ドラフト注目投手を名物記者が語り合う「ロマンの塊」「2ケタ狙える逸材」は誰?
アマチュア野球名物記者ドラフト対談〜投手編
10月26日のドラフト会議に向けて、『web Sportiva』ではアマチュア野球の現場でドラフト候補の声を聞いている名物記者の対談を実施。スポーツ報知でアマチュア野球を担当する加藤弘士氏と、著書『下剋上球児』がTBS系列でドラマ化された菊地高弘氏。まずはドラフト上位指名間違いなしの投手について、独自の視点から語り尽くす!
ドラフト1位候補の(写真左から)青学大・常廣羽也斗、東洋大・細野晴希、大阪桐蔭・前田悠伍
菊地 今年もドラフト会議が近づいてきましたね。
加藤 えぇ〜、運命の日、10.26!
菊地 今年のドラフト戦線全体を見て、どんな印象ですか?
加藤 今年は「東都ドラフト」! ドラフト1位の過半数は東都大学リーグの選手で占められるんじゃないでしょうか。
菊地 大学生投手は豊作ですよね。とくに左ピッチャーの逸材が多い印象です。東都で言えば細野晴希(東洋大)が筆頭ですね。
加藤 彼はものすごい逸材じゃないですか。東京ドームで最速158キロのボールを見ましたが、とてつもない出力でした。搭載されているエンジンの排気量、将来の完成形たるや凄まじいと思います。
菊地 野球にそれほど詳しくない人であっても、彼のボールを1球見ただけで、「この人だけ明らかに違う」とわかるボールを投げていますよね。
加藤 そう、わかりやすい。『週刊少年ジャンプ』の漫画に出てきそうな、「ズドン!」というボールですよね。
菊地 リリースの瞬間に「シャーッ!」と効果線が引かれそうな感じですね(笑)。
加藤 それでいて、現時点で完成されていない。プロで完成されるのかどうかも見ものです。
菊地 手がつけられないピッチングをしていたと思ったら、急にわけのわからないフォアボールを出したり......。
加藤 スカウトの眼力が問われますよね。持っているポテンシャルは大学生左腕で過去に例がないレベルかもしれない。
菊地 左が細野なら、右は常廣。常廣羽也斗(青山学院大)はいかがですか?
加藤 美しい。アート。美じゃないですか。山口百恵じゃないけど、『美・サイレント』(1979年3月にリリースされた山口百恵の25枚目のシングル)。ピッチャーらしいピッチャーで、見とれちゃうんですよ。曲を奏でるようなピッチング姿で、あの誰も勝てなかった明治大を大学選手権決勝で10三振を奪って完封してしまう。間違いなく世代最強と言っていいと思います。
菊地 手前味噌ながら、僕は去年の秋くらいから「1年後のドラフトは結果的に常廣が一番の評価を受けているのではないか?」と書いてきました(笑)。
加藤 読みました、読みましたよ!
菊地 その前提で声を大にして言いたいのは、今年の常廣は決して調子がよくないということです。
加藤 おぉっ! そうなの?
菊地 本人も認めていたんですが、ストレートの走りだけなら去年のほうがよかったと。今年は満足のいくストレートが1試合あたり5〜10球くらいしかないということです。そんななか、大学選手権や大学日本代表で結果を残した。青山学院大の安藤寧則監督は「ここぞの試合での強さを持っている」と言っていました。
加藤 人間的にも自分の世界観を持っていますよね。
菊地 そうなんです。この世をはかなむようなコメントをするんですが、僕はそれが大好きで(笑)。プロに入ったら「塩対応」と書かれてしまうかもしれませんが、その味を堪能にしてもらいたいんですよね。とても進学校の大分舞鶴高出身とは思えない、感覚的なコメントをします。
加藤 常廣ワールド、クセになりますよね。
【1年目から2ケタ勝利を狙える投手は?】菊地 対照的に青山学院大の同僚の下村海翔は九州国際大付出身で野球のエリートコースを歩んでいますが、理知的なコメントができるピッチャーです。
加藤 そうそう。来年の今頃、「結果的に一番活躍したのは下村だったね」と言われているかもしれませんよね。
菊地 即戦力度で言えば、下村が東都の逸材のなかで一番かもしれない。
加藤 安藤監督も大事な試合は下村を先発で使っていましたよね。そして日米大学選手権のMVPですから!
菊地 大学JAPANの実質的なエースでした。
加藤 ですよね! 決して見栄えのする投手ではないんですけど、プロでは先発だろうと中継ぎだろうとどこでも使えそうです。彼の交渉権を手中に収めたチームが「勝ち組」になるような気がします。
菊地 個人的に彼のストレートの球威に疑問を抱いていた時期もあったのですが、日米大学選手権で高めのストレートをうまく使っていたのが印象的でした。即戦力候補として、最上位の評価をする球団もあるかもしれません。
加藤 どうしても結果がほしいと必要に迫られている球団はありますから、私は下村の1位指名があってもまったく不思議ではないです。
菊地 ドラフトは「いい選手」から順番に名前を呼ばれるのではなくて、「ほしい選手」から呼ばれますからね。スカウトの好みは常廣が一番好きだけど、チームとして求めているのは下村だから下村を獲る。そんなケースもあるでしょうね。
加藤 結婚と似てますよね(笑)。
菊地 あぁ〜!(笑)
加藤 本当に好きな胸キュンな人か、あるいは安定してる人か......みたいな。
菊地 恋人にしたい人と結婚したい人は別ということですね(笑)。
加藤 ロマンと現実、どちらをとるか。その意味では細野なんかロマンの塊ですけど、一方で現実路線として推したいのが武内夏暉(國學院大)ですね。
菊地 あぁ、いいですね!
