ヨーロッパリーグ(EL)はグループリーグの前半3試合を終了。全8グループのなかで、ブックメーカーから本命に推されているリバプール(グループE)、昨季の準優勝チーム、ローマ(グループG)、ブンデスリーガで快進撃を続けるレバークーゼン(グループH)の3チームが全勝で折り返した。

 チャンピオンズリーグ(CL)と異なるのは、各グループで2位になってもベスト16にストレートインすることができない点だ。その前に、CLからの脱落組(各グループの3位チーム)とプレーオフを行ない、そこで勝利を収める必要がある。ELの各グループ2位チームにとって、CLの各グループ3位チームは格上だ。ベスト16入りするためには、グループ首位通過を狙いたい。

 大会前の優勝チーム予想で、ブックメーカー各社からリバプールに次いで2番人気に推されていたブライトンとて例外ではない。できればプレーオフに進みたくない。だが2戦して1分1敗と、ブライトンはスタートダッシュに失敗。AEKアテネに敗れ、マルセイユに引き分け、2戦を終えグループBの最下位に沈んでいた。第3戦目となるアヤックス戦は、絶対に落とせない一戦だった。

 アヤックスと言えば最近では2018−19シーズンのCLでベスト4まで進んでいる。準決勝対トッテナム・ホットスパー戦で、逆転弾に値するアウェーゴールを許したのが追加タイムの後半50分という、劇的な惜しい敗戦だった。

 一昨季(2021−22シーズン)も決勝トーナメントに進んでいるが、その栄光について語ろうとすれば、1970−71、71−72、72−73のチャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)3連覇まで遡らなければならない。

 CLの時代に入ってからは1994−95シーズンの優勝と1995−96の準優勝になる。アヤックスが演じたその快進撃は、CL史上、最も画期的な出来事といっても過言ではない。若手選手を中心に構成された非金満クラブが、攻撃的サッカーをひっさげ、ミランやバイエルンを倒しながら、欧州の頂点まで上り詰める姿は痛快この上なかった。

【期待を裏切ったアヤックス】

 監督としてバルセロナを初めて欧州一に導いたヨハン・クライフの出身クラブとしても知られている。先述の3連覇はクライフが選手時代に達成した快挙である。当時の監督で、その後、バルサの監督を務めたリナス・ミヘルスが唱えたトータルフットボールは、近代サッカー史において、プレッシングフットボールと並ぶ2大発明と位置づけられている。

 アヤックスととともに、代表チームで言うなら1974年西ドイツW杯で準優勝したオランダ。現代のサッカーをクライフなしに語ることはできない。

 ミヘルスの弟子をクライフとするならば、クライフの弟子はマンチェスター・シティの現監督、ジュゼップ・グアルディオラだ。アヤックスとマンチェスター・シティはすなわち親戚関係のようなものだ。

 マンチェスター・シティと、ロベルト・デ・ゼルビ監督率いるブライトンもサッカー的にずいぶん近しい、兄弟のような関係に見える。両者は5日前に行なわれたプレミアリーグで直接対決していて、マンチェスター・シティが2−1で勝利を収めていた。

 それを受けてのアヤックス戦である。つまりブライトンにとってアヤックスは、ルーツ的には大先輩にあたるチームだ。両者が抽選で同じ組になると、その直接対決は欧州サッカー史に刻まれる一戦になるかと思われた。

 ところが、期待されたこの一戦は、62対38というUEFA発表のボール支配率が示すように、ブライトンの一方的な試合になった。アヤックスは現在国内リーグで7戦して1勝2分4敗。暫定順位17位と不振に喘いでいる。おそらく、チームは結成以来、最悪の状態ではないだろうか。


アヤックス戦にフル出場、勝利に貢献した三笘薫(ブライトン)photo by AFLO

 結果は2−0。三笘薫は前半42分、先制点に思いきり絡んだ。CBルイス・ダンクの縦パスを対峙する相手右サイドバックの内側で受けると、カバーに来たセンターバックに対し、縦に出ると見せかけ細かなステップを踏み方向転換。低い弾道のインステップシュートに持ち込んだ。

 相手GKが辛うじてセーブしたそのこぼれ球を、1トップ下として先発したジョアン・ペドロは押し込むだけだった。ほぼ三笘のゴール。身贔屓を承知で言えばそうなる。

【"アベック優勝"の夢】

 ブライトンは後半8分にジョアン・ペドロと1トップで先発したアンス・ファティの縦関係によるコンビネーションで加点。2−0で試合を終えた。三笘はいつもどおりフル出場。採点をするならば7だろう。

 グループBのもうひと試合、マルセイユ対AEKアテネは3−1でマルセイユが勝ったため、同組の順位は以下のようになった。

 1位マルセイユ(勝ち点5)、2位AEKアテネ(4)、3位ブライトン(4)、4位アヤックス(2)

 8グループの中で1位と4位の差が最も接近する最大の激戦区である。それでもブックメーカー各社はブライトンをリバプール、レバークーゼン、ローマに次いで優勝争いの4番手と予想する。

 それはブライトンが世の中から淡い期待を集めていることを意味している。イメージが重なるのはルイス・ファン・ハールが率いた1990年代のアヤックスだ。CLを制したのは1994−95シーズンだが、前兆はその3シーズン前(1991−92シーズン)に現れていた。ヨーロッパリーグの前身に当たるUEFAカップを制し、それを基点に快進撃を開始した。クライフ監督率いるバルサがチャンピオンズカップで初優勝を飾る1週間前の話でもある。

 1991−92シーズン、バルサとアヤックスは、チャンピオンズカップとUEFAカップで"アベック優勝"を飾っていた。同様に、同じテイストを持つふたつのチーム、今季のマンチェスター・シティとブライトンの関係はどうなのか。期待したくなる。

 アヤックスが欧州一に輝いた当時の左ウイングは、マルク・オーフェルマルスだった。右利きの小柄な左ウイングで、俊敏で三笘同様、縦に抜けるフェイントに一日の長があった。中盤選手然とした頭脳的なプレーも三笘似だった。

 次節は11月9日(現地時間)で、アムステルダムで行なわれるアヤックス戦になる。オーフェルマルス然とした三笘を見たアヤックスファンの反応はいかに。