日本代表は引いて守る相手をどう崩す? 5バックのチュニジアを攻めあぐねていた
サッカー日本代表が2−0と勝利したチュニジア戦だが、データを振り返ると全体的には5バックの相手を攻めあぐねていたことがわかった。同じく相手が引いて守ってくるケースが予想されるこの先のアジアでの戦いで、日本の攻撃はうまくいくだろうか。
【許したシュートは1本のみ】「これから始まるアジア予選に向けて、非常に良いシミュレーション。チュニジアという強いチームを相手にこういった戦いができたことを自信に、今日できた崩し方をチームとしてインプットし、さらにオプションを増やしていけるようにしていきたいです」
試合後の会見で森保一監督がそう語ったように、今回のチュニジア戦は、引いて守る相手に対して日本がいかにしてゴールを奪うかが最大の焦点になった。
サッカー日本代表は実は5バックのチュニジアを攻めあぐねていた。伊東純也はクロス1本
そういう意味では、いずれも4ゴール以上を奪って勝利した直近5試合ほどの派手さはなかったものの、前後半で1点ずつをマークして2−0で勝利を飾った日本のパフォーマンスは、上々だったと言えるだろう。
とはいえ、この試合をアジア予選で生かすためには、結果だけにとらわれず、しっかりと試合内容を検証しておくことが重要だ。指揮官が言うように、当面はアジア勢との戦いが続く。つまり似たような試合展開が予想されるだけに、この試合で見て取れた日本の守備と攻撃について、あらためて現状を掘り下げてみたい。
この試合で森保監督が採用した布陣は、カナダ戦の可変式4−1−4−1(4−3−3)ではなく、基本布陣の4−2−3−1。注目の前線は、1トップに古橋亨梧、右ウイングに伊東純也、左に旗手怜央、1トップ下に久保建英が配置された。
対するチュニジアは、基本布陣の3−4−2−1を採用し、守備時は5−4−1という守備重視の陣形で試合に臨んだ。ちなみに、指揮を執るジャレル・カドリ監督は、昨年6月に対戦した時は4−3−3を採用し、2点をリードして迎えた試合終盤で5バックに変更。その後にダメ押しの3点目を奪い、日本に3−0で勝利している。
それを考えれば、クリーンシートを達成したこの試合の日本の守備は、評価に値する。日本が許したシュートは、ゴールポストに直撃した19番(ハイセム・ジュイニ)による試合終了間際の1本のみ。その決定機を除けば、ほぼパーフェクトだった。
【カウンターを受けずに敵陣で攻め続ける】守備時に4−4−2へと変化するパターンは通常どおり。ただ、チュニジアが後方からのビルドアップに固執せず、躊躇なくロングボールを蹴るチームだったため、カナダ戦で見せたような、守備時の形を変更して前からハメようとすることもなかった。相手に蹴らせたボールをしっかりマイボールにすれば十分だった。
クリーンシートの原動力となったのは、冨安健洋と板倉滉のセンターバックコンビだ。この2人がコンビを組む場合、ディフェンスラインが高くキープされる傾向が強く、それによって全体の陣形はコンパクトに保たれる。選手間の距離が遠くならないので、日本が敵陣でボールをロストしても、相手のカウンターを受ける前に即時回収しやすい状況が生まれる。
しかも、そのふたりの前でプレーした遠藤航と守田英正も守備力が高いため、チュニジアはカウンターの糸口さえもつかめなかった。
そういう意味で、これから引いて守るアジア勢との戦いが始まる日本にとっては、カウンターを受けずに敵陣で攻め続ける方法とその自信を深められた試合でもあった。
もちろん、9月のドイツ戦の前半のように、互角以上の相手と戦う場合はこのコンビでもハイラインを維持するのは難しいが、少なくとも、自陣で守ることを基本に日本に向かってくる相手に対しては、ほとんど心配なさそうだ。
【前半に日本自らつくった決定機はなし】一方、自陣で守る相手に対する攻撃はどうだったのか。これについては、手放しで喜べるようなものではなかった。
とりわけ前半は、確かに日本が敵陣でプレーする時間は長かったが、ゴールの匂いはほとんどしなかった。日本が攻めあぐねていた印象が残った。
