セリエA第8節、ラツィオは本拠地でアタランタに3−2で辛勝している。鎌田大地は後半19分、マテオ・グエンドゥージと交代で出場した。

 4日前のチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第2戦、セルティック対ラツィオ。前半20分をすぎた頃、セルティックの守備陣が空けたスペースに鎌田は体を入れ(彼の得意とするプレーだ)、いつものようにルイス・アルベルトが上げたボールを狙った。そして......何も起こらなかった。彼は誰もいないスペースにボールを送り、絶好のパスを無駄遣いし、ラツィオの値千金のチャンスを潰してしまった。

 この試合は、2009年と2011年にバルセロナで2度欧州チャンピオンになったペドロが、アディショナルタイムにヘディングシュートを決めたおかげで、ラツィオは勝ち点3をもぎ取った。だが、鎌田自身の働きは及第点とは言えなかった。後半には、今夏加入したもうひとりのMF、フランス代表マテオ・グエンドゥージとの連係プレーも見せたが、まだ鎌田に決定的な飛躍の時は訪れていない。

 ただ、鎌田がこのセルティック戦でずっとピッチに立ち続けたことは特筆すべきことだろう。彼が1試合フルにプレーしたのは、ラツィオ移籍以来これが初めてである。その前のリーグ戦4試合では鎌田はすべてベンチスタート。うちミラン戦とアタランタ戦は後半途中からプレーしたが、トリノ戦とモンツァ戦はベンチのまま終わっている。要するに、鎌田はいまだポジションを確立していないのだ。


直近のアタランタ戦は後半19分からの出場だった鎌田大地(ラツィオ)photo by AFLO

 スタンドの上から見れば、鎌田がプレーをよく知っていることは一目瞭然だ。知的で、戦術に忠実で、プレーの質も高い。そのことはマウリツィオ・サッリも気づいているだろう。しかし彼が飛躍するのはまだもう少し先になるかもしれない。

 そう予想するにはいくつかの理由があるが、ひとつの理由は最も単純で、サッリという監督に由来する。どんな選手も、彼との仕事の初期には苦労する。選手はまず彼の頭のなかに入り込み、多少の強迫観念めいた彼独特のやり方を理解し、さまざまなトレーニング方法を吸収しなければならない。

【重要な資質はゴールへ向かう攻撃】

 こうした監督と選手間の"儀式"は、サッリが監督になって以来、30年以上も繰り返し行なわれてきた。例えばチェルシー時代にサッリの元でプレーしたセスク・ファブレガスは、サッリとのこんなエピソードを明かしている。

「チームの練習はいつも必ず午後3時から。そのため、私は子どもたちとなかなか一緒に過ごすことができなかった。そこである日、練習を午前中に変えてくれないかとサッリに頼んだんだ。ところが監督は、『練習は絶対に3時からじゃなければいかん』と、その要求を突っぱねた。なんでもピサの学者が、午後3時は身体にとってベストな時間だと科学的に証明したらしいというのがその理由だった」

 サッリのサッカーには迷信とメソッドが混在している。新しい選手がそれに慣れるのに時間が必要なのは当然だろう。もうひとり、ドリース・メルテンスの例も挙げておきたい。メルテンスは、サッリのドリームチームだったナポリのCFで、2016−17シーズンには28ゴールを挙げてセリエAの得点ランキング2位に輝いている。

 その彼が「偽9番」になる前は、サイドアタッカーとしてのプレーに苦労しており、わずか5ゴールしか挙げられない年があった。この2015−16シーズンは、サッリがナポリで最初に指揮を執った年だったが、メルテンスがスタメンでプレーしたのは40試合中14試合だけだった。しかし、翌年にはナポリのスターになっている。

 キーワードは「時間」だ。鎌田はラツィオの財産だ。サッリは彼を信じている。ラツィオは今、3つの大会を戦っており、週ごとのローテーションは必須だ。別の見方をすれば、そのなかで鎌田はラツィオの10試合中8試合に出場し、うち6試合に先発出場、1ゴール、1アシストをしている。セルティック戦では輝きを放つことはなかったが、グエンドゥージとともにプレーできることも証明して見せた。

