今シーズンもプロ野球では、新人王有資格者を含めた各チームの若手が躍動。チームの主力として順位に影響を及ぼす活躍を見せた選手も少なくない。

 セ・リーグではリーグ優勝を果たした阪神・村上頌樹(しょうき)などの飛躍が目立ったが、他にも来季以降の活躍に期待できる若手選手は誰なのか。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、セ・リーグで目にとまった選手たちを挙げてもらった。


新人王争いも注目の阪神・村上(左)と巨人・秋広

【阪神・村上は優秀なイニングイーター】

――新人王候補の筆頭は3年目の村上頌樹選手だと思いますが、今シーズンの活躍をどう見ていましたか?

高木豊(以下:高木) 最優秀防御率(1.75)のタイトルを獲得しましたし、セ・リーグの新人王は村上でほぼ決まりでしょう。強みは「崩れない」こと。投げた試合のほとんどで先発としての役割を果たしましたし、完投能力もあります。
 
 印象に残っているのは交流戦の楽天戦(6月6日)です。試合には負けたのですが、完投(8回4失点)しましたよね。その時期の阪神は延長戦が続いていて、ピッチャー陣が総じて疲れていたんです。そんな時に村上がひとりで投げ抜いてくれたおかげで、他のピッチャーたちを休ませることができた。"フォア・ザ・チーム"というか、チーム全体に貢献している部分がすごく大きいです。

――「イニングイーター(長いイニングを投げられる先発投手)」としても優れていますね。

高木 村上の武器はコントロールのよさ、球のキレ、安定感ですが、それに加えてスタミナもあるのでイニングイーターとして優秀です。首脳陣からすれば、本当に頼りになるピッチャーだと思います。

 完全試合続行中で降板した試合(4月12日の巨人戦)もありましたが、その試合でのピッチングが自信になったのか、次の登板でもしっかり投げていました。精神的なタフさも兼ね備えていますね。

――制球力があり、ボールの出し入れも自在にできる印象です。

高木 絶対に自滅しないタイプですね。疲れてくると微妙にボールが甘くなってしまうことはありますが、それはどんなにいいピッチャーでもそうなるもの。ただ、村上の場合はボールが甘くなって少し打たれても連打を許さず、最後のひと踏ん張りがきくのも素晴らしいです。

【巨人・門脇の影響力は「大したもの」】

――同じく3年目で、新人王の資格がある秋広優人選手(巨人)はいかがでしょうか?

高木 新人王レースという観点でいえば、途中までは村上といい勝負をしていましたね。活躍し始めたのは村上よりも秋広のほうが早かったですし、「このまま安定した成績を残せばいけるかな」とも思ったのですが、シーズンを通して見ると物足りなかった。あの恵まれた体で本塁打は10本。レギュラーにもなりきれませんでした。

――7月には4試合連続本塁打を記録するなど、インパクトのある活躍を見せましたが、8月以降は成績を徐々に落としていきましたね。

高木 それでも、好調な期間が長かったほうだと思いますし、よく頑張ったと思います。近年の巨人の若手は、活躍し始めたと思ったらすぐに打てなくなるということが多かったですから。それでもやはり、村上の成績と比べてしまうと、新人王といい点ではインパクトもちょっと物足りないかなと。

――他に活躍が目についた若手は?

高木 巨人のルーキー、門脇誠です。最近では珍しく、守備で大きくアピールして起用されるようになりましたね。「岡本和真をサードから動かすことは絶対にないだろう」と思っていましたが、門脇を使うために岡本をファーストに移しました。首脳陣はそのくらい、門脇のサードの守備に魅力を感じたと思うんです。

 その後、坂本勇人の代わりにショートに入り、坂本がサードに移った。これもうまくいって、いい内野陣を形成することができました。打撃優先のオーダーを組む場合も門脇を外すのではなく、岡本をレフトに移してファーストに中田翔を入れたりしていましたね。つまり、門脇を使うことを前提とした布陣になっているわけで、ルーキーながらこの影響力は大したもんだなと。

 それと、前半戦は打率1割台でしたが、後半戦は8月に月間打率.339をマークするなど好調を維持していましたよね。プロのピッチャーへのアジャストが予想していたよりも早かったですし、攻守でいい活躍を見せていたと思います。

【バットを"振れる"強打者候補も】

――高木さんが開幕前に注目されていた、阪神のドラフト1位ルーキー、森下翔太選手はいかがでしたか?

高木 シーズン序盤は打率が上がらなくて二軍に落とされ、そこから上がってきてからは勝負所の試合で森下の名前を聞かない日がないぐらい、本当にいい場面で活躍しましたね。シーズンの打率は低かった(.237)ですが、打率以上にインパクトに残るホームランやタイムリーがありました。

――殊勲打が多く、チームを勢いづかせましたね。

高木 そうですね。近本光司がケガで離脱した時には、1番を任されることもありましたよね。バッターとしてのタイプも違いますし、近本の穴埋めを求める役割は酷でしたが、森下なりによく穴を埋めたなという印象です。近本がいない間でも、阪神は少しの負け越しにとどまりましたからね。

 開幕前は「やってみなきゃわからないタイプのバッターだな」と思っていたんです。ただ、あれだけバットが振れるなら、タイミングさえ合えばそれなりのバッティングはするだろうとも思っていました。問題は、どのくらいの時期にプロのピッチャーの球に慣れるかでしたが、徐々に慣れてくると力を発揮し始めたので、やはり素質はあるなと。まだまだ伸びしろがある選手ですし、これからどんなバッターになっていくのか楽しみです。

――近年は思い切り強く振れるバッターが大成する傾向がありますね。その観点から注目している野手はいますか?

高木 死球で指を骨折してしまった、2年目の田村俊介(広島)です。春季キャンプでティーバッティングを見た時、踏み込みが強くて思い切りのいいスイングをしていたので、「打ちそうだな」と期待していたんですよ。「いつ出てくるんだろう」と楽しみにしていたら、一軍のデビュー戦でプロ初ヒットを打って、そこから6試合連続でヒット。離脱は残念でしたが、来季以降もすごく期待しているバッターです。

――即戦力として期待されていた中日のルーキー、村松開人選手と福永裕基選手はどう見ていましたか?
高木 中日はチームがかなり低迷しているので、選手を育てていくことが難しい状況なんです。それと、村松も福永も、「帯に短したすきに長し(中途半端で物の役に立たないこと)」という感じで特長があまりありません。

 村松は交流戦前のDeNA戦、交流戦のオリックス戦と立て続けに2本のサヨナラヒットを打って勝負強さを見せる場面もありましたが、長続きしませんでしたね。福永に関しては粘りのあるバッティングを見せるケースもあるのですが、シーズン途中から疲れが見え始めて......。

 例えば、彼らが抜群に守備がうまい、足が速い、小技がめちゃくちゃうまいといった、何かしら飛び抜けているものがあればいいのですが、そうではない。ただ、今はチームが若返りを進めている段階ですし、来シーズンも当然レギュラーを獲るチャンスはあります。今シーズンの経験を糧にチャンスを掴んでほしいですね。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。