菅原由勢のAZデビューマッチは2019年8月、ヨーロッパリーグ(EL)予選2回戦のヘッケン(スウェーデン)戦だった。

 以来、彼は5年間にわたって<週末=オランダリーグ>→<週なかば=欧州カップ戦、オランダカップ>→<週末=オランダリーグ>→......という、せわしいサイクルでプレーし続けてきた。その間、AZでプレーした170試合のうち、欧州カップ戦(CL、EL、UECL)出場数はクラブ歴代タイの46試合にも及ぶ。


菅原由勢はAZで5年目のシーズンを迎えた

 23歳の右サイドバックは、日本代表には今年に入ってから定着した。9月のドイツ戦で披露した菅原のパフォーマンスは、とてもまだキャップ数6とは思えぬものだった。

 10月5日、AZがヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL)のレギア・ワルシャワ(ポーランド)戦を1-0で勝利した直後、私は彼に「AZでの豊富な国際経験は代表でのプレーに活きていますか?」と尋ねてみると、「それは感じないですよ」と否定してから菅原は続けた。

「これだけ試合をしていたら、考えている暇がない──というのが実際のところ。相手チームの分析をしないといけない。自分のプレーのフィードバックもしないといけない。何試合出たとか言われて『あぁ、そうか』と感じるくらいで、気にしてないです。

 でも、試合に出ないと成長しないのでね。UECLでも出ると出ないとでは大きな違いがある。今日も(退場者が出て)10人で戦う、いい経験ができました。1戦目は"あんな負け方"をしましたし、ホームで勝ってよかったです」

"あんな負け方"とは9月21日、アウェーのズリニスキ・モスタル(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)戦で3点のリードをひっくり返され、3-4の大逆転負けを喫した試合のことを指す。

 メンタルに響きそうな負け方だが、3日後のオランダリーグ、ズウォレとのアウェーゲームをAZは3-0で快勝した。中2日という短い時間で、いかにAZは立て直したのだろうか?

【日本代表はサッカー選手としてこのうえない名誉】

「AZはよくも悪くも若いんでね。深く考える選手もいれば、考えてない選手もいるでしょう。しかし、チームとしては次々に試合が来るなか、具体的な改善点を出して『次はどうしていこう』というポジティブな話がある。

 3-0から負けてしまった試合でも『こういう経験は一生に一度、するかしないか。ここから強くなればいい。この経験を無駄にしないように』という話がありました。そして次のズウォレ戦でいい試合をして勝つことができました。

 若い選手たち──僕も含めてそうですが、いろいろな経験をすることが大事です。さまざまな(ネガティブな)感情とともにプレーすることもあるでしょう。それが個人的な状況からくるものなのか、前の試合の出来からくるものなのかわかりませんけれど、それでもチームのためにパフォーマンスを出して勝たないといけません。今はチームとして成熟してきている段階です」

 AZがチームとして"成熟"しつつあることを示したのが、10月8日のオランダリーグ、アヤックス戦だった。

「北ホーラント州ダービー」とも呼ばれる一戦で、ホームのアヤックスがボールを握るなか、AZはしたたかにカウンターからチャンスを作り続け、前半アディショナルタイムと後半立ち上がりにゴールを連取して2-0とした。その後、アヤックスのなりふり構わぬロングボール攻撃に1点を失ったものの、AZは全員が体を張り、時おりカウンターでジャブを打ち、危なげなく2-1で逃げ切った。

 これで2位AZは首位PSVとの勝ち点2差をしっかりキープし、10月の国際マッチウィークに入った。22日間で7試合という過密日程をこなしてきた菅原は、すぐに日本へ向けて飛ぶ。

「(日本に帰る前に)負けると勝つのとでは違う。でも、試合後にすぐに移動し、長時間のフライトと時差があるなか、金曜日(10月13日・カナダ戦/新潟)にすぐ試合もある。いかに100パーセントのコンディションをすぐに作るかというのが大事になります。

