コンサドーレ札幌指揮官は大敗でも胸を張る 会見であえて言及した「頭にいれてほしい」こと
10月21日、横浜。北海道コンサドーレ札幌は、王者、横浜F・マリノスの本拠地に乗り込み、4−1で敗れていた。スコア上は大敗だった。
「4−1で敗れた後で、多くを語るべきではありません。しかし、今日はいくつか話そうと思います。まず敗れましたが、我々はすばらしいゲームをやってのけました。84分に2点目をとられるまで、横浜を上回っていました。しっかりと狙いのある攻撃で」
試合後、札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、そう言って胸を張った。
事実、どちらが優勝争いをしているホームチームかわからないような内容で、札幌が試合を優勢に進めていた。能動的にボールを運び、敵陣に迫ってチャンスを作り出し、「サッカー」で横浜FMを凌駕していた。ボールと人との連動が小気味よく、実に爽快だった。
札幌は敗れたが、4−1というスコアは大げさだった。トレーニングで培ったボールゲームの極意が、試合で出せていた。いつどこに走って、いつどこにボールを出し......という筋道が見えた。その回路があること自体、すばらしい実りと言える。
<勝つか、負けるか>
そろそろJリーグも、違う物差しを持つべき時が来ているのではないだろうか。
ケヴィン・マスカット監督(横浜F・マリノス)と握手をするミハイロ・ペトロヴィッチ監督(北海道コンサドーレ札幌)photo by Yamazoe Toshio
――今日も敗れたことで、J1残留を決められませんでしたが?
試合後の会見では、奮戦を考えたら厳しい質問が飛んだ。ペトロヴィッチ監督は通訳の話を聞きながら、どこか自重を促すように低い声で答えた。
「今日のような試合を続けることができれば、いつかは幸運にも恵まれるでしょう。楽観的なわけではなく、我々はそうやって戦わないといけないし、戦えるはずです。ただ、札幌は25年くらいの歴史のなか、昇格してもすぐに降格し、4,5年後に再び昇格し、ということを繰り返してきました。それが今はJ1で7シーズン目。コンスタントにJ1で戦うことが、そもそも簡単ではないのです」
財政的に恵まれているわけではない札幌は、主力を毎年のように引き抜かれるなかでも、その都度、台頭する選手を輩出してきた。ひとりの指揮官として、これは至高の成果と言える。横浜FMのケヴィン・マスカット監督が、ある意味では名将アンジェ・ポステコグルー前監督の遺産を使い果たし、スピードとパワーに特化したチームでタイトルを勝ち取った成功よりも、それは小さいと言えるのか。
【弱者には弱者の作法と価値観が】
「田中(駿汰)、小柏(剛)は大卒、岡村(大八)はJ2群馬、馬場(晴也)もJ2東京ヴェルディ、中村(桐耶)は(札幌の)ユースからJFLのHonda。浅野(雄也)は(サンフレッチェ)広島から来たが、ほぼベンチメンバーだった。そういう選手が多いなかで、王者マリノスと渡り合える。そこを頭に入れてほしいし、努力してすばらしいプレーを見せた彼らを、私は誇りに思う」(ペトロヴィッチ監督)
どんな戦力(予算規模)で、どんな戦いを見せているのか。それを踏まえて、チームをジャッジすべきなのだ。
たとえばスペインのラ・リーガでは、昨今、ジローナ、ラージョ・バジェカーノ、オサスナがセンセーショナルな攻撃的プレーで好成績を収めている。メディアやファン・サポーターは、ビッグクラブにも互角のサッカーを挑み、ボールを持って攻める姿勢を礼賛。クラブもそれを活力に、輝きを増す。ビッグクラブにもひと泡吹かせてやる、という気概が、ラ・リーガ自体の活気になっている。
しかし、「優勝を!」とは本気では考えていない。期待を抱くのは人情だが、長いシーズンを通すと、戦力差が出ることを承知しているのだ。
一方でビッグクラブは、どう勝つかが問われる。何の手も打てずに押し込まれて、カウンター一発でどうにか勝ちを拾うという、無様な真似を見せた時、番記者やファン・サポーターは不満を示す。勝利のみに満足しない。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」は勝負の原則だが、弱者には弱者の、強者には強者の作法が求められ、価値観も違う。
だがJリーグは、プロ野球の影響もあるのか、「どのチームも優勝できる」という意識が強い。もちろん、その可能性があるからこそエンターテイメントとして成立しているのだが、現実には優勝を狙える戦力規模のチームは限られているのだ。
札幌の場合、シーズン中も頭角を現した選手は狙われる。今シーズンも、攻撃の中心的存在だった金子拓郎が7月にNKディナモ・ザグレブへ移籍。その穴を埋めるのは簡単ではない。
「ここ最近は、いいゲームをしながら、結果が出せていません。湘南(ベルマーレ)に敗れ、名古屋(グランパス)に引き分け、柏(レイソル)に敗れ、そして横浜F?にも負けています。しかし今日のように、十分に狙いを出せていますし、(内容では)上回っていました。結果に対する責任は、すべて監督にありますが......」
ペトロヴィッチ監督はそう言うが、そのジレンマはサガン鳥栖にも当てはまる。川井健太監督が率いる鳥栖も、ほとんどの選手がJ1でレギュラーとしてシーズンを通して戦ったことがない。にもかかわらず、小野裕二、長沼洋一など多くがキャリアハイの数字を記録。J1最下位の予算規模で、順位も中位に位置している。プレーの仕組みをチームに植えつけた成果で、上位チームにも真っ向勝負を演じてきたのだ。
以前、ペトロヴィッチ監督は試合後の会見で、わざわざ鳥栖に言及したことがあった。川井監督にシンパシーを感じているのは、必然と言えるだろう。
勝敗だけでなく、プレーそのものを楽しめるか。その醍醐味を知ることで、Jリーグも次のステージに進むことになるはずだ。