高木豊のセ・リーグCS展望

ファーストステージ

 10月14日から始まるクライマックスシリーズ(CS)。セ・リーグはシーズン2位の広島と3位のDeNAがファーストステージを戦い、その勝者が10月18日からのファイナルステージでリーグ覇者の阪神に挑む。

 今年のセ・リーグCSはどんな展開になるのか。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、広島とDeNAによるファーストステージの展望、キーマンなどについて聞いた。


高木氏が注目する選手のひとりに挙げた、広島の坂倉将吾(左)とDeNAの林琢真

【広島はピッチャー陣が不安】

――今年のペナントレースは、セ・パともに優勝チームが2位に10ゲーム以上の大差をつけました。

高木豊(以下:高木) 特にパ・リーグに関しては、優勝したオリックスだけにしか貯金がない時期もありましたよね。セ・パともにこれだけ首位との差がある状況でCSをやるのはどうなんだろうと思いますし、優勝したチームへの配慮、仕組みを考え直すべきです。興行と言えばそうかもしれませんが、どうしても違和感を抱いてしまいます。これから展望をする前にすみません(笑)。

――今年はそういった議論が起こりやすいゲーム差になりましたね。そちらも今後気になるところですが、まずはファーストステージの展望から伺います。会場は、2位・広島の本拠地マツダスタジアムとなりました。

高木 広島にとって、本拠地で試合ができるかどうかは大きな問題でした。マツダスタジアムは内野に芝があったり、ちょっと特殊ですよね。そうなると慣れている広島のほうが有利で、DeNAにとっては守りの面で少し不利になる。あくまでも、守備に限定した有利・不利ですが。

――広島のピッチャー陣をどう見ていますか? 新井貴浩監督は第1戦で床田寛樹投手を起用することを明言していて、第2戦は森下暢仁投手になると予想されています。大瀬良大地投手や九里亜蓮投手は、中継ぎで待機するとも言われていますね。

高木 大瀬良はDeNAと相性がいいのですが、ここ最近は勝てていなかった。大瀬良を第1戦の先発で使うかどうかは悩みどころだった思いますが、床田を持ってきましたね。

 広島はあまり状態がいいピッチャーがいないんです。床田は10勝してからルーズなピッチングをしている印象ですし、森下もピリッとしません。九里は必死に頑張っていると思いますが、よかったり悪かったりが続いています。

【DeNAの「下剋上」阻止へ。坂倉をどう起用するか】

―― 一方、DeNAは第2戦までを東克樹投手、今永昇太投手に任せると見られています。

高木 東は最多勝(16勝)のタイトルを獲得しましたが、今年は一番安定していますし、ほとんどフォアボールを出しません。ファイナルステージのことを考えても、ローテーションとしては先に投げさせておきたいですよね。あと、今年の今永は勝ち運がないので、終盤に調子がよかった大貫晋一を2戦目までに投げさせることもあるかなと。大貫は10月1日の試合で、初めての完封をマダックス(100球未満で達成する完封勝利)で達成しましたし、ものすごく状態いいです。

 それと、注目しているのはCSに間に合った(トレバー・)バウアーの使い方です。ファーストステージを仮に2連勝できれば、ファイナルステージに進出した時に第1戦をバウアーでいける。彼は中4日で回れるので、ファイナルステージでもつれた場合は2回投げられる可能性がありますし、面白いですよね。DeNAは先発ピッチャー陣が充実しているので、「下剋上があるかも」と思っています。

――そんなDeNAの投手陣を打ち崩すために、広島のバッター陣でキーマンになりそうなのは?

高木 僕は坂倉将吾だと思っています。CSでは會澤翼がマスクをかぶって、坂倉はファーストでの起用でいいんじゃないかと。

 坂倉は今年、キャッチャーとしてものすごく成長しましたし、もう1段階成長させるために「CSもキャッチャーとして経験を積ませるべき」という考えもあるのですが......會澤は"扇の要"として全体が見えていますし、キャッチングやストッピング、リード面など、キャッチャーとしての総合力は坂倉をかなり上回る。ピッチャー陣の安心感も違うと思うんです。

 広島がどうしても勝ちたいのあれば、會澤がキャッチャー、坂倉をファーストで使って打撃に集中させるほうがいいと思います。 坂倉に期待するのは打撃です。(ライアン・)マクブルームは安定感に欠けますし、そもそもDeNAの投手力を考えると、一発はそこまで期待できない。そう考えても、坂倉はバッティングに安定感ありますし、打線から外せないでしょう。

【DeNA打線に生まれた「仕掛け」】

――坂倉選手以外にキーマンを挙げるとすれば?

