今オフ、フェニックス・サンズと2年500万ドル(約7億2000万円)の新契約を結んだ渡邊雄太は、優勝候補チームの一員としてNBAでの6年目をスタートさせる。

 昨季にブルックリン・ネッツのシューターとして開花した渡邊は、今夏、日本代表の攻守の要としてW杯でも大活躍。その勢いのまま迎える2023−24シーズンに、ケビン・デュラント、デビン・ブッカー、ブラッドリー・ビールという"スタートリオ"を抱えるチームにどんな形で貢献するかが楽しみだ。


サンズに移籍した渡邊雄太 photo by Getty Images

 渡邊の獲得に尽力したと伝えられているのが、サンズのジェームズ・ジョーンズ運営部代表兼GMだ。

 ジョーンズは現役時代、ドラフト2巡目指名でのNBAに入りながら長いキャリアを過ごし、2011年にはオールスターの3ポイントコンテストで優勝。レブロン・ジェームズと固い絆を築いたことでも知られ、2012、13年にはマイアミ・ヒートで、2016年にはクリーブランド・キャバリアーズでレブロンとともにファイナル制覇を飾った。

引退後にサンズのフロントに入ると、GMとしてもすぐに力を発揮し、2021年に最優秀エグゼクティブ賞を受賞。チームを優勝が狙える位置まで押し上げた功績が認められ、昨秋には運営部代表に昇格した。

 それほど敏腕な男は、いったい何を期待して渡邊との契約を望んだのか。デュラントとのケミストリーをどう見ているのか。43歳にしてトップエグゼクティブとしての地位を築いたジョーンズの熱い言葉からは、10月13日に29歳になったばかりの日本人サウスポーに対する期待感が伝わってきた。

***

 実は、私たちは2018年のドラフト以前から雄太に興味を持っていました。同年のドラフト前、ワークアウトに雄太を招待し、そこで披露された彼のスキルセットに好印象を抱いたのです。

 当時のサンズは、まだ勝ちにいくためのチームを作っている最中だったこともあり、さまざまな事情から獲得には至りませんでした。しかし、それから時は流れ、私たちは今やファイナル進出を目指すコンテンダー(プレーオフ進出を狙える戦力が揃ったチーム)です。

 現在のサンズは勝利に貢献できる選手、その力があることを証明してきた選手を必要としています。探していたのは、ハイレベルで競い合うことを恐れず、「勝利のためなら何でもする」という気概を持ったプレーヤー。雄太がそれに当てはまる選手だということは、わかっていただけるでしょう。


渡邊の獲得に動いた、サンズのジョーンズ運営部代表兼GM Photo by Sugiura Daisuke

 これまでのキャリアを振り返れば、雄太が戦い続けることで道を切り開いてきたことは明白です。ドラフト外でNBAに挑戦し、Gリーグで腕を磨き、低迷中のチームと強豪チームの両方で経験を積み重ねてきました。どんな状況に置かれようと安定したプレーを続け、自身の役割をしっかりと理解している。同時に、彼自身が絶えず向上してきたことも忘れてはいけません。常に上達できる選手を抱えていなければ、NBAで優勝は勝ち取れないのです。

 具体的にプレーを見ていくと、デュラント、ブッカー、ビールといった複数のプレーメイカーを抱えた私たちには、ロングレンジのシュート力、ボールハンドリング、サイズ、タフネス、フィジカル面といった雄太の長所が魅力的でした。そんな選手がFAマーケットに出たのならば、全力を尽くして獲得に動かなければいけません。卓越したプレーヤー、優れたチームメイト、そしてすばらしいプロフェッショナルである雄太と契約できたことを嬉しく思っています。

 今オフの間、どの選手を補強のターゲットにしているかをサンズの主力メンバーには伝えてありました。私は、実際にコートに立つプレーヤーの意見をリスペクトします。NBAの舞台で勝利に貢献してきた選手たちは、同じように勝利を助けられるのはどういった選手かを熟知していますから。

 優れた個人成績をマークできるタレントはたくさんいますが、チームの成功に貢献できた上でのスタッツでなければ大きな意味はありません。個人プレーが目立つ選手を加えたところで、チームケミストリー、カルチャーの助けにはならないのです。

 そんな中で、デュラントは雄太の獲得に動くことを支持してくれました。昨季にネッツで一緒にプレーしたから、という理由だけではありません。"勝者"は"勝者"を知っているもの。デュラントは「雄太がどういう選手であるか」を熟知していたんです。

 デュラントはNBAの歴史に残る偉大なスコアラーですが、それと同時に最高級のチームメイトであり、チームを助けられる選手に感謝できるスーパースターでもあります。そんなデュラントは、雄太が重要な時間帯にウイニングプレーができる選手だと知っており、彼らの絆が本物なのは私にも見て取れました。

 私は現役時代、ロールプレーヤーとして13シーズンにわたってNBAでプレーしました。その経験があるから、同じような経歴を辿り、チームプレーヤーとしてチームに貢献する選手のキャリアをリスペクトできます。幸いにも3度にわたってファイナルを制覇したチームに所属できましたが、それでも雄太が成し遂げてきたことは、すでに私より上ではないかとも思っています。なぜなら、彼は日本代表の屋台骨を背負い、チームを押し上げてきた選手でもあるからです。

 私は、アメリカ代表の一員として世界のベストプレーヤーたちと対峙することはできませんでしたが、それがどんなに大変なことかは想像できます。日本をパリ五輪出場に導いた今夏の頑張りは見事でした。そういった姿を見てきたからこそ、彼の存在により感謝できるのです。

 サンズ入りが決まって以降、雄太とより深く交流することができました。普段の彼は、"物静かだが自信に満ちている"という形容がぴったりです。

 自分に自信を持っている人間は、自身を説明する必要も、自らの"セールスマン"になる必要もなく、頻繁に口を開きはしない。彼はコート上で自身を表現できる選手です。そんな雄太が、今季のサンズでどんな役割をこなしてくれるのか、どのような形でチームに貢献するのか。それも、これから確立されていくでしょう。

 プレシーズンの時点では起用法ははっきりとはわかりませんが、先ほども話したように、どんな形にせよ彼はチームの勝利を助けてくれるということは確かです。デュラント、ブッカー、ビールをはじめとする私たちのベストプレーヤーたちを、よりよいバスケットボール選手にしてくれるでしょう。そんな雄太のプレーが間近で見れることに、私もまたエキサイトしています。