10月13日、新潟。日本代表はカナダ代表を4−1と大差で下している。

「トランジションやペースアップのところで後手に回り、難しい展開になった。個々の選手のエラーも目立った。強いチームを相手にした時、スペースはすぐになくなることが身に染みただろう」

 カナダのマウロ・ビエッロ監督はそう振り返っているが、その説明は森保ジャパンが最近、ドイツ戦も含めて5連勝している理由に近いかもしれない。

 開始早々、森保ジャパンは前線から相手を猛然とはめ込み、ビルドアップに窮したところでアドバンテージを取っている。バイエルンのアルフォンソ・デイビスの虚をつくように裏をとって、一気呵成に攻め上がる。各選手が攻守一体のポジション、準備ができたことで、クリアミスを拾った田中碧がミドルで先制点を奪った。

 守備から始まった攻撃と言えるだろう。

「いい守備はいい攻撃を促す」

 それはひとつの定理だ。

 もっとも、その後の森保ジャパンはペースを失っている。ボールを持たせたのではなく、持たれてしまった。ディフェンスラインが受け身に回って下がりすぎ、守備が連動できずに攻め込まれている。

「ボールを奪えず、失う機会が多くて、新メンバーでやっているので、感覚的にはまっていないな、というのはありました。ただ、それはやる前からわかっていたので、ゲームを進めるなかでお互いが距離感、立ち位置を確認しながら、試合を重ねていくしかないのかな、と」

 この日、センターバックで先発した冨安健洋の証言である。


カナダ戦に先発、後半16分までプレーした遠藤航

 そして前半20分、日本は右サイドを俊足デイビスに突破され、GK大迫敬介がやや誘われる形でPKを献上してしまった。起こるべくして起こったピンチだったと言える。相手に好き勝手をさせすぎていた。

 しかし、大迫が小さなミスを帳消しで余りあるPKストップを演じた。

「VARになった瞬間、PKだろうな、とはわかりました。そこで準備はできていたので対応できたのかと」

 大迫はそう明かしているが、これは試合の潮目になった。決まっていたら、1−1の同点で、カナダに流れを持っていかれていただろう。つまり、思った以上に危うい戦いだったとも言えるし、そこを切り抜けて修正できるのが、今の森保ジャパンの強さとも言い換えられる。

【「うまくいきすぎとは思ってない」】

「1点入って、PKになるまではうまくいっていなかったですね」

 中盤で攻守のバランスを取り直した遠藤航はそう説明している。

「でも、そこからは修正できました。今の代表は、これといった形があるわけではないけど、戦術の幅みたいなものは広くて。"相手がこれだったら、こう戦って"というようにカメレオンのように変われるというか......。日本人選手はもともと戦術理解は高いと思っているので、各々の判断でそれができるようになってきていると思います」

 何より、その遠藤は攻守の仕組みそのものだった。彼が他の選手の動きに合わせ、補完関係を作ることで、そのプレーを引き立てていた。田中、南野拓実の2人には一番恩恵を与えており、常に背後をカバーすることで、積極的な攻撃を促した。守備の綻びも次々に修復。たとえば、躍動し始めたデイビスに対し、あえて強くチャージし、その勢いを止める芸当は、さすがリバプールのMFといったところか。

 森保ジャパンは守備でアドバンテージを取れるようになると、面白いように加点し、勝負ありだった。

「(5連勝は)うまくいきすぎているとも思っていなくて。自分たちの力だとは思っていますが、満足しているわけでもありません」

 遠藤はそう言って、守備を司る極意を語る。

「"前の選手が(守備に)いったら、後ろがついてくる"と信じられるようにしないと、とは思っています。後ろから(前の守備の)声をかけてもいいけど、自分はそれでは遅い、と思っていて。だから、前の選手にまずはアクションを起こしてもらうべきで、もし、それでうまくいかなかったら、自分が修正すればいいと思っています」

 後半途中、遠藤が交代でベンチに下がった後は、攻守の締まり具合は緩くなっていった。他にも多くの交代選手が出たのもあるが、オープンな展開にさせすぎ、コントロールを失っていた。そのせいで終了間際に右サイドを完全に破られてしまい、クロスを大迫が飛び出しながら弾ききれないミスを露呈し、こぼれを蹴り込まれてしまった。

「ゼロに抑えたかった」

 守備的なポジションの選手たちが口をそろえたように、最後の失点は余計だった。ひとりの有力選手(デイビス)に局面で劣り、その混乱をつけ狙われた格好か。

 森保ジャパンは、めくるめく攻撃を仕掛けたわけではない。鎌田大地、三笘薫、久保建英という選手が奏でる意外性のあるリズムはなく、凡庸で退屈な時間もあったが、効率性に特化していた。ミスの質や量を制限することで、相手に隙を与えず、むしろ隙を突いた。カナダが単純な個人のエラーが、特にビルドアップで多く、集中を欠く様子もあって、対照的に大味な戦いだったのもあるが......。

 あえて言えば、カナダとの差は遠藤の存在だったとも言える。

 遠藤は新メンバーとの間に生じるズレも埋めていた。トランジションを有機的に機能させ、ペースアップを自在にし、自分たちのミスを最小限に、有力なアタッカーの才能を最大化。同時に、敵選手のアドバンテージも極力、消していた。

 攻撃陣の華やかさに目が行きがちだが、森保監督のコンセプトを最も体現しているのは遠藤と言える。

「W杯優勝のため、この戦いでいいのか、というのは、ずっと問い続けていく必要はあります」

 遠藤の言葉である。