旗手怜央が明かす移籍問題の真実「ステップアップに懸けていた」 この夏は「期待と失望の繰り返しだった」
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今夏の移籍が噂された旗手怜央だが、2028年まで契約を延長。今季セルティックでの3シーズン目がスタートした。オフシーズンの心境と、監督から与えられた今シーズンの新しい役割について語った。
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旗手怜央はセルティックと契約延長。10月は日本代表でもプレーした photo by Sano Miki
セルティックからリリースがあったため、すでに周知の人もいるかもしれないが、セルティックとの契約を2028年まで延長した。
今は、自分の思惟や感情もかなり整理できていて、セルティックと最高のサポートをしてくれるファン・サポーターのために、全力でプレーしようと考えている。
僕自身は取り繕うつもりはないので、真実を綴ると、今夏のステップアップに懸けていた。だから、移籍市場が閉まるまでは、毎日のように代理人から届く情報に一喜一憂し、期待と失望を繰り返していた。
それは日々、何か見えないものと戦っているような感覚だった。
川崎フロンターレでプレーしていた時は、国内での移籍を考えたことはなかったから、全く感じなかったけれど、ヨーロッパに来てからは、改めて選手=商品であることを実感する。買主がいなければ、商品である自分を購入してもらうことはできないし、また商品価値=値段によっても、売買には大きな影響を及ぼす。
マーケットなんて言われているように、移籍については、クラブという買い手と売り手があって、あくまで商品でしかない選手は、「自分ではどうにもできないところ」と「自分でどうにかできたところ」の2つがあるように思う。今回、ステップアップできなかったことで、「自分でどうにかできたところ」を、自分なりに振り返り、整理した。
それでいうと、直近のプレーは、自分にできたところの一つだっただろう。
移籍市場が閉まる期日までのプレーが良かったからといって、それで移籍先が決まるほど甘い世界ではないことはわかっている。とはいえ、その期間も、もっと自分らしいプレーを見せられたはずだ。
ただし、そこについては8月13日のアバディーン戦(スコットランドリーグ第2節)で負傷してしまい、プレーでアピールすることはできなかった。大事な時期に負ったケガも、ただの不運として片づけるのか、それとも管理不足と捉えて、自分に矢印を向けるのかでは、今後の成長曲線は大きく変わってくる。だから、自分は後者と考え、そこでも自分の力不足を省みた。
また、ここが最も、今後の自分が目を向けなければならないポイントだが、値段に関係なく、購入したいと思ってもらえる選手=商品にならなければいけない。
獲得候補としてリストアップされたとしても、必ずほかの選手と天秤に掛けられている。そこには移籍金や条件といった数字も含まれているだろうが、身長や体格といったものも判断基準の1つになっていただろう。
そう考えた時、自分には身長や体格といった数字的なものを補う、もしくは超えるほどの能力が足りていなかった。それだけに、ストロングといえるセールスポイントを、自分はもっと、もっと追求し、磨いていく必要がある。
【トップ下での位置でのプレー】セルティックで迎える3年目の2023−24シーズン、自分に課すのは、昨季以上に目に見える数字=結果と、周囲と違いを見せるパフォーマンス=成果になる。
今季は、そこに挑戦する環境と舞台も与えてもらっている。
ブレンダン・ロジャーズ監督からは、流動的に動いてサイドにポジションを移すのではなく、常に真ん中、トップ下の位置でプレーすることを要求されている。また、ゴール前で勝負するプレーも求められている。ゴール前にフォーカスを当ててプレーする。自分にとって、ボランチを務める機会が多かった昨季とは、大きな違いだ。
自分のなかでも、トップ下は攻撃の中心と捉えている。それだけに自分のプレーの善し悪しで、今季のセルティックの結果が、大きく変わっていくという責任をより一層、認識している。
リバプールやレスターなど、プレミアリーグのクラブを指揮した経験もある監督から、そうした期待を寄せられていることはうれしく感じている。誰が監督になっても、起用される、評価される選手は、自分が目指している1つの指標でもある。
ケガから復帰した9月16日のダンディーFC戦(第5節)の前にも、ロジャーズ監督からの信頼を感じる機会があった。
ダンディーFC戦を終えたミッドウィークの9月20日に、今季のUEFAチャンピオンズリーグ初戦となるフェイエノールトとの試合を控えていた。フェイエノールト戦でのプレーを視野に入れてトレーニングをしていた僕は、その前にも実戦経験を積んでおきたいと考えていた。
トレーナーにもその旨を話していたところ、ロジャーズ監督に再び呼ばれ、こう相談された。
「フェイエノールト戦では先発で起用することを想定している。そのためにはダンディー戦に出てほしいのだが、先発で出るか、途中から出るか。コンディションを上げるうえでは、どちらが望ましいんだ?」
最終的な判断(後半15分から途中出場)は監督が下したとはいえ、自分のコンディションを考え、相談してくれた行為や行動に、アンジェ・ポステコグルー前監督とはまた異なるアプローチの仕方と、信頼を感じた。
【自分自身の数字も求めていく】そのロジャーズ監督のもとでスタートした2023−24シーズンは、リーグ連覇中とあって、国内では常勝を義務づけられ、負けることが許されないチームでプレーしている難しさも感じている。新しいサッカーを模索しながら、引いて守備を固めてくる相手に対してどう崩していけばいいのか。その道をトップ下の位置で、自分が見つけ、チームに示していかなければならない。
昨季リーグ得点王になった(古橋)亨梧くんも、今季は前線でボールを受ける回数が少ないため、中盤に降りてくる機会が増えているように、亨梧くんが生きる形を、自分が確立しなければならない。自分が亨梧くんの近くでボールをもらえた時には、チャンスを演出できているだけに、亨梧くんも自分も下がらない形を構築して、ゴール前で勝負する回数を増やしていく必要があるだろう。
トップ下としては、自分自身の数字も求めていかなければならない。その追求が、ストロングといえるセールスポイントを作っていくことになると信じている。
ケガの影響もあり、日本代表の9月のドイツ戦、トルコ戦に招集されることはなかったが、6月のエルサルバドル戦、ペルー戦、10月のカナダ戦、チュニジア戦での活動に参加して、強烈な個の必要性はより実感した。
(三笘)薫にはドリブル、(遠藤)航くんには強さという明確な特徴があるように、日本代表に選ばれる選手たちには、それぞれに自分の存在価値を高める個性が備わっている。今季のセルティックで求められている役割を全う、そしてものにすることで、自分自身の新境地が拓けると思っている。
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旗手怜央
はたて・れお/1997年11月21日生まれ。三重県鈴鹿市出身。静岡学園高校、順天堂大学を経て、2020年に川崎フロンターレ入り。FWから中盤、サイドバックも務めるなど幅広い活躍でチームのリーグ2連覇に貢献。2021年シーズンはJリーグベストイレブンに選ばれた。またU−24日本代表として東京オリンピックにも出場。2022年3月のカタールW杯アジア最終予選ベトナム戦で、A代表デビューも果たした。2022年1月より、活躍の場をスコットランドのセルティックに移して奮闘中。