 鎌田の重要な資質は、チームでも有数のゴールへ向かうあくなき攻撃であるとサッリは繰り返し強調している。このことは、昨季フランクフルトで挙げた16ゴールや、それ以前のベルギー時代の16ゴールが証明している。ラツィオの中盤では、ルイス・アルベルトでさえ、これほどのゴールを挙げてきている選手はいない。唯一それに匹敵するのは――フィジカルやプレースタイルは異なるが――アル・ヒラルに移籍したセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチだけだ。

【ファンの気持ちは冷めていない】

 鎌田には、そのゴール数をラツィオにもたらす使命がある。サッリが彼に求めているのは「新しいミリンコヴィッチ」ではない。ミリンコヴィッチがラツィオに保証してきたゴール数をチームにもたらすことだ。フィジカルの後継者なら、グエンドゥージがいる。しかし、ゴールの後継者は鎌田だ。

 鎌田自身の過去を見ても、結果を出すまでには多少の忍耐を要することがわかる。フランクフルトでも、鎌田がその素質を発揮するまでには時間がかかった。シント・トロイデンへレンタル移籍する前のフランクフルトでの最初の1年は、わずか4試合の出場でシーズンを終えている。しかしベルギーから戻りレギュラーとなった最初の本格的な1年目(2019−20)はヨーロッパリーグ(EL)で活躍。プレーオフのザルツブルク戦でのハットトリックは有名だし、アーセナル戦での2得点もすばらしかった。

 ラツィアーレ(ラツィオファン)の多くは彼を気に入っている。トリノ戦、モンツァ戦の不出場も、彼らの鎌田の期待を削いではいない。ミリンコヴィッチの後継者ではあるが、彼とは全く違うタイプの、東の国からやって来たプレーヤーへの好奇心と、彼を応援する気持ちはいまだ冷めることがない。

 SNSのコメントを読んだり地元ローマのラジオを聞いたりしていると、サポーターたちは鎌田にもっと彼らしい個性をプレーで発揮してほしいと思っているようだ。デュエルでの強さ、見事なスルーパス、そして決定力など、鎌田らしいプレーを見せてほしいと思っている。

 選手の評価というものは、ピッチでのパフォーマンだけではない。データも非常に重要であり、この世界では選手の過去の数字や統計を見て契約を決めるチームも少なくない(ミランなどがまさにそうだ)。その点でいうと、これまでの鎌田のデータは興味深い。

 ミラン戦までのリーグ戦出場時間316分で、走行距離ではチームで9番目だ。パスのパス成功率は87%をキープし、そのうち重要なパスとなったのは6。フェリペ・アンデルソン、ルイス・アルベルト、マッティア・ザッカーニだけが、それよりも高い成功率を保っている。要するに、鎌田は自分の道を順調に切り開いていっていると言っていい。

 最後に言及しておきたいのは、グエンドゥージとのライバル関係だ。セルティック戦ではともにプレーすることが可能であることを示した。サッリ監督も試合終了後、こう明言している。

「2人を一緒に使うというアイデアは非現実的ではないだろう。だが、ほぼ3日おきにプレーするためには、いくつかの異なる解決策を持たなければならない」

 左のウィングハーフとしては、鎌田はいいプレーをしていた。後半、よりゲームの流れにも絡んでいた。しかし、右サイドでは絶好のチャンスを逃している。エリア手前でのファウルも二度と犯してはならないものだ(幸運にもセルティックはそのファウルから得たFKをクロスバーの上に高く蹴りあげ無駄にした)。

 ラツィオのwebニュースサイトとしては最も読者の多い 『Lalaziosiamonoi』、そしてイタリアの2大スポーツ紙 『La Gazzetta dello Sport 』と 『Corriere dello Sport 』は、セルティック戦の鎌田にそれぞれ5.5、5.5、6という評価をつけていた。妥当な評価だろう。鎌田のプレーは不正確だったが、積極的ではあった。

 サッリ自身は、鎌田のグラスの中身はすでに半分まで満たされてきていると考えているようだ。グラスが満たされるまでは、あともう少しだ。満たされてからの鎌田のプレーに期待したい。