たとえば、U−22日本代表のことをまったく知らない海外メディアの記者が、このチームのメンバーリストを初めて見たとしたら、まず目に留まるのが福井太智であることは間違いあるまい。

 彼の所属クラブには、ドイツを代表する強豪にして、ヨーロッパ屈指のビッグクラブであるバイエルン・ミュンヘンと記されているのだから、それも当然のことだろう。

 カップ戦とはいえ、今年9月にバイエルンのトップチームで公式戦初出場も果たした19歳は、「(トップチームデビューが)大きな自信にはなっているが、まだまだ満足することではない。何かを成し遂げたわけでもないので、一個の通過点にすぎないと感じている」と、バイエルンの一員として十分な自覚も備わっている。

 とはいえ、そんな福井もU−22代表では、いわば"ルーキー"。戦い方のベースが固まりつつあるチームに加わり、さらに戦力を底上げすることを期待される新戦力という立場にある。

「自分自身がこの代の中心になっていかないといけないと思っているので、まだまだ足りない部分はあるかなと感じている」

"U−22代表デビュー戦"を終え、当の福井自身がそう語っているとおりだ。


所属のバイエルンでトップチームデビューを果たした福井太智。初合流となったU−22日本代表でも存在感を示した

 現在アメリカ遠征中のU−22代表は、アリゾナ州フェニックスでメキシコとの親善試合を行なった。

 現地は30度を超える暑さにもかかわらず、15時キックオフ。そのうえ、転がるボールが不自然にはね上がってしまう悪いピッチコンディションとあって、選手たちは立ち上がりからリズムをつかめず、苦しい展開を強いられた。

 しかし前半14分、FW細谷真大が自らのボール奪取から独走してゴールを決めると、前半20分にもクロスに頭で合わせて追加点。その後は落ち着いてゲームを進めることができた。

 その結果が4−1の快勝である。チームを率いる大岩剛監督が語る。

「あの1点(細谷の先制点)で少し落ちついた。概ね分析どおりに試合を進めることができたので、ポジティブなところが多かった。暑さとピッチ状態に苦労したが、そのなかでも選手が我慢強く、粘り強くやったかなと思う」

 そして、この試合で初めて起用された新戦力について、「新しい選手たちが(今後チームに)アジャストしていくスタートとしては、すごくポジティブに見えたし、(次の親善試合である)アメリカ戦に向けても少し視界が広がったところはあったと思う」と指揮官。

 複数の新戦力テストが行なわれたメキシコ戦にあって、唯一先発起用されたのが、福井だった。

「一番意識したのは、やっぱり守備の強度。自分が中心に声を出してコミュニケーションをとって、チームを動かす部分は意識して試合に入った」

 チームのへそとも言うべきアンカーでの出場とあって、そんな言葉でデビュー戦に向かう心境を語った福井だったが、試合序盤は細かなパスミスも目についた。

 それでも、「(ミスは)多少あったと思うが、自分ではあまりマイナスには思っていなかった」と言い、「時間が進むにつれて修正することはできたのでよかった」と、落ちついた口調で振り返る。

 福井の自己評価を裏づけるように年下のチームメイトを称えるのは、この試合でキャプテンを務めたMF山本理仁だ。

 MF松木玖生に加え、福井という新たな"U−20ワールドカップ組"とともに中盤のトライアングルを形成したキャプテンは、「間違いなく(高い)クオリティを持っている選手だと思うし、練習からファイトするところもある選手だなというのは感じていた」と言い、こう続ける。

「ある程度波長も合う選手だと思うので、不安なく試合に入れた。実際にゲームをやってみて、僕と太智と玖生と、(3人それぞれが)違うタイプながらもしっかりと自分たちのよさを出しながら、うまくバランスを保てた」

 もちろん、初招集の福井がすぐチームにフィットできたのは、U−22代表がこれまでに積み上げてきた戦い方のベースがあればこそだろう。実際、山本は「もちろん、長く呼ばれている選手は監督が求めていることやチームがやりたいことをわかっていて、そのベースがあるから新しい選手もやりやすいとは思う」と語っている。

 だがその一方で、いきなりの実戦でも新戦力がそつのないプレーができるのは、それだけが理由ではないと、山本は言う。

「(いかにチームのベースがあっても)やっぱり能力のない選手だったら求められていることができないと思う。ある程度の(チームの)ベースがあって、そのなかに能力の高い選手たちが入ってきてくれる。その両方があったから、新しい選手が入ったなかでもしっかり4点取って勝ちきれたのかなと思っている」

 福井は結局、DF鈴木海音とともにフィールドプレーヤーとしては最長となる、後半82分まで出場。自身が「一番意識した」と語る守備で持ち味を発揮したばかりでなく、セットプレーではキッカーを任され、後半81分には右サイドのFKからニアサイドへの正確なキックで、チーム3点目となる鈴木海音のゴールをアシストしている。

 U−22代表のアンカーには、MF藤田譲瑠チマやMF川粼颯太などライバルは多いが、福井がデビュー戦で見せた働きは、彼らへの"宣戦布告"としては十分なものだったに違いない。

 福井が力強く語る。

「(U−22代表はプレーの)強度が高く、その(高い)強度のなかでの個人能力が、今までやってきた(U−20以下の年代別)代表とは本当に違うレベルだった。自分はそこに食らいついていくだけじゃなく、上回っていけるようにしていきたい」

 頼もしい19歳が、パリ五輪を目指すチームに加わった。