伊藤歩、『昼顔』出演以来「最近は怖い役しか来なくなった(笑)」最新出演映画では自分から「口裂け女がやりたい」
13歳のときにオーディションで大林宣彦監督の映画『水の旅人 侍KIDS』で女優デビューして、2023年で30周年を迎えた伊藤歩さん。
映画『スワロウテイル』(岩井俊二監督)で第20回日本アカデミー賞・新人俳優賞と優秀助演女優賞を受賞。『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)、映画『ふくろう』(新藤兼人監督)、映画『カーテンコール』(佐々部清監督)など多くのドラマ、映画に出演し、演技派女優として注目を集める。
テレビドラマにも多く出演し、2014年には『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)で斎藤工さん演じる北野の妻・乃里子を演じて話題に。
©2022 Story Game Production
◆東日本大震災がきっかけで…
大林宣彦監督や岩井俊二監督をはじめ、名だたる監督たちの作品に出演し、映画女優として広く知られることになった伊藤さん。
CHARAさん、ちわきまゆみさん、YUKARIEさん、YUKIさんとともに女性5人組バンド「Mean Machine(ミーン・マシーン)」を結成し、Ayumi名義でヴォーカルを務め、ナレーションの仕事もこなすなど幅広い分野で活躍。ウイスキーのCM「家族の絆」シリーズも話題に。
――國村隼さんが父親役で伊藤さんが娘役、ほのぼのしてすてきなCMでしたね。
「ありがとうございます。ストーリー性があってドラマのようなCMでした。あの当時、祖父母が生きていたので、すごく喜んでくれました」
――伊藤さんは、ボランティア活動もいろいろされていますね。
「微力ですが。祖父母が岩手の大船渡に住んでいまして、東日本大震災が起こり、祖父母の家は大丈夫でしたけど、親戚の家が倒壊したりといろいろありまして。12年経って、復興は進んでいるし、皆さんも元気にはなってきていますが、何かまたできたらとは思っています」
――ある意味、勇気づけられるお仕事ですし、そういう存在でもありますものね。
「そうですね。テレビドラマに出るきっかけが、実はそうだったりして。私はずっと映画ばかりだったのですが、祖父母や親戚が住んでいるところに映画館がなくて。映画ばかりだと祖父母が見られないからずっとテレビに出てほしいと言われていたんです。ただ、その当時、私はテレビが苦手という意識もあって、出てなかったんです。
でも、東日本大震災を機に、もちろん映画は一生残っていくものだし、自分にとってずっと大切なものですけど、テレビのほうが早く届けられるので、そこからテレビも積極的に頑張る気持ちになりました」
――おじいさまとおばあさまが喜ばれたでしょうね。
「そうですね。今はNetflixとかいろいろありますけど、その当時は地元のレンタルショップとかに行かないと、なかなか映画を見られないような時代だったので。祖父母のおかげでテレビにもという気持ちに切り替えることができました」
2014年、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)に出演。主婦・笹本紗和(上戸彩)の不倫相手である高校教師・北野裕一郎(斎藤工)の妻・乃里子役を演じた。
ドラマ版では夫と紗和を別れさせ、2017年に公開された劇場版では、紗和とともに生きていく決意を固めた裕一郎を道連れに車ごと崖下に転落するが、乃里子だけ助かる。
「『昼顔〜』以来、ああいう役しか来なくなりました。良い人の役が全然来なくなって(笑)」
――あのお話が来たときは、どう思いました?
「テレビの台本は、最初からできているわけではないので、結末が書いてないわけですよ。不倫のドラマというのはわかるんですけど、私がなぜかあんなことになるのかというのは、全然自分も知らなかったので『私、こんなに悪い人なの?』みたいな感じでした(笑)」
――ドラマ版では「浮気をしたら、相手の女を殺す」と言っていましたね。映画版ではもっと恐ろしいことに。
「あのシーンは、あの瞬間に湧いてきた感情で、ついアクセルを踏んで暴走したら裕一郎(斎藤工)だけ死んじゃって、なぜか私だけ生き残ってしまった。だから、乃里子が最初から殺そうと思っていたわけではないんですけどね(笑)」
――あの作品で制作サイドの人も、伊藤さんがこういう役もやるのだという感じに?
「こういう役もというか、もうああいう役しかないというか(笑)。オファーされることが、最近も増えましたね。だいたい犯人か、猟奇的な怖い役しか最近来なくなっています(笑)。
だから大体私が出てくると、『あっ、絶対犯人だな』みたいな流れになって、たまに良い人の役をやると、『おー、違ったな』みたいな(笑)」
――でも、やっていておもしろいでしょうね、悪い役のほうが。
「たしかにおもしろいです。この間、久しぶりに良い人の役をやったら、少し物足りない感じがしました(笑)。やっぱり過激な人の役のほうが、その人の心情がわかりやすいというか。
ちょっと過激な人たちって、明確な自分にとっての正義というものがあって、それは人にとっての正義じゃなくて自分にとっての正義。そこが強ければ強いほど悪役に適しているというか、人には通じない正義みたいなところはすごくおもしろいですよね」
2015年には、『その男、意識高い系。』(NHK BSプレミアム)で連続テレビドラマに初主演。伊藤さんが演じたのは、20代と30代の前半を仕事に懸けてきた主人公・坪倉春子。そんな彼女が“意識高い系”新入社員、一条ジョー(林遣都)に振り回され、彼の尻ぬぐいをさせられながら一皮むけていく…という展開。
――主演ドラマということでプレッシャーはありました?
