宇野昌磨、世界王者に芽生えた使命感「ジャンプばかりの競技界になってほしくない」理想のスケート追求し新たな挑戦へ
11月10日(金)から開催されるフィギュアスケート・グランプリシリーズ第4戦中国大会。
男子シングルには、昨シーズンの世界王者・宇野昌磨が登場する。
今年3月、日本男子史上初となる世界選手権連覇を果たし、絶対的王者としての地位を確立した宇野。
そんな世界王者が今シーズン取り組んでいるのは“表現力の向上”だ。
宇野:「もちろんジャンプもあってこそのフィギュアスケートですが、僕が小さいときに憧れていたのは、高橋大輔さんのような表現力豊かなスケーター。僕もそんなスケーターのようにジャンプと表現の両方を追求する姿を体現したいなと思いました。
(世界選手権では)もちろん満足のいく結果が出たけれど、このままジャンプだけでスケート人生が終わってしまったら嫌だなというのはすごく考えました。このシーズンオフいろいろなアイスショーなどに出て、スケートの楽しさややりがいにあらためて気づいたので、今年はそういった部分も全力で取り組んでいきたいという気持ちです」
表現者としてさらなる高みへ。世界王者になり、追う側から追われる側に立場が変わったことで、自身の考え方も変化したという。
宇野:「世界選手権で2度優勝して世界一になった今はもう引っ張っていく存在になっていると思うので、フィギュアスケートにはこういう魅力があると僕が示すことによって何か変化があるといいなという気持ちはあります。
どれだけすごいジャンパーがいたとしても、トップの選手が素晴らしい表現を見せていたら、『ジャンプだけじゃダメなんだ』と思ってくれるでしょう。そうやって一人ひとりの個性が表れたほうが、フィギュアスケート界すべての人気や今後にもうまく繋がっていくんじゃないかなと思います」
©️N.Tanaka/SHUTTERZ
世界一になったからこそ芽生えた使命感。その背景には、フィギュア競技への危機感ともいえる思いがある。
宇野:「スケート競技を終えた後のことを少し考えるようになったのが大きいかなと思います。自分が現役を辞めた後もスケートに関わっていく可能性が高いなかで、ジャンプばかりの競技界になってほしくないという気持ちもありました。
やっぱり年々フィギュアスケートの人気が少し衰退していると、僕たち全員が感じているので、先輩の方が築き上げてくれたものをちゃんと引き継いでいかなければいけない。そして、『僕は何をやるべきか』と考えたときにそう思うようになりました」
◆GPシリーズの目標は「自己満足」
後輩たちのためにも、表現を追求する姿を見せたい。そんな宇野は、今年のグランプリシリーズの目標に“自己満足”という言葉を掲げている。
宇野:「自分で自分の演技を見たときに、『やり切った』『感動した』って思える演技をこのグランプリシリーズでしたいです。それには、やっぱりジャンプと表現力の両立(が大切)。表現力というのも曖昧ですけど、僕に必要なのは表現の上手さではなく、表現に全力を注いでいる姿だと思います。
自分が本当に全力を出したかどうか、ジャンプに全力はいつものことですけれど、表現のところまでちゃんと全力を出せたかどうかが、自分が感動したり満足するポイントになるんじゃないかな。
©️N.Tanaka/SHUTTERZ
もう少し大げさに言うと、プログラムに自分の魂のようなものがちゃんと乗っかって表現できるか、感情が高ぶって表現できるかどうか。羽生結弦くんの演技は感情と魂が乗っていたからこそ誰もが感動する演技だったと思います。高橋大輔さんの演技も見ていて心をぐっと掴まれるものがありました。
僕に足りないのは、表現の上手さよりもそういうところなのかなと。淡々とやりすぎてしまっているというのは最近感じているので。今シーズンのグランプリシリーズは何度も何度も自分の動画を見直したくなるような演技をしたいです」