか判らないがNAND Flashもそろそろ容量増加に苦しみ始めた(コストとか速度/寿命とのバーターになってきた)訳で、引き続き容量単価のギャップは残る事になる。これはEnterpriseのみならずConsumerにも関係してくる話で、それこそ冒頭で述べたようにVtuberの様なVideo Contentsを自身で製作するようなユーザーには、引き続きHDDは欠かせない事になる。少なくとも2024年に限って言えば、まだビデオ格納用ストレージを完全にSSDにするのは、コストパフォーマンスの悪い選択肢と言えよう。
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2023年はPCIe 4.0対応のNVMe M.2 Storageが完全にMatureになった一方、PCIe 5.0対応の方は(まぁ予想できたことではあるが)あまり進んでいない。ただ今年は色々前向きな話があるので、もう少しPCIe 5.0対応が進む様に思われる。また大容量化も進み、ついに2TBのNVMe SSDがブランドとか速度を選ばなければ1万円切り、Crucialの2TBで\16,000、4TBで\34,141(いずれも1月2日現在の価格)まで下落してきている。
2024年のNVMe M.2 SSD
2023年初頭の時点で既に4TB品が出回っている、という話は昨年のロードマップでも触れた通り。では今年は? というと、2024年元旦現在で言えば、Enterprise向けはともかくとしてコンシューマ向けは依然として4TBが最上位で、ただし価格が下落しているという感じになっている。理由は簡単で、2280サイズのモジュールだとNAND Flashを片面で4つは積めるがそれ以上は困難というか不可能で、一方でNAND Flashのダイの容量は主流が512Gbit品から1Tbit品にシフトしつつあるが、1Tbit品を4つ積んでも512GBにしかならないので、実際にはこのダイを複数枚積み重ねたパッケージを利用する。4TB NANDというのは、要するに8Tbit NAND Flashを4つ(ないし、4Tbit NAND Flashをモジュール両面に4つづつ実装だが、最近はこのパターンを見なくなった)積む形だが、8Tbit NAND Flashというのは512Gbitのダイ×16ないし1Tbitのダイ×8を積層するというもので、流石にこれ以上積層するのはちょっと難しくなりつつある。
実はコンシューマ向けのコントローラであっても、PCIe拡張カードの形で使い事を前提にしているためか、最大サポート容量は16TBとか32TBになっている事が多く、なのでNAND Flashの容量がさらに大きくなれば、より大きな製品が登場する事は技術的には可能である。なので、あとは更に容量の大きいNAND Flashの量産が可能かどうか、というあたりに掛かっている。
この点に関しては、正直ちょっと厳しい。2023年中に、主要なメーカーは200層を超える3D NAND Flashの量産に入っている。Samsungは2022年11月に第8世代V-NANDの量産を開始した事をアナウンスしており、2023年にはこれを採用したSSDを発表している。SK Hynixは2023年8月のFMS(Flash Memory Summit)において321層の3D NANDのサンプルを展示した。Micronも2022年7月に232層の3D NANDの量産をアナウンスしており、これを採用したSSDも2023年には市場投入している。
では次は? というと、SK Hynixの300層でもまだ容量倍は厳しく、できれば400層位にしないと現在の倍の容量、つまり1ダイあたり2Tbitの実現は難しいのだが、こちらはこちらで製造難易度が急激に上がるし、そもそも200層を突破した時点でコストダウンも難しくなってきている。100層→200層で、bitあたりのコストは30%程度しか低下しておらず、恐らく同じ様な仕組みで400層を実現するとなると、bitあたりのコストは下がらないどころかむしろ上がりかねない。また多値化に関しても、既にTLC→QLCの時点でかなり性能や寿命にインパクトがある事が判っており、最近はQLCを利用できる製品であっても敢えてTLC止まりにして性能と寿命を延ばし、更に一部はSLCとして使う事でDRAMを省く(SLC領域をキャッシュとして使う)事でコストを下げる、なんて取り組みがされている時点で、割とこの方向は頭打ちになりつつある。技術的に言えば既にPLC(Penta Level Cell、5bit/cell構成)も不可能ではないのだが、QLCにも増して性能と寿命にインパクトが大きいので、まだ最終製品で利用されているケースはなく、2024年中もそうした製品が市場に出て来るかどうか疑問である。
現状4TBというのはSSDとしては手頃な容量であり、これを超える容量はHDDを併用といった形で使い分けがなされており、2024年もこれを継承する事になるかと思う。ただし価格的に言えば次第に下落傾向にあるので、現状だとメジャーブランドだと4TB品が3〜4万円の価格帯にあるのが、年末位までには2〜3万円までおちてくるかもしれない。
