出雲駅伝で完敗の青学大は箱根で巻き返せるか 課題は「ゲームチェンジャーの不在」も総合力は厚みを増している
今シーズンの大学三大駅伝の初戦、出雲駅伝で青山学院大は5位に終わった。
2014年からの10年間における青山学院大の三大駅伝での優勝は、箱根駅伝が6回、出雲が3回、全日本大学駅伝が2回と、大学長距離界を席巻する存在だった。だが、2022年1月の箱根駅伝の総合優勝を最後に三大駅伝では4大会連続で無冠が続く。
また、この10年間で5位以下の成績をとったのは、2019年の出雲駅伝(5位)以来でたった2回しかない。隆盛を取り戻した駒澤大の勢いに、すっかり押されている形だ。出雲で敗れたあと、青学大の原晋監督は言葉少なに完敗を認めていた。
優勝候補筆頭だったのが昨年度の大学駅伝三冠校・駒澤大で、その対抗には、吉居大和、駿恭兄弟ら主力が充実している中央大が挙がっていた。
もちろん青学大にもチャンスがなかったわけではない。だが、「ひとつのブレーキも許されない」「後手に回るのではなく、前へ前へ攻めていくレースを」と原監督が話していたように、苦戦は必至だった。
出雲駅伝の前日会見で、今季のチーム状況を語る原晋監督 photo by Wada Satoshi
昨年度は4年生が主体で、今季は三大駅伝経験者がごそっと卒業し、経験不足が懸念されていた。
「(出雲のメンバー6人のうち)佐藤一世(4年)以外では山内健登(4年)が全日本を走っていますが、その他は学生三大駅伝に初出場となるので、多少の不安はあります」と原監督もその点を認めていた。
もっとも、「高校時代の実績、あるいはトラックの主要大会での活躍、それと練習消化率を見れば、しっかり走ってくれるもんだと期待しております。あとはもう祈るのみ。手ごたえは十分ございます」と、言葉は続いたのだが......。【課題はゲームチェンジャーの不在】
とくに、今回アンカーを任された鶴川正也(3年)は、たびたび今季のキーマンに名前が挙がる。高校3年時に全国高校駅伝1区区間賞の実績があり、関東インカレ(2部)では5000mで2年連続日本人トップ。箱根予選会日本人トップとなり話題のスーパールーキー、東京農業大の前田和摩にも競り勝っている。
鶴川自身、「僕が大エースになって、駅伝ではチームの流れを変えたい」と口にしていた。
しかし、出雲では、1区の野村昭夢(3年)がトップと39秒差の7位と出遅れると、後手に回る展開に。2区の黒田朝日(2年)、4区の山内健登(4年)が区間賞の走りを見せたものの、5区に抜擢された1年の鳥井健太は区間10位と振るわず。
結局、鶴川にタスキが渡ったのは、先頭の駒澤大から2分13秒遅れの4位で、アンカーまでに駒澤大に先行するのが優勝の条件とされていたが、その展開に持ち込めなかった。
そして、頼みの鶴川も区間8位と力を発揮できず、ひとつ順位を落として5位でレースを終えた。原監督が口にした"多少の不安"が表出した結果になった。
出雲駅伝でアンカーを務めた鶴川正也(3年)。学生三大駅伝デビューはほろ苦かったが、今季の青学大のキーマン photo by Wada Satoshi
経験不足に加え、大きくレースの流れを変えるゲームチェンジャーの存在も勝負の行方を左右した。青学大がタイトルを手にしてきた時には、多くの場合、複数のゲームチェンジャーがいた。
駒澤大には、篠原倖太朗(3年)、佐藤圭汰(2年)、鈴木芽吹(4年)といったエース格が、流れを変える力がある。今回は独走だったが、3選手ともきっちりと区間賞の走りを見せている。
また、2位、3位に躍進した創価大、城西大は、それぞれ3区を担った留学生がゲームチェンジャーの役割を果たし、その勢いを途切れさせず、あとの日本人選手もきっちりとつないだ。
一方、今回の青学大では、2区の黒田がその萌芽をのぞかせたものの、勢いが続かなかった。距離が短い出雲駅伝では、凸凹が大きいと優勝戦線に戻るのがどうしても難しい。
駅伝のタイトルから遠ざかっている青学大は、はたしてかげりが見えているのか。そう判断するのは早計だろう。
たしかに、かつての黄金期に比べればインパクトに劣るが、評価軸を少し変えて見てみれば、総合力という点では年々厚みを増している印象さえある。
「青学メソッドで、きちっと成長する仕組みが青学大にはあると感じています」と原監督が言うように、5000mで学生トップランナーとされる13分台は22人。この数字は駒澤大の17人を上回る。
著者調べでは、1万m28分台ランナーも14人と、駒澤大の10人を上回る(ちなみに、中大は16人とさらに上をいく)。
さらに、部員45人の5000mの平均タイムは14分2秒だという。これは驚くべき記録と言っていい(5000m13分台であれば、一部の強豪校を除けばレギュラークラスと言える。もっとも箱根の10人に入るのは20km超を走れなければならないが)。
かつては13分台、28分台を10人そろえるのが夢のようだったが、10人どころではない。今後の記録会でその人数、平均タイムはさらに伸びてくるだろう。
今、スポーツ界では"オープン・シェア"という考えが浸透しつつある。たとえば、野球のMLBで活躍するダルビッシュ有投手(パドレス)は、自身の投球術をSNSなどで惜しみなく発信している。
それと同じように、原監督も、青学メソッドをオープン化している。今年9月にも厚底シューズ対応のトレーニング本を発売したばかりだが、青学メソッドをしっかりと選手たちと共有できているからこそ、これほど層の厚いチームに仕上がったと言える。仮に20人、30人がタスキをつなぐ駅伝があれば、青学大は優勝候補の筆頭に挙がるだろう。
そんな机上の空論はさておいて、調子のよし悪しの見極めが肝心となるが、区間数が増えるほど層の厚さは武器になる。もちろんそれだけでは勝つことはできない。あとは、ゲームチェンジャーとなりうるエース級の選手の台頭が待たれる。
出雲の敗戦も、箱根や全日本を見据えれば無駄ではなかったはずだ。これまで三大駅伝の経験者は、出雲を走った佐藤と山内に加え、志貴勇斗(4年)、太田蒼生(3年)、白石光星(3年)、田中悠登(3年)、若林宏樹(3年)の7人しかいなかったが、今回で4人がプラスされた。ほろ苦いデビューになった者もいたが、膿を出せたとポジティブに捉えることもできる。
収穫もあった。黒田の快走。そして、山内は1年時の全日本では6区9位で4人に抜かれ優勝争いから後退した経験があるが、今回の出雲でその失敗を脱却する走りを見せた。全日本と箱根でも当然キーマンになってきそうだ。
史上初の2年連続三冠へ、駒澤大が順調に一歩目を踏みしめたが、青学大も黙ってはいないだろう。今回と同じく出雲が5位だった4年前のシーズンは、全日本で2位と巻き返し、箱根駅伝では2年ぶりの総合優勝を果たしている。その再現となるか。