高木 小園海斗です。主力選手がケガや特例で外れた時に、ひとりで頑張っていた印象もありましたから、CSでも彼の出来はチーム全体に影響を与えそうです。

 それと、今年は末包昇大が成長しましたね。得点圏打率(.361)もいいですし、走者を溜めて長打で還すというのは、ひとつの得点パターンだと思います。(マット・)デビッドソンを起用する選択肢もあるでしょうが、より安定感がある末包を使ってくるんじゃないかと。

――リリーフ陣はいかがですか?

高木 島内颯太郎は最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲りましたが、DeNAのリリーフ陣に比べると、全体的にはちょっと手薄な印象は否めません。栗林良吏はよくも悪くもない感じで、矢崎拓也、大道温貴も似たタイプなんですよね。

 ただ、(ニック・)ターリーが戻ってくるようなので、相手に与えるプレッシャーも違うでしょう。現状はリリーフに左ピッチャーがいないので、戻ってくれば心強いです。

――DeNAのバッター陣はどう見ていますか?

高木 佐野恵太が右手有鉤骨骨折で離脱したことで、シーズン終盤は林琢真、関根大気、大田泰示の3人で1、2、3番の上位打線を形成しているのですが、積極的に足を使おうとしていますね。なので、塁に出れば相手をある程度かかく乱できると思います。この3人が上位を担うまでは「打つまで待つ」という感じでしたが、3人とも状態がよくて機能しているので「仕掛ける」ことができています。

――高木さんはDeNAの打線に対して、よく「打つだけじゃ勝てない」と指摘していますが、それが解消できている?

高木 そうですね。それをシーズン中に試すことができて、ある程度いい野球になってきたかなと。ひとつ先の塁にしかいけないのか、2つ先の塁にいけるのかでは得点の可能性がまったく変わってきますから。

【打線における林の責任は大きい】

――佐野選手が離脱した影響はどう見ていますか?

高木 もちろん痛いです。ただ、短期決戦は守備の破綻が一番嫌なんですよ。相手もいいピッチャーが登板するので簡単には打てないですし、接戦になると守備力が高いほうが勝ちを拾えます。その点、佐野に代わって外野に入った大田は強肩ですし、守備範囲も広いので安心感があります。

――打線のキーマンは?

高木 やはり牧秀悟と宮粼敏郎でしょう。ただ、この2人はある程度やってくれるという前提で考えると、シーズン終盤の試合に1番で起用されていた林の出塁率が大きなポイントになってくる。打順のパターンはいろいろあるでしょうが、大田が3番で、やはり1番は林だと思うので、足を使っていくべきだと思います。

 広島戦の打率は、牧(.238)も宮粼(.269)もあまりよくないですが、2人がポイントゲッターであることは明確です。なので、林の責任が大きくなるかなと。

――リリーフ陣はいかがでしょうか? 脚の張りから復帰を目指している森原康平投手の状態は気になるところですが。

高木 森原の状態が難しければ、クローザーは(J.B)ウェンデルケンでもいいんじゃないでしょうか。ただ、そうなると8回がいなくなるので、(エドウィン・)エスコバーや伊勢大夢に任せるのか。リリーフ陣は、質はともかく"量"はいるので、仮に森原が戻ってこられなくてもなんとかなりそうですけどね。

――ファーストステージの勝敗はどうなると思いますか?

高木 2勝0敗でDeNAと予想します。やはり先発ピッチャーがいいですし、特に対広島戦で4勝0敗、防御率1.84の東を打つのは至難の業だと思います。それで先勝すれば、そのまま連勝でファイナルステージへと駒を進めるんじゃないでしょうか。

(ファイナルステージ展望:阪神は広島とDeNAのどちらが戦いやすい?>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。