福田正博 フットボール原論

■サッカー日本代表はカナダ、チュニジアと連勝。成長と強さを見せつけた。福田正博がその強さの要因を解説。また、ここからさらに世界の第一線に出るために必要な課題も挙げた。


冨安健洋はカナダ戦、チュニジア戦で圧倒的な存在感を放った

【強さを感じさせた選手層の厚さ】

 強い! お世辞抜きにサッカー日本代表は強い。逆にピークが来るのが早すぎないかと心配になるくらいだ。

 カナダに4−1、チュニジアに2−0で連勝。9月の欧州遠征でドイツ、トルコを破った力を、国内で行なわれた今回もしっかりと見せてくれた。

 単に白星を重ねているだけではなく、強さは内容にも表れている。その最たるものが、選手層の厚さだ。今回は三笘薫(ブライトン)、鎌田大地(ラツィオ)、堂安律(フライブルク)といった選手たちが招集されなかったなかで、代わりに出場機会を手にした選手たちが結果を残した。

 過去を振り返れば、固定メンバーで戦えれば強さを発揮したものの、欧州でプレーする主力選手がメンバーから外れるとチーム力はガクッと落ちた。しかし、いまの日本代表にはそれがない。攻撃的なポジションは誰が出場してもチームとしてしっかりと機能し、結果を出している。だからこそ、余計に強さが際立っている。

 攻撃的なポジションと限定したのは、守備には不可欠なピースがあるからだ。中盤の遠藤航(リバプール)と守田英正(スポルティング)、センターバック(CB)の冨安健洋(アーセナル)と板倉滉(ボルシアMG)の4選手が揃い踏みした時は、守備はもちろんのこと、守備から攻撃へのつながりを含めて抜群の安心感や安定感がある。

 もちろん、強化試合は試合間隔などの理由もあって、この4選手がすべての試合に出場するわけではない。それでも核となる選手を出しつつ、そのパートナーになる選手を入れ替えながら戦っているのは、森保一監督の彼らへの信頼度の表れでもある。

【冨安健洋の圧倒的な存在感】

 その守備の核となっている選手のうち、圧倒的な存在感を放っているのが冨安だ。チュニジア戦で象徴的だったのは、彼のDFラインの設定だった。

 守備の選手というのは相手にDFラインを突破されることを恐れ、ボールを持たれたらDFラインを下げるものだ。しかし、冨安の場合は、よほどのことがない限りラインを下げない。つねに前に前にと押し上げていた。

 この冨安の攻撃的な姿勢は相手選手にプレッシャーをかけたが、味方の選手も対応できないシーンがあった。ハーフウェイラインから自陣に入ったあたりで相手にボールを持たれた時、日本代表のサイドバック(SB)は何度となく下がろうとしたが、CBの冨安がラインを下げないのを見て慌てて高い位置にポジションを戻していた。

 SBだけではない。CBのパートナーの板倉が冨安のライン設定に取り残されることもあった。ブンデスリーガの強豪でプレーし、高い経験値を持つ板倉でさえ戸惑うほど、冨安は強気にラインをコントロールしていた。

 冨安がDFラインを高く設定できるのは、スピードに自信があるからにほかならない。9月のドイツ戦ではFWレロイ・サネが圧倒的な速さで日本代表の最終ラインを突破したが、冨安がそこに追いついてシュートブロックした。あのスピードがあるからこそ、高いDFラインを設定できるのだ。もちろん、その前段階で潰しに行くという遠藤と守田との信頼関係もある。

 日本代表が世界の第一線に躍り出るためには、ゴール前で勝負をわけるポジションのセンターフォワード(CF)、CB、ゴールキーパー(GK)が、長年課題とされてきた。そこに冨安という世界に通じるCBが育った。

 CFは上田綺世などが成長しつつあるが、まだ世界レベルには遠い。ただ、CFに関しては強豪国でも育てるのに苦労している。それを踏まえて言えば、CFがいなくてもゼロトップなどの戦い方で対応できる可能性もある。

【GKに期待すること】

 そこで残る大きな課題はGKだが、チュニジア戦では鈴木彩艶(シント・トロイデン)が出場した。昨夏のE-1選手権でプレーしているが、多くの主力メンバーのなかでプレーした今回が実質的な代表デビュー。そんなチュニジア戦で、21歳とは思えない落ち着きで自分の持ち味を十分に発揮した。

 鈴木彩艶の特長は、プレーエリアの広さと、なんと言ってもフィジカルの圧倒的な強さにある。歴代の日本代表GKは、シュートストップや足元の技術に不安はなかったが、長身で体格のしっかりしたGKには恵まれなかった。そのため強豪国のFWとゴール前で肉弾戦になった時に、当たり負けしない高さと強さを持ち合わせてはいなかった。

 しかし、日本代表がW杯でベスト8以上を達成するためには、失点を防ぐところで重要な役割を担うGKのゴール前での強さが不可欠だ。ハイボールに対してGKが前に出て防ぐ時、パンチングをするのか、キャッチをするのかによって、試合の流れは大きく変わる。

 これまでの日本代表だとパンチングでボールをはじき出し、それをまた相手に拾われて波状攻撃を受けるケースが少なくなかった。だが、もしこの時にGKがキャッチできて相手の攻撃を終わらせれば、味方選手たちは一息つき、ポジショニングを仕切り直すことができる。

 ベルギー代表のロメル・ルカク(190cm、93kg)のようなFWを相手にしても、ボールをしっかりキャッチできるポテンシャルを持つGKとして、190cm、91kgの体格を持つ鈴木彩艶には大いに期待している。

 ただ、彼がここから日本代表の守護神になれるかは、安定したプレーができるかが課題だろう。積極的に前に出ていくプレーが魅力ではあるが、シント・トロイデンでは時として前に出るばかりになって失点を重ねるケースもある。

 前に出る、出ないの判断のクオリティをどこまで上げていけるか。それができるようになれば、欧州で大きなステップを踏んでいけるはずだし、それを実現できるだけのポテンシャルを持っている。彼が成長しながら得る経験値が、ここからの日本代表をさらに成長させていくと期待している。

【新たな組み合わせでさらに進化できるのでは】

 日本代表は11月からW杯アジア2次予選が始まり、来年1月にはアジアカップが控える。海外組が増え、代表活動に選手を呼ぶには各クラブとの綱引きもあるため、つねにベストメンバーが組めるとは限らない。

 ただ、ここまでの日本代表の戦いぶりを見ていると、そうなったとしても不安はない。それどころか新たな組み合わせによってさらなる進化を遂げるのではと期待したくもなる。まだまだ成長過程にある日本代表がどこまで大きく育つのか、しっかりと見守っていきたい。

福田正博 
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。