「スコアほどの差はない試合だった。前半の半ば、PKストップがわかれ道になったと言えるだろう。流れとしてはどうなっていてもおかしくはなかった。しかし日本が強さを見せつけたのは事実で、新しいメンバーを多く起用しながらの勝利は格別だ」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリはそう言って日本がカナダを4−1で下した試合を振り返っている。

 エチャリは久保建英が所属するレアル・ソシエダで、20年近くスポーツダイレクターや育成ダイレクターなどさまざまな役職に就いてきた。そのスカウティング能力は、ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)も敬愛するほど。過去にはFCバルセロナに戦略担当として誘われたこともある。

「客観的に見て、日本はひとりひとりの選手がカナダを技術的に上回っていた。特にプレースピードの点は顕著だった。カナダの選手はスピードアップしようとすると技術がついてこないのに対し、日本の選手たちは何のストレスもなくプレーをこなしていた」

 エチャリはカナダ戦をどう分析したのか?


カタールW杯以来の日本代表招集となった南野拓実

「日本は開始2分、相手を押し込んでいる。慌てた相手のクリアミスを拾い、田中碧がミドルで先制。各選手がいいポジションを取れていた。また、技術レベルの違いもこの時点で明らかだった。

 もっとも、先制後の日本はうまくリズムを作れていない。

 カナダは5−3−2、もしくは3−5−2のような布陣でビルドアップするスタイルのチームで、ボールを持つ時間は増やすことができた。しかし、とにかく技術精度が低い。ボールを持っても横パスが多く、攻撃のスピードが出なかった。それぞれの選手が技術に自信がなく、攻めのパスを出せず、出たパスのコントロールは乱れ、それが狙われることになった。

 日本は攻められながらも遠藤航を中心に危険を回避していたが、前半20分に右サイドでのアルフォンソ・デイビスへの対処で後手に回ってしまう。完全に崩されたところ、GK大迫敬介が出て、PKを献上。最大のピンチだった。

 しかし、大迫自身がこれを止めたことで、この試合の流れは決した。

【リズムが悪くなった終盤】

 日本は再び前線からの守備に後ろが連動するようになって、優勢を取り戻している」

 エチャリはそう言って、特筆すべき選手の名前を挙げた。

「南野拓実の代表復帰は本当に喜ばしい。彼はトップ下に近いポジションで、あらためて攻撃能力の高さを示した。鎌田大地に近いポジションだが、よりゴールに対する意識が強い。必ずポジションに入ることができていたし、攻撃にインテンシティを与えられる。前半39分、浅野拓磨のクロスに飛び込み、触ることはできなかったが、その動きが相手を惑わせ、オウンゴールを誘発した。

 南野は確かに、いくつか巡ってきたシュートは外している。しかし、今回はゴールを狙うポジションを取れていたこと、周りとの連携もできていたことを収穫とすべきだろう。非常に勤勉かつパワーも感じさせ、賞賛に値した。

 2−0にした後、カナダは明らかに気落ちしていた。お粗末なミスが多発し、中村敬斗の一発を浴びている。さらに後半に入って、すぐに再びカウンターを喰らい、万事休止だった」

 しかし、エチャリは気になる点を指摘している。

「日本は遠藤が存在感を示していた。中盤で、傑出したインターセプトを連発。トランジションでも、トッププレーヤーのクオリティを見せた。個人的にはややファウルが多く、場合によってはカードを受けてハンデを背負う怖さもあったが、守備を攻撃に結びつけていたのは間違いない。

 それだけに、遠藤に続いて田中もピッチを去ると、リズムは極端に悪くなった。カウンターは浴びせるも、ペースは握れていない。その結果、終了間際に右サイドを破られ、GK大迫の(弾く場所の)ミスもあって(この直前にはいいブロックがあったのだが)、失点を喫した。

 大差がついただけに見逃しがちだが、遠藤がいなくなった後の戦い方は課題と言えるだろう。守備のところでゆるさが出たり、攻撃がカウンター一辺倒になったりすると、たちまち不具合が出る。フットボールはディテールであり、デリケートであることを忘れるべきではない」

 エチャリはそう言って、最後に次のチュニジア戦へのエールも送っている。

「南野、遠藤は目立った存在だったし、田中、中村という得点者以外にも、伊東純也、冨安健洋、町田浩樹、中山雄太もポジティブなメモが多かった。カナダと比べると、個人の力量の違いが出たゲームと言える。何人かの主力が不在でもこれだけの戦いができるのだから、着実に戦力アップしているのだろう。

 チュニジア戦も選手のキャラクターをどう組み合わせるか、とても楽しみである」