むしろ違いはI/F対応の方にありそうだ。2023年、PCIe 5.0対応のコントローラとしてConsumer製品に採用されたのは結局PhisonのE26のみだった。いや別にE26が悪いという訳では無い(*1)が、何しろ12nmプロセスでPCIe 5.0のNVMe制御を無理やりやってる訳なので、ご存じの様に「爆熱SSD」が出来上がる羽目になった。数cmもある巨大ヒートシンクはまだ可愛い方で、どうかすると水冷ブロックを使って冷却というのはやはり尋常ではない。さすがにこれは運用上も問題がある(基板上に巨大なヒートシンクやら水冷ブロックやらが聳え立つ関係で、GPUと干渉したりしかねないケースがしばしばある)。そんな訳で、価格的にはそれほど高価ではないにも関わらず、まだConsumer向けのM.2 NVMe SSDはPCIe Gen4対応のものが主流だった。
ところが今年はこの構図が少し変わりそうだ。2023年2月に中国Silicon MotionはTSMC N7で製造されるSM2504XTの存在をアナウンス。当初は2023年9月に量産と言っていたがちょっと遅れているようなのが残念であるが、間もなく最初の搭載製品が市場に登場するとみられる。またMarvellやBroadcomなどは既にEnterprise向けには5nmあるいは7nmプロセスで製造したPCIe Gen5対応のNVMeコントローラを保有しており、これのサブセットを作るだけでコンシューマ向け製品が用意できる。これは自社でコントローラを開発しているKioxiaとかMicronなども同じであり、既にEnterprise向けにはPCIe 5.0のコントローラを搭載した製品を投入済である。今年はこうしたメーカーからも、Consumer向けコントローラが出てくることが期待できる。これが普及すれば、Consumer向けのNVMe M.2 SSDも本格的にPCIe 5.0に移行する事になるだろう。
(*1) と言いつつ、筆者自身「でも悪い」と言っている様な気もする。
2024年のHDD
意外、というのも失礼なのだろうが、大容量HDDが相次いで投入されたのが2023年だった。Seagateは4月にCMR方式の22TB品、10月にはCMR方式の24TB及びSMR方式の28TBを発表。WDも11月にCMR方式の24TBと28TBのSMR方式の製品を発表。東芝は9月にCMR方式の22TBを投入するなど、より大容量化が進んでいる。
興味深いのはCMR方式の大容量品が以前より増えてきている事で、やはりSMR方式は用途が限られる、という事なのかもしれない。結果として、よりConsumer向けであっても大容量のHDDが安価に入手できる様になった。例えばAmazon.co.jpでWD Red Plusシリーズ及びSeagate IronWolf Proシリーズの価格を調べてみると表の通りである(1月2日調べ)。小容量だと1TBあたり7,000円〜1万円でぜんぜん美味しくない(冒頭に書いたように4TBのSSDが\34,141だから、容量単価は\8,535.3円/TBになる)訳だが、8〜10TB以上になると\4,000/TB程度まで下落しており、ほぼSSDの半額である。まぁ以前はこれが10倍位の差だったから、それに比べるとSSDも安くなったというべきなのだろうが、8〜16TBあたりのHDDは絶対価格的にもそう高い買い物ではなく、しかもCMR方式だから普通にアクセスしても性能が落ちるわけでもない。
■表: HDD価格の比較表
各HDDメーカーもこの先のロードマップを既に提示済である。この先の基本はHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録方式)なりMAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording:マイクロ波アシスト磁気記録方式)で、2022年にSeagateが示したロードマップでは、2023年にHAMRを利用した30TB級、2024年〜2025年に40TB級、2026年に50TB級のHDDを投入予定だった。WDは2026年度にはHAMRベースの製品で容量を現在から大幅に引き上げるとしており、また東芝は2024年にMAMRベースで30TBの製品を、2025年に35TB、2026年には40TB以上の製品を投入するとしていた。
いずれもちょっと古いロードマップだし、実際の所これまで各社とも30TB以上の容量を持つ製品を(Seagateのサンプル出荷の話などはあったものの)市場投入出来ていなかったあたりは、HAMRにしてもMAMRにしても実装に手間取っている様だが、まだまだHDDの容量増加の勢いは(以前に比べてスローダウンしているものの)止まらない事になる。幸い、と言って良いかどうか判らないがNAND Flashもそろそろ容量増加に苦しみ始めた(コストとか速度/寿命とのバーターになってきた)訳で、引き続き容量単価のギャップは残る事になる。これはEnterpriseのみならずConsumerにも関係してくる話で、それこそ冒頭で述べたようにVtuberの様なVideo Contentsを自身で製作するようなユーザーには、引き続きHDDは欠かせない事になる。少なくとも2024年に限って言えば、まだビデオ格納用ストレージを完全にSSDにするのは、コストパフォーマンスの悪い選択肢と言えよう。