サッカー日本代表 10月シリーズプレビュー対談 前編

後編「久保建英はどの位置? 大迫勇也は呼ぶ? 日本代表のこの先の展開」>>

サッカー日本代表のカナダ戦(10月13日)とチュニジア戦(10月17日)が行なわれる。9月の欧州遠征ではドイツ、トルコに連勝したが、その強さの要因はどこにあるのか? ライターの西部謙司氏と清水英斗氏に9月の対戦を振り返りつつ、現在のチームの戦術を解説してもらった。


サッカー日本代表は先月のドイツ戦&トルコ戦に大勝。その戦術はどうなっているのか

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【ミドルゾーンでブロックを作って守る】

――9月のドイツ戦、トルコ戦の感想はいかがですか?

西部 非常にいい試合だったと思います。森保一監督はヨーロッパの国と相性が良くて、負けていないんですよね。カタールW杯のクロアチア戦も引き分け(PK負け)。

 戦術的には、ミドルゾーンでブロックを作って構えてショートカウンターという、今までと同じ流れでしたが、それが結構はまったというか。日本は、ハイプレスの強度がマンマークほど強くないので、相手は「結構つなげるな」と思って前に出てくるんですよ。

 そうするとミドルゾーンで引っかかって逆襲を食らう。2試合ともそのパターンでした。ドイツ戦とトルコ戦では選手も変わって守備の強度はかなり落ちましたけど、基本的な戦い方は同じで、試合の流れも同じだったかなと思います。

清水 僕がすごく印象的だったのは、プレス回避です。もちろん日本の守備が機能したこともありましたけど、やはりドイツは状況的にかなり崖っぷちだったので、予想どおりハイプレスかけてきました。ただ、日本はそれをかわして逆サイドへボールを運んで持っていったところから、先制点が決まってるんですよね。

 プレス回避は、日本は今までなかなかできなかったことですが、あれをやってゴールまでつなげたというのは、結構斬新な試合だったし、ひとつ壁を越えた感じはしました。

――ミドルゾーンでブロックを作った守り方とは?

西部 ピッチを横に3分割した真ん中のミドルゾーンに、日本は4−4−2のブロックを作って構えます。その状態から相手が後方から運んでくるボールを奪いに行くんですが、前線から完全に人を捕まえに行くというよりは、4−4−2のゾーンのまま詰めていくという感じです。

 ちょっとでも外されそうになった時は、もう全体がすぐにミドルゾーンにブロックを構え直す。前に出て行くけど、いつでも戻れるよという守り方をしていました。

 例えばマンチェスター・シティとかだったら、もう完全に相手ボールを片方へ追い込みます。一方のサイドに追い込み始めたらもう逆サイドには展開させずに、次々に人を捕まえにいきます。GKへのパスコースも切って潰そうという感じですけど、日本はそこまで極端にはやっていなかったです。

 というのも、これをやってもしかわされた時は、中盤にブロックを作る前に攻め込まれちゃうんですね。だから日本の場合は、外されそうだったらいつでもブロックを作り直せる守り方でした。

 秀逸だったのは、板倉滉と冨安健洋の2人のセンターバック(CB)が、すごく大胆にラインを上げて、相手を後ろに置くこともいとわなかったところ。もしロングボールが来ても戻れるし、相手がくさびの縦パスを打ってきたら前で対応できる。このCB2人の可動範囲とスピードがすばらしかったと思います。

清水 しかもドイツは、センターフォワードはカイ・ハヴァーツだったので、そんなに裏抜けするタイプではなかったこともあり、日本はラインを高く保てる感じがありました。その結果、板倉と冨安は、もうどはまりみたいな形になったかなと。

【ハイプレスもするが深追いはしない】

西部 結局DFラインが高いから、中盤の遠藤航と守田英正の運動量もそれほどかからずにセーブできるので、ブロック内の強度はすごくありましたね。やはりミドルゾーンに10人を収めて、そこの強度を強くしたいのが基本的な考え方だと思います。

