大人だって恋をする。“運命”に導かれた人間模様が描かれる『ゆりあ先生の赤い糸』<第4話レビュー>
<ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』第4話レビュー 文:くまこでたまこ>
11月9日(木)に第4話が放送された木曜ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』。第4話では、菅野美穂演じる伊沢ゆりあが、夫の愛人らやその家族に振り回されながらも、自分自身の恋心に一喜一憂する姿が描かれた。
2週にわたり、ラストはゆりあと伴優弥(木戸大聖)のキスシーン。放送終了後、X(旧Twitter)では、惹かれ合う二人の姿に、「きゅんを超えてぎゅんです!」「抗えない感じがいい」というコメントが寄せられた。
また、ドラマならではのストーリー展開に「おもしろい」という視聴者が続出し、大きな反響を呼んでいる。
◆一喜一憂するゆりあを演じる菅野美穂の表現力
ゆりあは、“女の子”になりたかった。誰でもない、若き便利屋・優弥だけの。
しかし、ゆりあのなかにある、年下既婚者男性に遊ばれているのかもしれないという疑念が、それを許さなかった。
優弥の気持ちもちゃんと確認せずに拒否してしまったゆりあは、彼を傷つけてしまった罪悪感で涙を流して帰宅する。
恋愛でうまくいかずに泣くのは子どもも大人も変わらない。それだけ、真剣に向き合っているのだから、涙が出るのも落ち込んでしまうのも仕方がない。
その後、ゆりあは勇気を出して、優弥に失礼なことを言ってしまった謝罪と、また近いうちに会えるかというお伺いのメッセージを送るが、優弥は見事に既読スルー。
この既読スルー問題。「既読スルー、未読スルー、スタンプだけの返信、どれが嫌だ?」とよく議論に上がるが、精神的ダメージはどれも一緒だ。追いメッセージはできないし、真相も確かめられない。ただモヤモヤしか生み出さない。文明の利器と言うものは、便利だが、時に人間をとてつもなく不便にさせる。
優弥とのキスは、奇跡の一度限りのチャンスだったと結論付け、「終わった…」と静かにつぶやくが、その後も何度か携帯電話を確認していた。
この感覚は、欲しい欲しいと強く願うと“推し”は出ないのに、欲を捨てると“推し”が出たりする、ランダムグッズ商品から“推し”を自引きする時に似ている。
「メッセージなんて待っていませんよ」という暗示を掛けることで、精神は保たれる。メッセージが来ていない場合は「まぁ知ってましたけど」で終わり、メッセージが来た場合は、喜びが大きくなる。ゆりあは“おっさん主婦”と言いながらも、ちゃん“女の子”として恋愛の蘇生術を知っていた。
“おっさん主婦”のゆりあと、乙女なゆりあを演じ分けることができる菅野美穂の表現力が光っていた。
◆ゆりあにとっての「運命の相手」
その後、ゆりあは優弥のことを忘れるくらい家庭のことでせわしなく動いていた。
少し落ち着いたタイミングで、優弥からメッセージが届く。これまで親しく「!」を付けてきた人から「!」がないメッセージがくるのは少し怖い。ゆりあの勇気を出したメッセージに、優弥が返してきたのは、少し距離のある内容だった。
ゆりあが「完全に終わった」と絶望してしまうのも無理はない。優弥がどう思っているかも聞けないし、もう二度と会えないかもしれない。このまま、毎日の忙しさを理由に優弥に別れの言葉もなく、自然と忘れていくのかと思われたが、意外にも夫の愛人・箭内稟久(鈴鹿央士)によってそれは阻止された。
稟久は、ゆりあに運命の2人は惹かれ合い、離れられないと話し、「吾良さんは僕の運命の人なんです」と真っすぐに伝える。そんな稟久に「ロマンチストだね」と告げるゆりあは、母親との会話を思い出していた。
母親いわく、将来結婚する人とは見えない赤い糸で結ばれているという。そんななか、タイミングよくゆりあに届いた優弥からのメッセージと写真。楽しそうに笑う自分を見たゆりあは、稟久や母親の言葉を思い出し、優弥は運命ではなく、楽しかった思い出をくれた人ということにしたのだろう。
ゆりあが送ったメッセージは、「楽しそう。ていうか楽しかった。ありがとう」。その言葉は、優弥との決別を意味していたはず。しかし、優弥の「また行きましょう!!」でそれは何の意味も持たない、たわいのないやり取りに様変わりしたのだ。
