「ひょっとしたら、イクイノックスより強いかもしれない」

 関西の競馬専門紙記者が、ある種の驚きを含んだ表情でそう言った。

 イクイノックスと言えば、海外GIのドバイシーマクラシックを圧勝し、ロンジンワールドベストレースホースランキングでも1位にランクされた、いわば現在の"世界ナンバー1"ホースである。

 だが、専門紙記者が目を見張る馬からは、そのイクイノックスを上回るほどの強さを感じるという。

 その馬とは、リバティアイランド(牝3歳)。GI秋華賞(10月15日/京都・芝2000m)で史上7頭目の牝馬三冠に挑む、才能満ち溢れた若き牝馬である。


秋華賞で牝馬三冠を狙うリバティアイランド

 一冠目のGI桜花賞(4月9日/阪神・芝1600m)では、ほぼ最後方から上がり32秒9という次元の違う末脚を繰り出して快勝。そして、続くGIオークス(5月21日/東京・芝2400m)では、中団前目の好位でピタリと折り合って、直線半ばで先頭に抜け出す"横綱相撲"の競馬で圧勝した。

 2着につけた差は6馬身。新馬戦で上がり31秒4という驚異の末脚を披露した素質が、ここで完全に開花した。

 この段階で、同世代の牝馬にはもはや敵なし。それゆえ、ほとんどの競馬ファンは、秋華賞もリバティアイランドが勝って牝馬三冠を達成する、と思ったはずだ。

 確かにそのとおりなのだが、先の専門紙記者によれば、この間の成長はその想像をはるかに上回っているという。だからこそ、「世界一のイクイノックスより、さらに強い可能性もある」と見ているのだ。

 専門紙記者がそう見立てる理由として、まずは馬体の成長を挙げる。オークス当時466kgだった馬体は、放牧先から帰ってきた時には500kgを優に超えていたそうだ。

 プラス40kg以上の馬体増だが、その大部分はいわゆる成長分。"太めが残った"感はまったくなく、専門紙記者曰く「馬体に一層の幅が出た」印象だという。

 しかも、精神面でも落ちつきが出ていて、春先にはうるさいところがあった馬が、そのうるささが鳴りを潜めて、おとなしくなっているとか。専門紙記者が言う。

「2歳の頃は、ええとこのお嬢さんという感じで、わがままというか、じゃじゃ馬っぽいところもありましたが、桜花賞の頃からだんだんと大人びてきて、それがひと夏越して、馬体的にも、ふだんのしぐさにおいても、すっかり"大人のオンナ"という感じになりました」

 このひと夏を超えての馬体増によって、「さらにパワーアップした」と思わせたのは1週前の追い切りだ。

 栗東のCWコースで行なわれた追い切りで、リバティアイランドは6ハロン81秒5という自己ベストを叩き出した。それも、ラスト1ハロンを11秒0という鋭いキレ味でまとめてのものだ。

 もともと素質が一枚も二枚も上という状況にあって、これほどの成長と目覚ましいまでの好調ぶりをアピールされては、秋華賞どうこうという興味を超えて、世界一のイクイノックスと比べたくなるのもよくわかる。

「イクイノックスより強い」かどうかはともかく、「どっちが強いか」という比較対象になりつつあるのは間違いないだろう。

 こうなると、秋華賞のライバル陣営も、表面上の反応はどうあれ、本音はすっかり"白旗気分"。「焦点は2着取りに絞られた」という声が大半である。

 まさに牝馬三冠達成は確定的。重箱の隅をあれこれつついても、秋華賞のリバティアイランドに"死角"というものは見つからない。

 オークスからのぶっつけローテにしても、心配の種というより、今やむしろトレンド。アーモンドアイ、デアリングタクトといった最近の三冠牝馬も、このローテーションで結果を出している。その意味では、オークスからの直行というのは、三冠を狙う牝馬にとって"王道ローテ"と言える。

 唯一心配があるとすれば、舞台設定か。「広くて持てる力を発揮しやすい」と言われる京都コースにあって、内回りの芝2000mだけは例外。取りこぼしや番狂わせが起こりやすいトリッキーな難コースとして知られる。

 最後の直線が外回りに比べて75mほど短く、これが逃げ・先行馬に有利に働く。だが、それを意識するあまりにオーバーペースとなれば、時に人気薄の追い込み馬が突っ込んできたりする。過去、このコース形態に泣かされた人気馬は何頭もいる。

「確かにリバティアイランドにとって、(秋華賞での)最大の敵はこのコース形態かもしれません。終(しま)いの爆発力に特徴がある馬ですから、(直線が短い)この舞台は決して向いているとは言えないでしょう。

 そうは言っても、歴代の三冠牝馬のなかには後方一気タイプの馬も何頭かいて、それらも克服してきたこと。オークスでは好位から抜け出していますし、リバティアイランドは同世代のライバルには及ばない異次元の末脚を秘めています。取りこぼしはまったく考えられません」

 ほんのわずかな懸念さえ、先の専門紙記者はそう言って一蹴する。

 考えてみれば、今ではJRAを代表するトップジョッキーで、何頭もの名牝の背中を知る主戦の川田将雅騎手が、リバティアイランドについて「今まで出会ったことがない(逸材)」と評している。

 巷で言われているとおり、秋華賞はこの秋のGIでは本命が最も堅い"テッパン"レースであることは誰の目にも明らか。注目すべきはただひとつ、どう勝つか。

 GIジャパンC(11月26日/東京・芝2400m)で実現するかもしれない、最初で最後となる"最強"イクイノックスとの対決に向けて、一段と興味が膨らむような圧勝を期待したい。