【2026年W杯から逆算して見た時】

 チュニジア戦。採点をするならば、ほぼ全員に合格ラインである6点以上をつけたくなる試合だった。6点ギリギリだったのは途中出場の上田綺世と、追加タイムに冨安健洋とのコンビネーションで危なっかしいプレーを見せたGK鈴木彩艶ぐらいか。


日本代表は1トップの古橋亨梧(中)がゴール。だが1トップ下の久保建英(右)との組み合わせのバランスは悪かった

 いまの日本代表が、あるレベルを超えた選手で固められていることは確かである。ファンは見たことのない景色を見せられている、ある意味で幸せな状態にある。現在の日本代表を史上最強と評する声が高まるのも無理はない。過去の日本代表と比較すると明らかに上だろう。

 ただ、それは試合前からわかっていたことでもある。現代表のなかに欧州カップ戦(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)に出場している選手は8人を数える。今回メンバーから外れた鎌田大地、前田大然、堂安律、三笘薫を加えれば12人。代表歴のある岩田智輝、さらには常本佳吾らもそこに加えることができる。日本人選手の質が過去最高を示すことは、欧州の2023−24シーズンを迎えた段で鮮明になっていた。

 カナダ戦、チュニジア戦でそうした現実を再確認させられた。そうした話だと思う。2年半後、2026年W杯本大会でベスト8以上を狙うことができそうか。そこから逆算した時に日本は現在、どれほど順調なステップを踏んでいるか。改善すべきはどこなのか。各個人がチームになった時、生じる歪みはどこなのか。それらこそが目を凝らすべきポイントになる。

 チャンスであることは事実。はしゃぐべきか。兜の緒を締めるか。要はバランスだが、重心を掛けるならば後者になる。

【問題は攻撃陣の組み合わせ】

 ノエビアスタジアム神戸に2万6529人の観衆を集めて行なわれたチュニジア戦は、なにより終わり方が悪かった。後半の追加タイム。MFハムザ・ラフィアーのクロスボールに反応したFWハイセム・ジュイニのヘディング弾が、ポストではなく枠内に収まっていれば、終わり方の悪さはスコアに反映されていた。

 4−1で勝利したカナダ戦からの流れに従えば、尻すぼみの印象だ。カナダ戦後のような興奮はない。今回招集した26人のなかではベストメンバーと思しき11人で戦ったにもかかわらず、だ。

 カナダ同様、チュニジアは前半、受けて立った。5バックで後方を固める作戦で日本に対峙した。後半、リードされると布陣を4−2−3−1に変え、オーソドックスな戦い方に変えた。前方に多くの人数を割きながら圧を掛けると、日本の攻撃は散発になっていった。

 最終盤はチュニジアのほうが優勢で、日本をよくない終わり方に導いた。これがW杯本大会の2戦目とかで、3戦目以降が狭い間隔で迫っていたら、いまごろ日本は相当に気持ちの悪い状態に置かれているだろう。

 繰り返すが、選手個々の出来は悪くなかった。最大の問題箇所は攻撃陣の組み合わせにある。

 4−2−3−1で臨んだ日本は前の4人(3−1)を以下のように並べた。3=旗手怜央(左)、久保建英(1トップ下)、伊東純也(右)。1=古橋亨梧(1トップ)。

 伊東には問題がなかった。あえて言うなら酷使されたことぐらいだ(2試合トータルの出場時間=162分)。

 一番は久保のポジションと1トップとの関係になる。まず身長から。古橋が170cmで、久保は173cmだ。世界の標準からすると、小柄なコンビだ。

 対するチュニジアのセンターバック(CB)3人が185cm(ウサマ・ハダディ)、190cm(オマル・モンタサル・タルビ)、189cm(ヤシン・メリアハ)と比較すると、まさに大人と子どもである。

 古橋はそれでも先制点を決めた。前半43分、旗手が伊東に出したパスが相手に当たり、コースが急変したところを鋭く反応。古橋らしい俊敏な動きからシュートに持ち込んでいる。