ゆりあにとって、吾良が運命なのか、優弥が運命なのかは現時点ではまだわからない。でも、今のゆりあにときめきをくれるのも、“女の子”にしてくれるのも優弥だけだった。
◆愛すべき愛人たちを演じる若手俳優たち
吾良の彼氏・稟久と、彼女・小山田みちる(松岡茉優)は、もし「世界あざとい選手権」というものがあれば、キングとクイーンになれると思う。
仲が悪いのは、互いの考えていることがなんとなくわかるからであるからだ。稟久は、ゆりあやみちるによくマウントを取りたがる。それに対して、ゆりあは鋭いツッコミを入れることはあるが、意識的にやり返したりはしない。無意識なマウント発言はあっても、意地悪でマウント発言をしたことはないのである。
その一方で、みちるは自分の分とゆりあの分も仕返しと言わんばかりに、稟久にやり返す。かわいくもあり、したたかなみちるに、稟久はいつも悔しい思いをさせられている。
本来であれば、この二人は夫の不倫相手なのだから、「なんだこいつら…!」と不快な思いでいっぱいになるはずなのだが、そんな思いは抱いたことがない。それは、稟久とみちるを演じている鈴鹿と松岡がキャラクターを理解し、最大限に愛されるように演じているからだと思われる。
鈴鹿はこれまで、ヒロインの片思いの相手など、イケメンと呼ばれる役を演じることが多かった。本作でも「王子様みたい」と言われるイケメンぶりは変わらないが、どこか様子がおかしいのだ。
苦手な女性陣に触れられただけで嫌な顔をしたかと思えば、白目も何度もする。こんな鈴鹿の芝居を見たことがなかった分、一気に愛おしさが増す。
また、松岡はつい最近まで先生役を演じていた。元々、少しあざとい女性を演じることが多かった松岡がハキハキとした先生や強い女性を演じたことで、演技の幅が広がったのだろう。
そんな松岡が演じるみちるには説得力がある。少しバカなふりをした方が、物事はうまくいくことがある。とくに人の上に立ちたいと常に思っている人には効果的な作戦だと私も思う。その分、自分を卑下しなければならなくなり、自分の心はどんどんする減っていくことにもつながる。
それも満は、自分や子どもを守るためにその姿勢を常に崩すわけにはいかなかった。しかし、第4話では、強かったみちるが弱った姿を見せることに。馬鹿なふりをすることや女の子としての武器を最大限に生かしてきたみちるは、誰かにこき使われる人生に絶望さえ覚えていた。
かわいい面も、強い面も、ちょっと怪しい面も、すべてみちるであるという松岡の表現力はさすがとしか言いようがない。今後、みちるが松岡によってどのようなキャラクターに成長してくか楽しみである。
◆フィクションだから許される新しい家族の形
「不倫はいけないこと」というのは誰もが知っているし、すべてを失うことだってある。それでも減らないのは、なぜなのか考えてもきっと迷宮入りだ。
本作の感想を見ていても、「不倫」という部分に嫌な印象を抱いている人をちらほら見つけた。そう、それが現実であれば、私もその意見に賛成なのだが、本作はフィクションなのだ。
そのフィクションのなかで、制作側がこれでもかとおもしろいストーリーやキャラクターを作り上げているのだから、視聴者としてもそれを気軽に楽しむべきなのだ。「こんなことあるかい!」と時にツッコミを入れたり、ゆりあと一緒に優弥にときめくのも自由だ。
人は誰かの特別でありたい。でも、それを口に出せるのは一握りだ。遠くから自分を見た時、数えるくらいの人だけで、その人たちがずっと一緒にいてくれるとも限らない。そう考えれば考えるほど孤独を感じる。
でも、そんな時、ゆりあのように、引き込んでくれる人がいたらどうだろう。きっかけは不倫だったかもしれないが、他人が他人の家で助け合って生きていく。それは、当事者からしたら、「めちゃくちゃですよ!」と怒りたい日もあるだろう。きっと孤独だけは感じない。
フィクションのなかで生きている個性豊かなキャラクターたちが、毎日を明るく照らしてくれる。変な縁でつながり、絆を深めていく。それはどんな赤い糸なんだろう。最後の最後までわからないがゆりあたちの迎える結末にこれからも注目していきたい。