4−1。サッカーで3点差がつくことは滅多にない。勝者にとっては大勝であり、敗者にとっては大敗だ。だが、実力がスコアに反映されやすいラグビーにたとえれば、せいぜい35対25ぐらいの関係だっただろう。60対15では決してない。新潟のデンカビッグスワンスタジアムに3万7125人の観衆を集めて行なわれた日本対カナダ戦の話だ。

 4−1で勝利したドイツ戦(9月9日)、4−2で勝利したトルコ戦(9月12日)しかり。ラグビーなら接戦だったはずだ。サッカーは実力が接近していても思わぬ大差がつく特性がある。

 日本はこの試合、開始2分で先制する好スタートを切った。キックオフからボールを支配。右サイドバック(SB)毎熊晟矢の折り返しを田中碧が蹴り込んだものだが、幸いしたのは、カナダが日本をリスペクトしすぎたのか、5バックでベタ引きしてくれたことだ。試合の入り方に失敗したカナダに日本は助けられた。その5分後にも日本はチャンスを掴む。左SB中山雄太の折り返しに伊東純也が反応。惜しいシュートを飛ばしていた。


カナダ戦に左ウイングで先発、1得点をあげた中村敬斗

 だが、そこから20分間は、形勢が完全に入れ替わることになる。カナダがボールを支配。日本は防戦一方となった。カナダのレベルをうかがい知ることができる時間帯だった。

 その間、GK大迫敬介がカナダの左ウイングバック、アルフォンソ・デイビスを倒し、VAR判定の末PKを献上していた。1トップ、ジョナサン・デイビッドが蹴ったこのキックを、大迫が止めていなければ、試合の行方はどうなっていたかわからない。

 カナダは間が悪いことに、オウンゴールで追加点を与えている。PKは外すわ、前半も後半も失点を許すわ、最悪の試合運びを強いられたカナダの選手は、半ば苛つきながらプレーすることになった。やってはいけない強引なプレーを連発。試合は日本にとっておあつらえ向きの展開となった。

 4−1の勝利を必要以上に喜ぶのは逆に格好悪い。強者を自負するならば、サッカーにはありがちな話と涼しい顔をしていたい。それはともかく、カナダ戦の収穫は全く別のところにあると考える。

【代表選手として格を上げた中村敬斗】

 日本のストロングポイントを語ろうとしたとき、真っ先にくるのは三笘薫だろう。その三笘が今回は体調不良を理由に、招集を事実上、辞退した。このことをテレビの視聴率に影響が出るなどとネガティブに捉える声を見聞きした。しかし、それがマイナス面ばかりではないのがサッカーだ。

 三笘が左ウイングとして出場時間を延ばせば、2番手以降の選手の出場機会は減る。層は厚くならない。次回W杯本大会で5試合以上戦おうとしているチームにとって不可欠な、総合的な体力は育まれないことになる。前田大然の不参加も手伝い、このカナダ戦は、左ウイングとして先発を飾ることになった中村敬斗をじっくり観察するにはまたとない機会になった。

 代表キャップはこれが4試合目。過去3試合の出場時間は1分(ウルグアイ戦)、45分(エクアドル戦)、45分(トルコ戦)で、ハーフタイムをまたいで出場するのはこのカナダ戦が初めてである。採点するならば7となる。3点目のゴールをマークしただけではない。左ウイングとして、雰囲気のあるプレーを見せることができていたのだ。

 いつ外されてもおかしくない選手だったこれまでから、ワンランク、代表選手としての格を上げた恰好だ。これぞまさに三笘の「欠席」が生んだ副産物に他ならないのである。

 好事魔多しで、中村は後半16分、相手のラフプレーを受けて、負傷退場の憂き目に遭った。代わって入った旗手怜央は、川崎フロンターレ時代は左SBとして鳴らした日本代表きっての多機能型選手だ。しかし、左ウイングとしてプレーするのは久しぶりだった。

 大丈夫かと思いきや、それが予想以上に堂々と、余裕のあるプレーを見せたのだ。後半38分には南野拓実がベンチに下がったのを機に1トップ下に移行。ここでも旗手は自慢のパスワークで存在感を発揮した。

 旗手の移行に伴い、左ウイングには右ウイングから回ってきた伊東が入った。三笘がいないと、ふだんしにくいさまざまなテストを敢行することができる。これこそが代表強化のあるべき姿なのである。

【誰が出場しても戦力が落ちない】

 カタールW杯後、初めて代表でプレーした南野は、いまひとつという印象だった。4−3−3ではインサイドハーフとして、4−2−3−1では1トップ下でプレーしたが、鎌田大地を圧して出場するにはピリッとしない、どこか弱々しい印象を与えた。

 鎌田が今回、参加していれば、南野は選ばれていたかどうか、わからない選手だ。鎌田が欠席したことで、南野の現在地を確認することができたわけである。有意義な時間と捉えたい。一方で、毎度、脇役に回っていた旗手が十分戦力になりそうなことを確認することもできた。こちらも鎌田の不参加がもたらした副産物と位置づけることができる。

 三笘、さらに鎌田は4−2−3−1で言えば2列目で柱となる選手だ。伊東しかり。久保が現状でははみ出ている状態だが、このカナダ戦では伊東を除く花形の3選手がピッチに立たなかった。珍しい光景だったが、こうした設定で試合をしなければ、畑を耕すことはできない。新たな可能性を追求することはできない。ジーコジャパン、第2期岡田ジャパン、ザックジャパン、ハリルジャパンがそうだったように、第3コーナーを回った辺りで失速状態に陥る。

 当時は層が薄かったと言えばそれまでだが、欧州で活躍する選手が飛躍的に増え、層が厚くなったにもかかわらず、畑を耕すことを怠れば、5試合以上の戦いに必要とされる総合力は高まっていかない。

 欧州のカップ戦に出場する選手は、それに伴う過密日程との戦いを強いられている。ホームで行なわれる代表戦に毎度招集することは、現実的に難しくなっている。だが、それは必ずしもデメリットではない。新たな選手が登場する絶好の機会になる。より多くの選手に出場機会を与えることこそが、真の代表強化なのである。場合によっては勝つこと以上の産物になる。

 誰が出場しても戦力が落ちないチーム。その概念が顕著となった試合。代表チームの今後のあり方が明確に示された試合。カナダ戦を筆者はそう位置づけたくなる。