ブライトンホームのリバプール戦。プレミアリーグ6位対4位の戦いである。3日前にヨーロッパリーグ(EL)を戦っている両チームは、それぞれスタメンを6人いじってきた。クラブとしての体力が問われる試合でもあった。

 遠藤航がベンチスタートで結局出番なしだったのに対し、三笘薫は4試合連続のスタメン。しかもフル出場した。プレミアリーグにおける出場時間は、ルイス・ダンク主将(イングランド代表)に次いてチーム2番目。攻撃陣のなかでは断トツのナンバーワンである。喜ぶべきことなのか。微妙な問題である。よくも悪くも、代わりがいない選手になっている。

 試合は立ち上がりから熱量の低い内容になった。両軍ともメンバーを入れ替えたものの、中2日の強行軍にチームとして対応できていない様子だった。ブライトンの場合、それは前戦のELマルセイユ戦から引きずる傾向でもあった。プラスアルファの力を発揮しにくい、精神的なノリに欠けるプレーが目立った。そのなかに三笘も埋没した。前半に作った見せ場は前半16分、アレクシス・マック・アリスター(アルゼンチン代表)を縦にかわして出たドリブルぐらいだった。

 三笘にとって痛かったのは、正規の左サイドバック(SB)が不在だったことだ。ペルビス・エストゥピニャン(エクアドル代表)に続きタリク・ランプティ(ガーナ代表)も故障。左SBには、通常右ウイングを務めるソリー・マーチ(元イングランドU−21代表)が座った。エネルギッシュな動きをするエストゥピニャン、ランプティとは異なる技巧派のパッサーだ。三笘と同系である。左サイドにはメリハリというか、コントラストが利いていなかった。


引き分けたリバプール戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)

 一方、右ウイングとして先発したサイモン・アディングラ(コートジボワール代表)は元気いっぱいだった。前戦(マルセイユ戦)が途中出場で14分間しかプレーしなかったことと大きな関係がある。前半20分。フィルジル・ファン・ダイク(オランダ代表)とマック・アリスターのパス交換を狙いカットするや、ガラ空きのゴールに流し込んだ。

【あわやPKゲットのシーンも】

 パッとしないリバプールが、らしさを発揮したのは前半40分。ダンクが中盤に預けるパスをマック・アリスターがカットするやドミニク・ソボスライ(ハンガリー代表)、ルイス・ディアス(コロンビア代表)、ダルウィン・ヌネス(ウルグアイ代表)とつなぎ、最後はモハメド・サラー(エジプト代表)が流し込んだ。ミス絡みとはいえ、高級なパス回しだった。

 リバプールの逆転弾はその4分後。今度はブライトンのGKバルト・フェルブルッヘン(元オランダU−18代表)がパスカル・グロス(ドイツ代表)につけたフィードを、ソボスライがカット。ここでグロスが反則を犯し、PKを献上したのだった。

 2失点はいずれもミス絡み。ビルドアップのパスを引っかけられたものだった。だが、ブライトンの指揮官、ロベルト・デ・ゼルビがそのスタイルを変えることはない。危なくなると5バックに切り替える日本人監督にはない魅力だ。

 それはともかく、三笘がこの日、その魅力を最も発揮したのは後半25分になってからだった。左ライン際でマーチのパスを受け、ドリブルで侵入。ジョアン・ペドロ(ブラジルU−23代表)が絡んだボールが目の前に戻ってくると、三笘は再びドリブル。次の瞬間、シュートを放つとボールはファン・ダイクの手に確かに当たった。PKか。ハンドだとアピールする三笘。だが不思議にも、このプレーはVARにさえならなかった。

 ブライトンに同点弾が生まれたのはその8分後。マーチが蹴った低いFKをダンクが合わせ2−2とした。そして試合はそのまま終了。先述のとおり、三笘は終了の笛が鳴り響くまでピッチに立ち続けた。尻上がりによくなるプレーを見せられると、フルタイム出場は正解と言わざるを得なかった。

 この試合に限った話ではない。前戦のマルセイユ戦もそうだったように、三笘はむしろ後半にいいプレーをする。ペース配分がうまいというか、飛ばしすぎて潰れることはない。最後まで失速しないマラソンランナーを彷彿とさせる。

 プレスをサボっているわけでもない。むしろ勤勉で忠実。真面目である。頭脳的でもある。出場時間が延びる理由、代えにくい選手である理由がよくわかる。好不調の波がない。1試合に必ず1本ヒットを打つ3割バッターのようである。エラーもしない。走塁ミスもない。沈着冷静。常に淡々と、ポーカーフェイスで激高することもない。ひと言でいえば好選手だ。

 だが、逆に少々皮肉を込めて言えば、優等生だ。馬鹿になりきる感じがない。その分、爆発力に欠ける。なんというか、FW気質に富む選手には見えないのだ。

 とはいえ、相手のリバプールは欧州のトップクラブだ。今季はチャンピオンズリーグにこそ出場しないが、欧州のトップ5から8に入るクラブだ。この試合の三笘を、リバプール側でプレーしても十分やっていけそうなことを証明したと評価することもできる。採点すれば6.5。連投ではなければ7は狙えそうに見えた。

 対照的な姿を描いているのが遠藤だ。前戦のELユニオン・サン・ジロワーズ戦では先発を飾ったものの、後半開始とともにマック・アリスターと交代している。ユルゲン・クロップ監督は結果として、マック・アリスターに頼ることになった。チーム内での序列はけっして高くない。

 試合に出すぎの三笘と出なさすぎの遠藤。この関係が日本代表にどう反映するか。注目したい。