加藤 余計なフォアボールを出さずにゲームメイクして、連投も利く。すばらしいサウスポーです。
菊地 フォームはしなやかで美しいタイプではないけど、再現性が高くてボールが速く見える。あの実戦での強さは買いですよね。
加藤 監督が先発ローテーションに入れて1年間回せば、結果的に勝っていそうです。1年目から2ケタ勝利だって狙えるかもしれない。
菊地 武内のピッチングを見ていると、「結局スピードよりバッターがどう感じるかが大事だな」と感じます。
【前田悠伍は鋼のメンタルの持ち主】加藤 私のようなメディアの人間は「158キロが出た!」などと大騒ぎしてしまうのですが、それだけじゃないんですよね。その意味で名前を挙げたいのは古謝樹(桐蔭横浜大)。対戦したバッター、受けたキャッチャー、みんな「体感スピードが速い」と言うんですよね。
菊地 体格は違いますが、和田毅(ソフトバンク)のようなサウスポーですよね。僕は大学生左腕で細野の次に評価しています。
加藤 古謝は写真の撮りがいがあるんですよ。ボールを持つ左手が最後の最後まで出てこない。見えない、見えない、見えない、ピュッ......みたいな感じ。これはバッターもタイミング取りにくいだろうなって。
菊地 すごくわかります。球場で写真を撮る方なら共感していただけると思うんですけど、リリースの瞬間を撮りやすいピッチャーと撮りにくいピッチャーがいるんです。古謝や武内は、リリースの瞬間を一発でとらえきれない。だいたいリリースした直後を撮っているんです。それってつまり、バッター目線でも「リリースのタイミングがつかめない」ことにつながると思うんです。カメラマンに「リリースの瞬間を撮りにくい投手ランキング」をつけてもらったら、タイミングのとりにくいピッチャーが見つけやすくなるかもしれません(笑)。
加藤 それは面白いかもしれないなぁ(笑)。
菊地 そういえば、古謝は巨人のドラフト1位候補に名前が挙がっていました。スポーツ報知としても、放っておけない存在ですよね。
加藤 先発ローテーションを任せられる左ピッチャーはどこもほしいですからね。大学日本代表で揉まれて、ひと回り大きくなりましたし。細野や武内の東都勢と接するなかで、大きな刺激を得たようです。そんな吸収力も魅力のひとつでしょう。
菊地 ここまで大学生投手の話ばかりですが、それ以外でドラフト1位候補の投手といえば前田悠伍(大阪桐蔭)でしょうか。
加藤 私はU−18ワールドカップの取材で台湾まで行きましたが、まぁすごかった! あれは「前田悠伍の大会」でしたよ。
菊地 「馬淵JAPAN」じゃなくて、もはや「前田JAPAN」でした(笑)。
加藤 馬淵史郎監督(明徳義塾)が「大事な試合は前田じゃあ!」って託して、それに見事に応えたのもすごい。今夏の大阪大会はコンディション面に不安があって完全燃焼できず、「はたして前田はドラ1候補なのか?」という雰囲気があったじゃないですか。それを自らの力で払拭してみせた。
菊地 僕は一塁側、三塁側のサイドから見たほうが、前田のすごさを体感できると感じています。前田の投げるストレートって、ボールがひしゃげて、楕円に見えるんです。ゴムみたいにビューンと伸びて、加速感がある。球速があまり出ないことを指摘されますけど、あの球質はスピードガンでは計れない価値があります。そこへコントロール、変化球の精度、マウンド度胸と勝てるピッチャーに必要なものを全部持っている。
加藤 そうなんですよ! 台湾との決勝戦は、すごいアウェーの雰囲気のなかで戦っていました。「シャンシャンシャン!」と打楽器が打ち鳴らされて、へそ出しのチアリーダーが華麗に踊って、お調子者のMCの声がスピーカーを通して響きわたる。社会人の都市対抗を上回る音量だったと思います。そんななか、前田は「甲子園の下関国際戦や報徳学園戦に比べればたいしたことない」と素知らぬ顔で投げていたでしょう。
菊地 とてつもないメンタルですよね。こういうタイプは阪神とか巨人に向いていると感じます。宮城大弥(オリックス)のような活躍イメージが湧きます。
加藤 間違いなくドラフト1位で獲っておきたい投手ですよね。
加藤弘士(かとう・ひろし)/1974年4月7日、茨城県水戸市生まれ。幼少期は鍵っ子で近所の茨城県営球場にて高校野球を観戦して過ごす。小4だった84年夏、木内幸男監督率いる取手二の全国制覇に衝撃を受ける。茨城中、水戸一高、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。「報知高校野球」の広告営業などを経て、2003年からアマチュア野球担当記者。アマチュア野球キャップ、巨人、楽天、日本ハム、西武の担当記者を務め、14年から野球デスク、20年からはデジタル編集デスク。9年間のデスク生活を終え、今年から編集委員として現場復帰。スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める。著書に「砂まみれの名将 野村克也の1140日」(新潮社)。趣味は昭和プロレスの考察
菊地高弘(きくち・たかひろ)/1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数