 ハイプレスもするけど、全部人に行くほどのリスクは冒さないで、いつでもミドルゾーンにブロックを作れるようにしていると。

清水 ボールの奪いどころが、最前線のところではない感じでしたね。GKやCBがボールを出した先で奪うという感じだったので、そこまで深追いしないというか。深追いしすぎると、例えば空けてしまったサイドバック(SB)のところを使われて、一気にミドルゾーンを攻略されてしまうんですね。

 だからそこを慎重に、行きすぎないようにという感じで、西部さんが言われたような自分のブロックのところまで戻れるようにする意図は、僕も感じました。

西部 この守り方だと、相手は「意外とつなげるぞ!」と思うから人数をかけて前に出てくるんですが、そうするとミドルゾーンで奪われた時にスペース空いているから、日本はチャンスが大きくなります。

 ヨーロッパのチームは、パスワークでも割と予測しやすい回し方をするので、日本がヨーロッパに強いのが何となくわかる試合でしたね。逆に南米や北中米、それからアフリカに対しては、そこまで成績が良くない。それはなぜかと言うと、日本がやっているようなことを相手もやってくるから。その時にどうするかというのは、まだちょっと答えは出ていないですね。

清水 でも今の日本の個の力だったら、ブラジルとアルゼンチン以外だったらそれでもいけちゃうんじゃないかなと思うんです。トルコ戦なんて、森保さんの標榜する「良い守備から良い攻撃」が「悪い守備から良い攻撃」になっていました。

 プレスがはまらなくて、引かされてしまって。それでも良い攻撃になって4点も奪えるんだから、日本は個の力がやっぱり相当すごいなと。しかもサブメンバーでしたから。

西部 トルコはそこそこうまくて、日本の守備がそんなに強くないから、「行けるぞ!」って出ていったら、ボールを失って次々にやられるっていう感じでしたね。

――清水さんが印象的だったプレス回避はどのような感じだったですか?

清水 鎌田大地が日本のビルドアップ、プレス回避でカギを握っていたと思いました。

 例えば右SBの菅原由勢にボールが来た時に、当然相手が奪いにくるんですが、鎌田は、伊東純也が高い位置に張って相手を釘付けにしてできた手前のスペースを使う意図がすごくありました。トップ下の位置から流れてくるから、鎌田は攻守共に右寄りだったんですよね。

 鎌田がそのスペースに入ると、遠藤航、菅原、鎌田に対して相手2人の3対2の状況ができて、プレス回避ができていた。それが試合を通じてものすごく効いていました。

 だから今回、鎌田はメンバーから外れましたけど、この代わりはなかなかいろんな選手にできるものではないかなという気はしています。

【サブメンバーに戦術の浸透はない】

――トルコ戦の守備の悪かったところとは?

清水 4−4−2の形で守る時に、前線の2人が古橋亨梧と久保建英でいこうとしたと思うんですが、ここで相手の攻撃を絞り込めずボールを運ばれているケースが多かったですね。ドイツ戦ではアンカーの選手にほとんどボールを触らせていなかったんですけど、トルコ戦では普通に触らせまくっていた。

 結局これは中盤との絡みもあるんです。ツートップの追い込みと中盤の連動もなかった。ファーストプレスがはまらずにボールを運ばれるシーンがいっぱいありました。

 ただ別に古橋と久保のコンビだけがすごく悪いというより、日本代表でこれがうまくはまっているツートップの組み合わせも多分少ないんです。誰が入っても大体はまっていない。それでもドイツ戦の上田綺世と鎌田のコンビは、積み上げがあるし今まで親善試合のなかで、相手に振り回されながらもやってきた経験値があったということなのかなと。

 だから、サブメンバーでやはり全然浸透がないというところですね。

西部 冨安&板倉と遠藤&守田、この真ん中のところが非常に強かったのがドイツ戦。トルコ戦は、DFラインが冨安&板倉ほど強気のラインではなかったのかなと。

 どうしても陣形がコンパクトにならないので、一応ハイプレスしようと思っても、先ほど言ったように日本はゾーンで構えているから、人を捕まえているのに比べるとアプローチが遅いんですよね。そうするとやはり相手にボールを運ばれるケースが多くなって、DFラインもずっと下がるし全体に強度が全然足りなくなってしまう。

