「今年に入って、日本代表は明らかに相手を凌駕した戦いを見せている。敵地でドイツを1−4と撃破したのはフロックではない。選手ひとりひとりのクオリティが上がっている。中でも久保建英は傑出しており、チュニジア戦でも先発で能力の高さを誇示した」

 スペインで有数の指導者、ミケル・エチャリはそう言って、日本がチュニジアを2−0と下した試合を振り返っている。

 エチャリは、2003年から15年以上もバスク代表監督を務めた。FIFA非公認の代表チームだが、バスク州サッカー界で最高の名誉職であり、ホセ・アンヘル・イリバル、ハビエル・イルレタというレジェンドと共同で代表チームを指揮。エチャリはレアル・ソシエダのあるギプスコア県を代表し、アスレティック・ビルバオを中心としたビスカヤ県の指導者と対になった。

 ちなみに当時、チュニジア代表との対戦経験もある。

「チュニジアはけっして弱い相手ではない。日本が強者として実力をつけたのである。そろそろ"日本は成長している"という表現は止めるべきだろう。日本はカタールW杯でドイツ、スペインを撃破しているチームであり、その後も戦いの幅は広がりつつある。それが最近の6連勝という結果に結びついているのだろう」

 エチャリはチュニジア戦をどう見たのか?


チュニジア戦で日本の攻撃の中心となっていた久保建英

「序盤、日本は4−2−4のようなフォーメーションでスタートしている。前線の古橋亨梧、久保建英、伊東純也、旗手怜央という4人がゴールに迫り、守田英正、遠藤航の二人がそのタクトを振った。長短のパスがつながり、ゴールに迫っている。

 23分、伊東が右サイドを持ち上がり、ディフェンスラインの前にポジションを取った久保にパス。久保はシュートまでいくが、ブロックされる。そのこぼれ球を旗手が左足で狙ったが、バーの上を超えた。相手が脅威を感じる強度と精度だった。

 チュニジアは3−4−2−1を5−4−1に変化させながら、プレッシングとリトリートを使い分け、タフでしぶといディフェンスを見せた。それはひとつの伝統と言える。ただ、攻撃がイッサム・ジェバリへのロングボール1本では、反撃に移ることができず、ジリジリと窮することになった。

【積極的なプレーが目立った日本の選手たち】

 前半の半ば、日本は久保がトップ下で自由にプレーするようになって、4−2−3−1というフォーメーションで本来の攻撃力を発揮し始める。久保がライン間でボールを受け、下がってパスを出し、攻撃に幅と奥行きを与える。明らかにプレーが活性化した。

 43分、久保はゴール正面で守田のパスを受け、近くの旗手にパス。旗手のパスが相手に当たって古橋にこぼれ、グラウンダーのシュートが決まった。僥倖だったが、攻めかかった結果だ」

 1−0とリードした日本は、後半に入るとさらに攻勢を強めている。エチャリはその姿勢を評価した。

「チュニジアは反転攻勢に出ようとラインを高くしてきたが、日本はそれを跳ね返すだけの力があった。前半途中からと同じく、久保を中心にした攻撃で、ペースを与えていない。選手ひとりひとりに、今や自信があるのだろうか。積極的なプレーが目立った。

 たとえばゴールマウスに抜擢されたGK鈴木彩艶は、果敢に前に出て守っている。やや不安定なプレーもあって、成熟は必要だろう。しかし、これまでの日本人GKと比べても積極的なゴールキーピングが目立った。

 後半24分、左サイドで交代出場の浅野拓磨が巧みなボールタッチを裏に出し、それを拾った久保が一気にドリブルで前進している。この瞬間、日本は交代出場の上田綺世が突っ込んでラインを下げると、久保は狙い澄ましたようにスペースに入った伊東へパスを流し込む。走り込んだ伊東は難なくゴールに蹴り込んだ。

 2点目も、すばらしいコンビネーションからのゴールだった。これで試合は決した。

 終盤、日本はチュニジアに攻め込まれてしまい、ポストを直撃するシュートも受けた。しかし6人もの交代があって、オープンな展開になるのは是非もなかった。失点を浴びなかったことが、収穫と言えるか」

 そして最後に、エチャリは試合を次のように総括している。

「久保がベストプレーヤーだったことは間違いない。プレーは流動的で、ポジショニングは適切。その連続性のなかで、スペクタクルなプレーを生み出していた。ボランチとの連動も際立っていて、適時にボールを引き出し、プレーメイクする異能も見せ、トップ下として存在感を示した。

 スカウティングのしがいのあるグッドゲームだったと言える。90分のなかで、お互いがペースを握ろうと戦術をマイナーチェンジさせた。その駆け引きのレベルはとても高かった。

 そのなかで森保一監督が率いる日本は常にイニシアチブを取っていた。カタールW杯から戦術的な成熟が見られる。相手の出方次第で、戦い方を変えられるようにもなった。そして多くの新メンバー起用で、プレーレベルが落ちない点も特筆に値するだろう。

 11月のW杯アジア予選に向けて、準備万端だ」