3歳牡馬春のクラシックは、GI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)をソールオリエンス(牡3歳)が勝って、タスティエーラ(牡3歳)が2着。続くGI日本ダービー(5月28日/東京・芝2400m)は、この2頭の着順が入れ替わっての決着となった。

 ソールオリエンスとタスティエーラ――。春の2戦で上位を独占したこの2頭が無事に夏を越して、三冠最後の一戦となるGI菊花賞(10月22日/京都・芝3000m)で再び相見える。同レースにおいても、2頭が中心的な存在になることは間違いない。


一冠目の皐月賞はソールオリエンスが勝利し、タスティエーラが2着だった

 ではこの2頭、実際のところどちらが強いのか。関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。

「どっちも甲乙つけがたい。春のクラシックで勝ったり、負けたりを繰り返しているのだから、能力的には五分五分と見るべきでしょう」

 ならば、菊花賞での勝敗のカギを握るのは、その舞台設定か。3コーナーにある坂が特徴的な京都コースと、3000mという距離に、適性があるのはどちらか。

 そもそものポテンシャルに優劣をつけられない以上、大きくモノを言うのはその辺りになりそうだ。

 その点について、先述の専門紙記者に問うと、意外にもあっさりとこう回答した。

「いずれについても、適性で言うなら、タスティエーラのほうにかなりの分がある。ソールオリエンスは、ことこのレースに関する限り、不安のほうが大きい」

 その理由となるポイントは2つ。ひとつは、折り合い面。そしてもうひとつは、3コーナーからの下り坂をいかにこなすか。

 まず折り合い面から言えば、タスティエーラはスタートが速くて、スッと好位につけられる脚があり、そこでピタリと折り合える。"先行して折り合う"というのは、3000mのスタミナ戦をこなすうえでは大きな武器となる。

 一方、ソールオリエンスは末脚の破壊力という点では世代トップに君臨する。しかしながら、こういうタイプの馬によく見られるのは、折り合いへの不安。3000mのレースを勝ち負けできる力はあったとしても、折り合いに対する懸念がその能力を削いでしまう可能性がある。

 次に3コーナーの坂についてだが、かつては"ゆっくり上って、ゆっくり下る"のが基本とされていた。しかし今は、坂の頂点付近からスピードを上げていって、下りで惰性をつけて平坦な直線へ、というのが最もよいとされる。

 この点においても、"先行して折り合える"タスティエーラにとっては好都合。おそらく、先行集団のインに潜り込んで3コーナーの坂を一気に下り、スピードに乗った状態で勝負の直線を迎える、という理想的な形を作れるはずだ。

 翻(ひるがえ)って、ソールオリエンスはどうか。先の専門紙記者が分析する。

「ソールオリエンスは、馬が心身ともにまだ若い。そうした現状からして、京都の下り坂もスピードを上げて下っていこうとすれば、多くの若い馬に見られるような、4コーナーで外に膨れる危険がある。このロスは大きい。スタミナを擁する長丁場の戦いとなれば、なおさら。

 だからといって、それを恐れて直線までじっとしていて、そこからスパートというのでは前を捕えきれない可能性がある。コース適性においても、同馬への不安は尽きません」

 菊花賞の舞台といい、距離といい、適性ではソールオリエンスよりもタスティエーラのほうが一枚も、二枚も上、ということのようだ。

 それで、タスティエーラに不安はないのかと言えば、そんなことはない。

 第一に、ローテーションだ。菊花賞をダービー以来のぶっつけ、というのは異例中の異例。このローテで勝った馬は、過去83回の歴史のなかで1頭もいない。過去10年を振り返っても、それだけの間隔をあけて挑んだ馬が馬券圏内(3着以内)に入ったことは一度もない。

 また、三冠馬を除くと、ダービー馬の菊花賞出走というのは思いのほか少ない。しかも、勝った例となれば、ハイセイコーのライバルだったタケホープがダービーと菊花賞の二冠を達成した1973年まで遡らなければならない。

 ましてや、タスティエーラはもともと菊花賞直行というローテを描いていたわけではないという。順調なら、前哨戦となるGIIセントライト記念(9月18日/中山・芝2200m)を使う予定だったそうだ。

 こうした不安材料について、再び専門紙記者にぶつけてみると、にべもなくこう言った。

「ダービー馬が菊花賞を勝った例がほとんどないというのは、単に三冠馬以外のダービー馬が菊花賞に出る例が少なかっただけ。ダービーからの直行ローテについても、世界のイクイノックスが昨年、ダービーからぶっつけで古馬相手の天皇賞・秋を勝ったことを思えば、問題ないでしょう。

 今や、レースを使わずに狙ったレースをピンポイントで使って勝つ、というのがA級馬のトレンド。加えて、タスティエーラを管理するのは、腕利きでGI実績も現役トップレベルの堀宣行調教師ですからね。心配はいりませんよ」

 専門紙記者はそう言うが、あらめて振り返ってみれば、春のクラシックが始まる前、今年の3歳世代の牡馬については、「混戦」「レベルが低い」と言われていた。皐月賞とダービーを終えて、その上位を争ったタスティエーラとソールオリエンスが抜け出た存在になったのは確かだが、世代全体への評価まで変わったとは言い難い。

 そういう意味では、「2強」に不安材料がある菊花賞は伏兵台頭の余地が大いにありそうだ。タスティエーラとソールオリエンスのどちらが勝つか、というよりも、淀の舞台と長丁場の戦いに最も合うのはどの馬か。その点を重視したほうが、当たり馬券を手にする近道となるかもしれない。