チーム事情から見るドラフト戦略2023〜阪神編

 プロ野球の一大イベント、ドラフト会議が10月26日に開催される。今年の傾向を見ると、今までにないくらい大学生投手に逸材が集まっている。数年後のチームの運命を決するドラフト。各球団どのような戦略に出るのか。磐石の投手陣を武器に、18年ぶりにリーグ優勝を成し遂げた阪神のドラフト戦略はいかに。


高校ナンバーワン投手の呼び声高い大阪桐蔭・前田悠伍 photo by Taguchi Yukihito

【投手陣をさらに強固に】

 83勝53敗5分(勝率.616)──2位の広島に11.5ゲーム差をつけるなど、圧倒的な強さでセ・リーグを制した阪神。その原動力となったのは、12球団ナンバーワンのチーム防御率(2.66)を誇った投手陣であることは間違いない。
 攻撃面でも、チーム打率はリーグ2位タイ、本塁打数は巨人の約半分の84本なのに、555得点は断トツの1位。いかに効率よく、タイムリーの打てる打線だったかがわかる。

 チームが成熟している時に、あえて強い部分を強化し、充実させる。チーム力をより盤石なものにするのが、本当の意味での"補強"である。それができるのが、今年の阪神だ。

 西勇輝、伊藤将司、才木浩人、村上頌樹、大竹耕太郎らの先発陣に、岩崎優、岩貞祐太、及川雅貴、加治屋蓮、石井大智といったリリーフ陣が、圧巻の仕事ぶりを見せたが、これでも青柳晃洋、湯浅京己は故障や不調でシーズンをフルに戦えなかったのだから、阪神投手陣の層の厚さには驚くばかりだ。

 若手も、今季2年目の桐敷拓馬、ルーキーの門別啓人の両左腕が一軍定着をうかがっている状況を鑑みると、そのレベルを意識しながらのドラフトになろう。

 これほどハイレベルな阪神投手陣でも、今年の大学球界の快腕、剛腕たちなら勝負になりそうだが、ウェーバーとなる2位指名が11番目の阪神にとっては、1位での競合は避けたい。

 他球団が"大学生投手"になびいている時に、高校ナンバーワン投手の前田悠伍(大阪桐蔭高/180センチ・77キロ/左投左打)にいくか、2部リーグだったため評価が割れている印象の西舘昂汰(専修大/188センチ・92キロ/右投右打)にいくか......。

"オールマイティータイプ"の前田は、高校生でも限りなく即戦力に近い左腕である。あとは元気に投げ続けられる心身の強さが備われば、1年目から戦力になる可能性は高い。

 西舘は、本人の努力次第で大学の大先輩である黒田博樹(元広島など)に近づける素質を持ち合わせている逸材だ。

【地元・関西の楽しみな逸材】

 関西の大学では、上田大河(182センチ・86キロ/右投右打)、高太一(180センチ・80キロ/左投左打)の大阪商業大コンビに目がいく。

 ピンチになるほどギアが上がる上田の投げっぷりには、ある種の"殺気"が漂い、まだ大器の全容を見せていないが、高のクロスファイアーはプロでもちょっと見ないえげつなさである。成功体験を積んで、自らのポテンシャルの高さに気づいた時の"変身"に期待している。

 また秋のリーグ戦最終週の試合でノーヒット・ノーランを記録した谷脇弘起(立命館大/185センチ・85キロ/右投左打)は、140キロ台後半のストレートとバリエーション豊富なスライダーで、高校時代(那賀高)時代は和歌山大会の奪三振記録をマークしたという。こういうタイミングで大仕事ができるのは「持ってる」選手と考えていい。常勝タイガースには、運を持った存在は必須条件だ。

 甲子園を沸かせたスターも、ファンとしては望むところだ。できれば、長距離砲がほしい。

 佐倉侠史朗(九州国際大付高/内野手/184センチ・100キロ/右投左打)は、本質的にはライナー性の打球中心の中距離ヒッターかもしれないが、ファンを魅了する独特のムードがあって人気者になれるのではないか。

 多少詰まっても、バットの先でとらえても、スタンドに放り込んでしまう大砲なら仲田侑仁(沖縄尚学高/内野手/186センチ・96キロ/右投右打)。雄大な体躯と構えた時の姿にスケールの大きさが伝わってくる。

 今夏の甲子園は1試合だけだったが、北川陸翔(立命館宇治高/外野手/184センチ・90キロ/右投左打)の打球スピードも魅力いっぱいだ。鍛え甲斐のありそうな堂々の体つきで、バットを振り込んで打球が上がるようになった時、長距離砲誕生の夢が叶う。