「うまいサッカーをするチームはうまいサッカーをするチームに弱い」とは、サッカー界に古くから伝わる格言だ。自分たちがやりたいサッカーを上回るサッカーを相手にされると、思わずリスペクトし、見入ってしまう。必要以上にやられた感を味わい、戦意を減退させる。

 マンチェスター・シティ対ブライトン。両者は同系のチームだ。雑な表現だと承知で言わせてもらえば、パスをつなぐサッカーである。昨季、そのサッカーで欧州一に輝いたマンチェスター・シティは、ブライトンにとって目指すべきチームと言える。

 前半の戦いには両者のそうした関係が鮮明に現れていた。ブライトンはマンチェスター・シティにゲームを完全に掌握されてしまった。

 ブライトンの左ウイング三笘薫はこの試合に先立ち、チームとの契約を延長させていた。年俸が大幅に上昇したことで、移籍金という名の違約金も上昇。移籍先は金満なビッグクラブに限られることになった。もう後戻りはできない。大袈裟に言えば、退路を断つ決断をしたことになる。

 そうした意味でもこの試合は注目された。マンチェスター・シティを相手に活躍することは、移籍金が高額に跳ね上がっても、移籍先があることを意味する。相手のマンチェスター・シティも、可能性で言えば候補のひとつになる。ジョゼップ・グアルディオラ監督が7月に来日し、横浜F・マリノスと試合をした際、その試合後の会見で、聞かれもしないのに三笘の名前を出し、いい選手であると讃えていたことを思い出す。

 
マンチェスター・シティ戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)

マンチェスター・シティの左ウイングと言えば、昨季はジャック・グリーリッシュ(イングランド代表)が一番手だった。他の選手を大きくリードしていたが、今季はレンヌから獲得したジェレミー・ドク(ベルギー代表)と出場時間をシェアする恰好になっていて、この日は、そのガーナにルーツを持つ21歳が先発を飾っていた。

 開始早々の7分、ドクはさっそく見せ場を作った。左サイドで対峙するパスカル・グロス(ドイツ代表)と1対1になるや、睨むような態勢で仕掛けていった。そして緩急を使いながら縦突破を決めると、ゴールライン際からマイナスのボールを折り返し、先制弾となったフリアン・アルバレス(アルゼンチン代表)のゴールをお膳立てした。

【三笘の活躍でブライトンのペースに】

 三笘も、負けるわけにいかないとばかりに見せ場を作る。12分、MFカルロス・バレバのパスを左サイドで受けると、縦突破を開始。ドリブルと切り返しで、フィル・フォーデン、ジョン・ストーンズ(ともにイングランド代表)を次々にかわしながら、ゴール前に進出した。得点こそならなかったが、これがマンチェスター・シティの紅白戦なら、その一員として十分にやっていけることを証明するようなアクションだった。

 もちろん、W杯でイングランド(前回ベスト8)と対戦した場合でも同じことだ。フォーデン、ストーンズに加え、この試合の後半、三笘はイングランド代表の右SBカイル・ウォーカーも鮮やかに抜き去っている。W杯の準々決勝以降の戦いでも十分活躍できそうな、ワールドクラスの選手であることを証明した。

 代表強化という視点に立っても意義深いプレーだった。マンチェスター・シティ戦に万全な状態で臨み、活躍することは、2026年6月から逆算すれば、カナダ戦、チュニジア戦で活躍することより、はるかにストーリー性の高い、貴重なエピソードになる。

 だが、三笘の活躍も束の間、ブライトンはパスミスをさらわれアーリング・ハーランド(ノルウェー代表)に追加点を許してしまう。さらにその4分後には、ドクにこの日4度目の縦突破を許していた。ブライトンはいいところなく前半を終えた。

 だが、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督は強気だった。当たり前のことだが、大敗を恐れ、守りを固めるような真似はしなかった。目には目をとばかり、怯まずに打って出た。

 今季のマンチェスター・シティは昨季ほどではないのか。それともブライトンが昨季以上に地力をつけているのか。

 後半、形勢は一変。ブライトンのパスワークをマンチェスター・シティが見入る恰好になった。「うまいサッカーをするチームはうまいサッカーをするチームに弱い」は、立場を入れ替えて証明されることになった。

【後半は両軍ナンバーワンの出来】

 三笘の活躍とそれは密接に関係した。後半3分、4分と目を惹くドリブルを見せると、ブライトンはチームとしての自信が深まったのか、そのパスワークは一段と滑らかになった。

 後半18分、三笘はイングランド人GKジェイソン・スティールのパスを自軍の深い位置で受けると、ピッチの中央を切り裂くようにドリブル。30メートル強の縦突破を決めると、抜かれたマヌエル・アカンジ(スイス代表)は腕を引っ張る反則で止めるしかなかった。毎度のことながら、三笘は前半より後半のほうが活躍する。後半になって勢いが落ちたドクとは対照的だった。

 後半24分には決定的なチャンスが到来した。アンス・ファティ(スペイン代表)のパスを受けるやGKステファン・オルテガと1対1になる。ここは決めたいシーンだったが、シュートは無情にもGKを直撃した。

 ハイライトは後半28分に訪れた。アンス・ファティからパスを受けると、対峙する右SBカイル・ウォーカー(イングランド代表)を軽やかなフェイントで手玉に取ると、縦に進出。そのマイナスの折り返しはアカンジに引っかけられたものの、そのこぼれをアンス・ファティが押し込み、1点差とするゴールをお膳立てした。舞台の主役は気がつけばドクから三笘に入れ替わっていた。

 ブライトンペースは最後まで続いた。スコアは2−1のまま動かなかったが、ブライトンにとっては今後に希望が持てる、悪くない終わり方だった。三笘にとってはマンチェスター・シティの一員としても十分通用することを証明した試合と言える。採点するならば7弱。後半だけなら両軍のなかでナンバーワンの出来映えだった。

 そのドリブル&フェイントは気がつけばワンランクレバルアップしていた。方向性、切れ味、ステップワーク、逆を取るタイミング等々、ドリブル&フェイントを構成する各要素のバランスが、より高い次元で整い、確実性が増したという印象である。

 今季9戦してフルタイム出場はこれが6回目。選手交代5人制の時代にあって、これまた驚くべき記録である。依然として右肩上がりが続く三笘。天井は見えていない。楽しみである。