「私自身は、(林)遣都くんとW主演という感覚だったので、そんなにプレッシャーは感じていなかったです。遣都くんが上手で引っ張ってくれましたし、(社長役の)大地真央さんもすてきで、楽しくやらせていただきました」
◆大林宣彦監督の遺作に出演
2020年4月10日、伊藤さんのデビュー作の大林宣彦監督が肺がんのため逝去された。この日は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて同年7月31日に公開が延期になった遺作『海辺の映画館−キネマの玉手箱』が初めに公開される予定日だった。
「当時、(大林さんが)ガンになったという話を聞いて、会いたいとずっと思っていました。
遺作になってしまった作品『海辺の映画館〜』を作ると聞いたときに、どうしても出たいと思って、『通行人Aでもいいのでやらせてほしい』と事務所を通して伝えてもらったら、“男装の麗人”、“東洋のマタハリ”と呼ばれた実在の人物・川島芳子の役をやってと言われて。
まさかそんなにいい役をもらえると思わなかったのですが、それで久しぶりに再会させていただきました。『また次も一緒にやろうね』と言ってくださったのですが、遺作になってしまって。でも、最後にお会いすることができて良かったです」
――大林監督のことで思い出されるのはどんなことですか?
「私は、デビュー作が大林さんじゃなかったら、多分映画にこんなに興味を持たなかったし、こんなにいい世界なんだと思わなかったと思います。映像の世界っておもしろいとか、あったかいとか。
スタッフもすばらしくてポジティブな印象を受けました。私は芸能に関してまったく知識もない状態でしたが、本当に優しくて、導いてくださったという感じです。私は、大林監督にお会いできてなかったら、この世界でやっていなかったかもしれないです」
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映画『ストーリー・ゲーム』
ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開中
配給:ギグリーボックス
監督:ジェイソン・K・ラウ
出演:岡野りりか グリア・グラマー アヤカ・ウィルソン 遠野まりこ 山本真理 玄理 伊藤歩
◆ホラー映画で「口裂け女」に
現在、ヒューマントラストシネマ渋谷で公開中の映画『ストーリー・ゲーム』(ジェイソン・K・ラウ監督)で“口裂け女”を演じている伊藤さん。この映画は、日本人なら誰もが知る怪談の主人公たち“トイレの花子さん”、“口裂け女”、“「四谷怪談」のお岩&「皿屋敷」のお菊”などが登場するホラー映画。
「この映画は、4年前にオーディションがあったのですが、海外の監督が日本の怪談を撮るというのがおもしろいと思って受けました。
私は、もともとは違う役のオーディションで、『四谷怪談』のほうだったんです。でも、受かった後に台本を見て、『口裂け女がやりたいんですけど』って言ったら驚いていましたけど、やっていただけるならみたいな感じで、口裂け女になったんです。
口裂け女って聞いたことはあっても、なかなか演じる機会がないじゃないですか。題材にされている作品はあまりないので、やってみたいと思いました」
©2022 Story Game Production
――実際に口裂け女をやってみていかがでした?
「鏡に映った自分の顔が怖かったです(笑)。海外の監督ですが、私が思っていた口裂け女に結構近いかなと思いました。
口裂け女が普段マスクを付けているんですけど、コロナが流行する前に撮っていたので、ずっとマスクを付けているのが不自然だなと思ったんですけど、今となっては違和感ないなって(笑)。
私のパートは、ほとんど二人芝居で、初めて英語のお芝居だったので新鮮でした。ちょっと切ない設定でしたけど。
口裂け女は諸説がありますけど、彼女自身がコンプレックスに思っていることが、メタファーとしてあって、切なさを知って共感していた部分がありました。
私の中では女性の口が裂けているっていう、コンプレックスの感情をひとつ見せられたかなと思ったので、ひとりの女性として、そして人間としての深い闇みたいなものが共感できて、すごくやりがいがある役でした」
――口裂け女のシーンの前がとてもきれいなので、余計怖かったです。
「ありがとうございます。良かったです。海外の監督が撮るとこういう風になるんだという新鮮な驚きもありました。全部の話が日本人ならみんな知っている話じゃないですか。それがこういう感じになるのかって不思議な感じでした。私たちが考えるジャパニーズ・ホラーとは全然違いますよね。多くの方に見てほしいです」
――今年デビュー30周年を迎えて、今後はどのように?
「求められる場所があれば何でもやります。求められて初めて発生する仕事なので、そう思っていただけることを大切に頑張りたいと思っています。タイミングが合えばという話にはなってくるんですけど、コメディーもやってみたいです」
2年前に開設した自身のYouTubeチャンネルではコメディーセンスも発揮中。2023年11月23日(木)から沖縄県で開催されている新しい国際映画祭「第一回 Cinema at Sea-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」では、コンペティション部門の審査員を務めている。(津島令子)
ヘアメイク:飯野聡美