たとえば公式記録では、前半の日本のシュートは7本あった。しかしそのうち4本は、シュート直後に目の前の相手にブロックされた強引なもの。シュートとしてカウントされなくても不思議ではないような、極めて可能性の低いシュートだった。
それ以外の3本は、GKにキャッチされた久保の直接FK(12分)、相手ペナルティエリア内で久保が蹴ったボールが相手に当たり、そのこぼれを旗手が狙った枠外シュート(23分)、43分に古橋が決めた先制ゴールだ。ただそのゴールも、旗手が右サイドにパスしたボールが相手にブロックされ、そのこぼれが古橋に転がってきたラッキーなものだった。
こうして冷静かつ客観的に振り返ると、前半に日本がつくった決定機はひとつもなかったことになる。ボールを握って主体的に攻めようとはしたが、5−4−1の守備ブロックを崩してシュートまで持ち込むことができなかった、と前半を振り返るのが妥当だろう。
前半のボール支配率は、日本の63.3%に対し、チュニジアは36.7%だった。実は、開始早々に相手が退場したエルサルバドル戦(6月15日)を除けば、日本が4ゴールを記録して勝ち続けてきた直近4試合は、どれもボール支配率では日本が下回っている。4日前のカナダ戦も、日本の46.4%に対してカナダが53.6%だった。
要するに、第二次森保ジャパンのサッカーは、自分たちがボールを握って攻めるよりも、相手がボールを握った状態で強さを発揮するというひとつの特徴が浮かび上がってくる。もちろんこれは良し悪しの問題ではなく、あくまでも現在のサッカーのスタイル、特徴として頭に入れておきたいポイントだ。
【5バックの相手を攻めあぐねていた】1トップが古橋から上田綺世に代わった後半も、試合の流れに大きな変化はなかった。62分、上田が左から供給したクロスを菅原がミドルで狙ったシュートシーンはあったが、49分の守田のシュートも52分の旗手のシュートも、半ば強引に放ったもの。前半と同様、後半も日本は攻めあぐねる時間が続いていた。
その流れに変化が起きたのは、チュニジアが3人交代を行なって布陣を4バックに変更した63分以降のこと。1点のビハインドを背負ったチュニジアが、軸足を守備から攻撃に移してからだった。
浅野拓磨のパスをペナルティエリア内左で受けた久保が見せた、惜しい股抜きシュートの1分後、日本は4バックのチュニジアを崩して2ゴール目を決めている。
このゴールは、高い位置で冨安から左サイドバック町田浩樹につないだあと、左サイドで町田の縦パスを浅野が縦方向にフリック。左に流れた久保がDFの背後のスペースでそのボールを受けてカットインすると、ゴール前に走り込んだ伊東に丁寧なクロスを供給したことで生まれたゴールだった。
チュニジアが5バックだった時間には一度も見られなかった見事な崩しであり、完璧なゴールシーンだった。
この試合で日本が記録したクロスは前半が6本で、後半は8本。そのうちチュニジアが5バックの時に記録したクロスは計9本(前半6本、後半3本)あった。しかし、カナダ戦を含めた直近4試合と少し違っていたのは、クロスがゴール前に届く前にブロックされたものが5本もあったことだ。
伊東が前向きでスピードに乗った状態で供給した、典型的なクロス攻撃はゼロ。そもそも、この試合の伊東のクロスは1本だった。
日本がボールを握って敵陣でゲームを進めていたため、当然ながらチュニジアはセットした状態で守る。最終ラインは5枚なので、サイドを崩したり突破したりして、いいかたちでクロスを供給しにくい状況だったことが影響したと見ていいだろう。
【W杯アジア予選、アジアカップはどうなるか】そういう意味で、ボールを握ることと、効率よくゴールを奪うことは別物であるとあらためて証明された試合だった。また、現在の日本が得意とするスタイルが、より鮮明になった試合だったとも言える。
5バックで引いて守る相手を崩すのは、どのチームにとってもやっかいだ。来月から始まる格下とのW杯アジア予選、その後に続く来年1月のアジアカップと、森保ジャパンはどのようにして戦っていくのか。
指揮官は今回のチュニジア戦が今後の良いシミュレーションになったと語っていたが、それは苦戦した部分を意味していたと、好意的に受け止めたい。