 その時、古橋と近距離で構えたのは左ウイングの旗手だった。久保はそのひとつ前で守田英正のパスを右に流れながら受けている。

【久保建英の適正は1トップ下ではない】

 この先制点のシーンがそうであったように、久保が古橋を1トップ下の位置で、近距離からサポートする機会は少なかった。チュニジアの大型CB3人の前で、170cmの古橋が1人で対峙する構図に、バランスの悪さを覚えずにはいられなかった。

 相手ボールに転じた時、日本は4−2−3−1を4−4−2に組み替えて対応する。久保は2トップの右FWとして相手に圧力を掛けにいく。だが、その右寄りのポジショニングは、マイボールに転じても変わらない。1トップ下にポジションを取らず、右サイドに流れようとする。

 その「流れる」は、悪く言えば「逃げる」だ。1トップ下の居心地の悪さに堪えかねた結果だ。久保は大きな選手を背にした動きが苦手だからだ。身体の小ささに加え、ボールの持ち方も輪を掛ける。

 誰にもわかる左利きだ。格闘技で言うところの半身で構えながらプレーする。360度の世界(真ん中)でプレーすると進行方向を悟られやすい特徴がある。だが久保が抱えるその問題はサイドに流れることで解消される。

 この動きから、ポジションの適性が真ん中にないことが見て取れる。左利きでも真ん中でプレーすることを苦にしない選手と言えば、現役ではアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)、引退した選手ではラウール・ゴンサレス(元レアル・マドリードほか)が代表的だ。久保は彼らではなくモハメド・サラー(リバプール)に近い。

 現状の適性は右ウイング。古橋とは良好なコンビネーションを築きにくい関係にある。

 1トップ候補は現在、ほかに浅野拓磨、上田がいるが、彼らとの関係も同じである。

【久保が1トップ下なら1トップはポストプレーヤーを】

 久保をどうしても1トップ下で使いたいなら、ポストプレーが得意な大迫勇也を呼んでくるしか手立てはない。あるいは鎌田大地をゼロトップに据えるか。1トップがポストプレーヤーでなければ、1トップ下に据えるべきはボールを収める力を備えた選手となる。古橋、浅野、上田が1トップ候補なら、現状では鎌田しか選択肢はない。

 4−3−3で戦ったカナダ戦も、1トップ(浅野)が孤立する問題が起きていた。4−2−3−1と異なり4−3−3には1トップ下がいない。1トップと近距離で構える選手が構造的にいないので、4−3−3を使用するなら、1トップにボールを保持する能力が高い選手を据えないと機能しない。

 カナダ戦では後半、布陣を4−2−3−1に変え、南野を1トップ下に据えた。機能したとは言い難かった。鎌田との比較で見劣りした。その最終盤、左ウイングから回った旗手が1トップ下の座に就いたが、可能性はそのほうが高そうだった。

 これはカナダ戦、チュニジア戦に連勝したことで、見落としがちな問題と言える。チュニジア戦後の会見で「日本代表で最も活躍が光った選手は」と問われた相手のジャレル・カドリ監督は、久保の名前を挙げた。

 久保は確かに光った。採点をすれば7かもしれない。だが1トップ下の選手として機能したかと問われると評価は下がる。

 右ウイングとしてプレーしたほうが丸く収まる。だが、右ウイングには伊東がデンと構える。出ずっぱりの状態になる。左には通常であれば、三笘がこれまたデンと構えることになる。

 久保をどう活かすか。そしてポストプレーヤー不在の1トップをどう考えるか。選手の頑張りとか、精神論では解決しない問題だ。問われるのは監督力。森保一監督にその自覚はどれほどあるか。前の4人がバランスよく綺麗に収まらない限り、日本らしさは発揮されない。W杯でベスト8以上は望めない。

 日本代表は攻撃陣の組み合わせを改善すれば、現状よりもっといいサッカーができると筆者は確信している。