 日本代表という立場でいられる喜びと覚悟、誇りを持って戦います。疲れたなんて言い訳にはならない。日本代表はサッカー選手としてこのうえない名誉だと思うので、全身全霊をかけて日本代表のために全精力を注ぎます」

【伊東純也から見た菅原を筆頭とする若きSB陣】

 レギア・ワルシャワ戦のあと、菅原は「僕自身、フライトから来る時差・疲れということに目を背けることができないので、それに対してどうアプローチしていくか、勉強中のところがあります」とも言っていた。

 長距離移動のノウハウに関しては、彼もまだ試行錯誤している模様だ。菅原のことだから、先輩たちの経験、同世代の選手たちとの意見交換を繰り返して最適解を出していくことだろう。

 プレー面では、伊東純也、久保建英、今回はコンディションの都合で代表から漏れたが堂安律といった強力右サイドアタッカー陣と、菅原、橋岡大樹、毎熊晟矢といった若き右サイドバック陣がいかに連係を高めていくかが楽しみだ。

 9月12日のトルコ戦後、伊東がこんなことを言っていた。

「昔は酒井(宏樹)くんがずっと(右SBを)やっていました。俺は自由にやらせてもらう側だったんですけれど、若いサイドバックが何人も来て、彼らをうまく使ってあげるのも必要だと思います。自分で行くところと、使ってあげるところを、自分なりに考えながらやっています」

 このコメントを、アヤックスとの試合を終えた菅原に伝えると、こういう答えが返ってきた。

「僕は特に(堂安)律くん、(久保)建英、(伊東)純也くんの3人と、ほぼ組んでいる。彼ら3人が強力な選手ですので、僕も彼らのよさを最大限に活かしてあげられるようなプレーの関わりを意識していますし、お互いのよさをしっかり活かし合うことを話し合っています。

 やっぱり僕はサイドバックなんでね。ボールを持って(プレーする)というより、彼らの周りを走ったり、意図的にポジションを取ったりして彼らを活かしたい。3人とも守備で賢明に走って戻ってきてくれますし、カバーもしてくれます。心強い3人ですし、やっていて楽しい。

 彼らのようなレベルの高い選手と組むのは、すごく勉強にもなります。もっとああしてほしい、こうしてほしいという話し合いを毎試合するなかで、お互いに高めあえていると思っています」

【過酷な移動の多いワールドカップ予選をどう戦う?】

 最後に私は、エクセルで作った資料を菅原に見せた。この表を見れば、AZの一員としてどこの国に行き、どのクラブと戦ってきたかがひと目でわかる。その数20カ国・28クラブに及ぶ。

「めっちゃ行っているやん。すげえ」

 CLが欧州の1部リーグなら、ELは2部、UECLは3部にあたる。CLというトップ・オブ・ザ・トップのコンペティションの経験こそないが、マンチェスター・ユナイテッド、ナポリ、ラツィオ、セルティックといったビッグクラブと戦ってきた。

 また、カザフスタン、リヒテンシュタイン、アンドラ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナといった移動に負荷のかかる国に行ったり、サッカーで名の知られた国でも少し施設の劣るような環境での国際試合も経験してきた。

 ワールドカップ・アジア予選は、もっと過酷な移動を伴う。環境は想像もつかない。それでもELやUEELなどで20カ国をまわって試合をこなしてきた経験は、きっとワールドカップの予選で活かされるのではないか?

「移動はしまくっているので、『移動して試合』というのは慣れている。どこに行こうがコンディションに集中したい。環境に左右されることが一番(よくない)。ピッチ状況が悪かろうが、ホテルの環境に問題があっても......」

 その行間に、これまで菅原が口にしてこなかった過酷な旅が想像できる。

「一番はピッチでのパフォーマンス。それがすべてです。タフになるでしょうが、逆にタフで追い込まれたほうが日本人は活躍できると思う。そこは経験を活かしたいです」