浅野拓磨は「ボーフム、やばいね」「ほんまに1対1だね」と戦術で驚かれ、降格圏にいても「どうにでもなる」
カタールワールドカップと今年9月の親善試合──ふたつのドイツ戦で得点を挙げた浅野拓磨。所属するボーフムでもケヴィン・シュテーガーと並びチーム最多のリーグ7戦2ゴールを挙げて好調......ではあるのだが、チームとしては難しい状況でもある。
チームはここまで4分3敗と未勝利で、総得点は5得点。つまり、浅野とシュテーガーが2ゴールを挙げた以外にアントニー・ルジアが1点を決めただけ、というなかなかの寂しさだ。最下位は免れているものの16位と降格圏に沈んだまま、今季2度目のインターナショナルマッチウィークを迎えている。
浅野拓磨は10月の日本代表戦でもゴールで主役になる?
この現実に対し、浅野はせつないことを言う。
「まぁ、ボーフムは間違いなくシーズン始まる前から残留争いするだろうな、というのは思っていました。チームとしてそんなに力があるわけではないと、僕も自負しています。
まずはひとりひとり、100パーセントで自分のやるべきことに集中して、ピッチで表現しようとしないと。当たり前ですけど(そうでないと)ブンデスのレベルで勝っていくことはできない。『自分たちはチャレンジャー』という精神が絶対に必要かなと思います」
昨季もギリギリで残留したボーフムにおいて、浅野は「今季も同じことになるだろう」と、はなから認めたうえで戦いを挑んでいるのだ。
ボーフムのトーマス・レッチ監督が基本的に採用しているのはオールコート──全ポジション、マンツーマンで相手を見る守備だ。めったに見ない戦術だ。
「日本人選手とプレーすると、いつも『ボーフム、やばいね』『ほんまに1対1だね』とみんな僕に言ってくるくらい、相当びっくりしているというか......。それだけ、こういうサッカーはそんなにないということだと思います」
浅野はそのレア度を説明する。
「ひとりがひとりを見る」ということは、対峙する相手にさえ負けなければいいという話ではあるが、一箇所やられてしまうと、そのあとすべてが崩れてしまうリスクも同時に抱えている。
【特殊なマンツーマン戦術に浅野の見解は?】「僕らも『ハマったらやれる』という自信はある。その経験もあるし、そこは間違いなく自信は持っていい。ですけど、うまくいっていないと感じた時にチームとしてどうするか、というのは必要かなと思います」
とはいえ、一箇所破られた場合の次の手があればいい話なのだが、マンツーマンにこだわるからなのか、どうにもうまくいかないのが今のボーフムだ。
「練習で監督が求めていることは全員やれていますし、それがハマった時のボーフムはすごいいいサッカーをする。これまでも、相手が強くても──バイエルン相手でもドルトムント相手でも、それがハマってしまうと僕らのサッカーができちゃうので。
そのイメージを100パーセント、持ってしまっているからこそ、それがハマらなかった時にどうするか。チームとしての選択肢がないのかなって」
かといって、それを考えるのは決して選手の役割ではない。
「海外というかサッカーって全世界そうかもわからないですけど、日本と比べてこっち(ドイツ)のサッカーは『監督の言うことをどう表現するか』が一番大事になってくる。戦術は監督、みたいなところがある」
まずはチームとしての方向性を指揮官に提示してもらわないと、選手は力を発揮しようがない。とはいえ話を聞くかぎり、浅野は現在のマンツーマン戦術に対して否定的ではなく、いかに前進させるかを示してほしいと思っているようだ。
いち選手としては八方塞がりにも思えるが、浅野は決してそんなこともないという。
「今シーズンの入りは悪くなかったかなと思っています。チームとしても個人的にも。みんな当たり前ですけど、監督に言われていることをやる。それが結果に出ないと自信を持てなくなるとか、監督を疑い始めるのは当たり前のこと。
僕はここで3年目ですけど、今年も含めて残留争いをするチームだと思っているので、今の状況は当たり前かなと。それに対してネガティブな気持ちはないです。去年も6節終了時で勝ち点ゼロだったので。それに比べたら今は勝ち点が3あるし(現時点は4)、去年は6試合目でケガしちゃったんですけどね」
【浅野は何度も日本代表を助けるゴールを奪ってきた】思い起こせば、浅野は昨年9月に負傷し、11月下旬のワールドカップ本番まで1試合もプレーしないままカタール入り。直前の親善試合・カナダ戦で45分間プレーしただけで初戦のドイツ戦を迎えたのだった。
それに比べれば、チームとしては勝ち点もあり、両脚は万全。悪くはない状況だ。
「いい状況というか、全然、どうにでもなるっすね」
そう話す浅野は明るく、力強かった。
これまで多くのシュートを外してきた浅野だが、勝負強さなのか、運なのか、ワールドカップ予選や本大会で日本代表を助けるゴールを決めてきているのは、もしかしたら日常のこうした厳しさがひと役買っているのかもしれない。