 ただし逆に相手が前に出てきてくれるので、カウンターがずいぶんチャンスになりました。

 もう一つ思ったのが、4−4−2で守備をする時に、前の2人の守備力って結構大事だなと。日本人のFWは例えばJリーグを見ていてもここの2人が頑張って、ちゃんと守備をさぼらないでやるんですよね。ミドルゾーンでブロックを作って守れるという時に、この前の2人が頑張れるのは、一つの要因かもしれないですね。

清水 すごく気になるのは、日本代表で普段やってないペアが2トップになる時、2人が相手に対してあべこべの寄せ方をする時があるんですよね。

 例えばボールを持っている相手CBに対して、1人のFWが相手のアンカーへのコースを消しながら寄せているのに、もう1人のFWもアンカーへのパスコースをカバーするようなポジションを取ってしまうとか。そうすると簡単に横パスで逃げられてしまいますよね。

 この2トップのプレスの連動が、なかなか取れていない。森保監督が今回のメンバーを選んだ時に「戦術の浸透を図りたい」と。選手はあんまり変わっていないのに戦術の浸透を図りたいというのは、結局今のメンバーの中では浸透できていないというのがあるのかなと。サブメンバーを中心に、できるメンバーをもっと増やしたい狙いがあるのだと思います。

 やっぱり主力のメンバーは、プレスに行くところの寄せ方などうまいですよ。他のメンバーと比べて開きがあるなと感じます。そこを引き上げたいんだと思います。森保監督の難解なメッセージを読み解くなら、そこはすごく印象に残りました。

【戦い方を変えない日本はアジアで大丈夫?】

――今回のメンバー選考に関してはいかがですか?

西部 もうこのままいくんだろうなという感じですね。変えないと思います。

清水 あとは4−1−4−1にするかどうかだけですよね。6月にやった時はそんなに守備に大きな破綻はなかったと思うので、こういうオプション持ちながらやるんじゃないかなと。特に古橋とかだったら、やはり4−1−4−1のほうががいいのかなと思いますね。

西部 これだけ日本がいいパフォーマンスをすると、相手は大体みんな引いちゃうと思うんです。そうすると、ミドルプレスをベースにした戦い方とは、また違うことを見せなきゃいけない。そうなると戦い方を変えない日本は意外とアジアの戦いで「おやっ?」ってことも起きるかもしれないですね。でも「そんなの関係ねえ」というのが基本的な日本のやり方なので(笑)。

清水 関係ねえと言っても、それで倒してしまえるほどやっぱり今は個の力がすごいなと。繰り返しになりますけど、そういう感じなんですよね。ドイツ戦もトルコ戦も。

西部 例えばアジアで相手が引きましたと。大体敵陣でワンサイドゲームになっていますという時に、人を捕まえて全部ハイプレスで行きますかと言ったら、やっぱりミドルゾーンに戻れるようなプレスしかしないと思いますね。一貫していると言えば一貫しているし、それが対アジアの最適解かっていうと「違うんじゃないの?」という気もしますけど。

清水 カタールW杯ではミドルゾーンで守備ブロックをつくるチームが大半だったみたいですよね。ハイプレスでいったチームはすごく少なかったという統計が出ています。

西部 やっぱりW杯本番ではハイプレスにリスクがあるからですね。今の日本のやり方が一番近いと思うのは、カタールW杯のモロッコです。ベスト4まで行きました。

清水 ただ、カタールW杯の時点で日本とモロッコを比べると、やはり先ほど言ったプレス回避にかなりの差があったと思うんです。モロッコは局地戦のミニゲームみたいなパス回しがすごくうまくて、相手のプレスを回避できるんですよね。

 そのあたりが大きな差だと1年前は思ったんですけど、ドイツ戦を見てそこが日本もできていたのがすごくポジティブだなと感じました。

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