ついに、ついに、ここまで来てしまった。

 大宮アルディージャが、J3降格の危機に瀕している。今シーズンのJ2リーグは下位2チームがJ3へ自動降格することになっているが、残り4試合となった現時点で降格圏の21位に沈んでいるのだ。


大宮に残されたチャンスは4試合

 J2残留圏の20位のレノファ山口、同19位の栃木SCとは、勝ち点6の開きがある。大宮は35節から3連勝と調子を上げているものの、残り4試合のうち3試合はJ1昇格を争う上位チームとの対戦だ。栃木と山口も上位チームとの対戦を残しているが、大宮がギリギリまで追い込まれているのは間違いない。

 大宮がJ1で最後に戦ったのは2017年だ。翌2018年を起点とするJ2での苦闘は、すでに6シーズン目を数える。J1残留争いをしぶとく生き残り、「落ちないクラブ」と呼ばれたかつての面影は薄れていくばかりだ。ここ数年の客観的な印象は「J2残留を争うクラブ」というものだろう。

 実はそれも、驚きではない。

 2018年は5位、2019年は3位に食い込んだが、2020年は15位、2021年は16位、そして2022年は19位である。2020年以降は順位を下げ、J2残留争いを繰り広げてきたのだ。

 それにもかかわらず、戦力を充実させていったわけではない。移籍市場での動きは控え目で、J1昇格への意欲を表わす大型補強もない。むしろ、中心選手がJ1やJ2のクラブへ移籍していくケースが続いている。わずか1年でチームを去った選手もいる。

 そうした状況が招いたのは、勝負強さの欠如だ。

 2019年のJ1参入プレーオフで敗れた直後、当時の高木琢也監督は「現状では勝負弱いと言われても仕方がない」と話している。モンテディオ山形との一戦はホームで行なわれ、順位が上位の大宮は引き分けでも2回戦へ進むことができたが、0-2で敗れてしまった。

 大一番でチームを勝利へ導いたり、勝負を決定づけたりする「個」は、シーズンを重ねるごとに減っていった。勝負弱さは改善されることなく、接戦を落とすことにつながっていく。

【大宮は相手を威圧できる存在ではなくなった】

 勝ちきれない体質は、大宮に向けられる視線を変えることにもなった。2016年から横浜FCでプレーし、2020年途中から2021年終了まで大宮に在籍したFWイバが、移籍加入直後の2020年秋に対戦相手の心理的な変化に触れている。

「私が横浜FCの選手として対戦してきた大宮は、恐れを抱かせるチームでした。とてもタフでいいチームでしたが、今は何かが違うと感じます。率直な思いを明かせば、まるでスモールクラブのようで、対戦相手は我々を恐れていないと感じるのです」

 近年のJ2は、J1に在籍したことのあるクラブがほぼ半分を占めている。J1で実績を積んだ選手を揃えるクラブも多い。元日本代表選手やJ1で結果を残した外国人選手を抱えるクラブもある。初のJ1昇格へ近づくFC町田ゼルビアは、現役オーストラリア代表FWミッチェル・デュークを支配下に置いている。

 ひるがえって、大宮はどうなのか。

 J1で実績を築いてきたと言える日本人選手は、控えGKの南雄太に限られる。得点ランキング上位に食い込むような外国籍選手も見当たらない。2019年のFWフアンマ・デルガド(現V・ファーレン長崎)を最後に、リーグ戦でふたケタ得点を記録した選手も現れていない。

 J2残留争いを演じるようになった大宮は、対戦相手を威圧できる存在ではないのだ。2021年6月からおよそ1年間チームを率いた霜田正浩監督(現・松本山雅FC監督)は、2021年オフにこう話している。

「J2のなかでどこがビッグクラブかと言うと、半分ぐらいがビッグクラブのようなものです。2021年のJ2では、J1で戦ったことのある松本山雅FCが最下位でJ3に降格していますし。クラブの格、名前、経験といったものは、あまり関係ないと思います」

 2017年に36億円強を記録した営業収益は、2022年に26億円強まで減っている。それでもJ2では3位タイの数字だが、選手人件費は縮小されている。2018年のおよそ19億円をピークに減少し、2022年はおよそ5.8億円だった。全22チーム中11番目である。チーム人件費においても、J2で抜きん出ているわけではないのだ。

【アカデミー育ちの奥抜侃志が移籍後に日本代表へ】

 予算を絞り込んでいくなかで、アカデミー出身選手が増えていった。大学経由で入団するアカデミー出身選手も少なくない。大宮は「育成型」へ転換していった。

 2022年夏には、ユースから昇格5年目の奥抜侃志(おくぬき・かんじ)がポーランド1部のクラブ、グールニク・ザブジェへ期限付き移籍した。今シーズンからドイツ2部のニュルンベルクへ完全移籍した彼は、10月シリーズの日本代表に招集された。アカデミーで育ち、かつ大宮でプロデビューした選手の代表入りは、史上初めてのことだった。

 今夏の移籍市場では、昇格3年目のMF柴山昌也がJ1のセレッソ大阪へ完全移籍した。年代別代表の経験を持つ左利きのドリブラーは、チームの中心として機能していた。

 育成型へ進んでいる以上、若い才能がステップアップしていくことは避けられない。それが悪いことでもない。今シーズンは高校3年生のDF市原吏音が7月にトップチームデビューを飾り、そこから13試合連続で先発フル出場を続けている。

 アカデミーが一定の成果をあげているため、育成型クラブとしては評価されるのだろう。だが、アカデミー出身選手や主力選手を引き抜かれることでチーム力が低下し、カテゴリーを下げてしまうのは、クラブが目指すべき方向性ではないはずだ。

 2022年春にフロント入りした原博実フットボール本部長は、J1在籍時は残留のために、J2降格後は昇格のために繰り返されたシーズン途中の補強に否定的だった。2021年、2022年はシーズン途中で監督が交代していることも含め、目前の結果を目指しつつも中長期的な視点でクラブを立て直そうとした。

 しかし、今年もまたJ3降格圏であえぎ、シーズン中の監督交代劇が繰り返された。夏の移籍市場では、CBカイケ、DF飯田貴敬、MF黒川淳史を期限付き移籍で、FWシュヴィルツォクを完全移籍で獲得した。

 J2にとどまるための緊急補強は、やむを得ないところがある。カテゴリーが下がることで失うものは、間違いなくあるからだ。そうだとしても、急場しのぎの補強でJ2残留を果たすことが、クラブとしての積み上げになるのだろうか。

 答えは「NO」だろう。

 ピッチ上で戦うのは選手たちであり、結果の責任は監督が負うものだが、2023年の低迷はクラブ全体で招いたものである。3年連続でシーズン途中に監督が交代している現状では、「どんなサッカーをやるのか」が定まらず、日々の練習で選手が成長し、それがチーム力となっていく循環を生み出すことは難しい。

 原崎政人監督と選手たちを批判するだけでは、何も変わらない。今シーズンがどのような結果で終わっても、抜本的な体質改善が不可欠だ。