三笘薫、冨安健洋、遠藤航...プレミアリーグでの進化のカギ 福西崇史は「周囲との連係」と解説
世界最高峰と言われるイングランド・プレミアリーグ。今季は三笘薫(ブライトン)、冨安健洋(アーセナル)、遠藤航(リバプール)と3人の日本人選手がプレーし、日本のファンからの注目も高い。リーグ中継で解説を務めている元日本代表の福西崇史氏に、3選手の活躍の状況と今季の見どころを教えてもらった。
三笘薫(右)、冨安健洋(中)、遠藤航(左)、プレミアリーガー3選手が注目されている
ブライトンの三笘は開幕からコンディションがよく、インパクトのあるプレーを連発している。
昨季、とくにカタールW杯以降にセンセーショナルなプレーを披露して、いまや三笘は相手に対策をされるアタッカーになった。ひとりで止められる選手ではないので、今季相手DFは簡単には三笘の懐に飛び込まなくなっているし、それでも仕掛けられると、後方のDFもそれをカバーする意識が非常に高くなっている印象だ。
そのなかでも三笘は打開をしていかなければならないわけだが、実際にそこからチャンスを作り、ゴールを決めているのは、さすがとしか言いようがない。完全にひとつステージが上がった選手になっているし、より進化を感じさせる。
顕著なのは、ゴールやアシストといった数字の部分への意識が上がったことだ。昨季もゴールやアシストは多く残したが、今季は開幕からその意識の変化を感じさせている。
昨季との違いは、中へ入るポジショニングだろう。
昨季途中も三笘は警戒され、縦方向の突破を消された時にやや停滞する時期があり、ロベルト・デ・ゼルビ監督に中へ入るポジショニングを求められてチャレンジしていた。それが今季はより増えて、ボックス(ペナルティーエリア)の中に入る回数も増えたことで、よりゴールが奪えるようになっている。
中に入る意識だけではなく、そのタイミングがいいことも、向上している理由だ。左サイドバック(SB)のペルビス・エストゥピニャンが上がってくるタイミングで中に入るとか、FWジョアン・ペドロやFWアンス・ファティが左サイドに流れるタイミングで、入れ替わるように中に入るなど、タイミングや形がかなりスムーズになっている。
三笘は初めからトップ下にポジションを取って仕事ができるタイプではないので、こうしたサイドから中へ流れて入るという形が必要だ。だから周囲の味方とよりスムーズに連係を取ることが重要になってくると思う。
第2節のウルヴァーハンプトン戦の前半15分に、複数のDFに阻まれながらもドリブルで抜き去って決めたゴールは、シーズンハイライトにも入りそうなスーパーゴールだった。また、途中出場となった第6節のボーンマス戦で、後半開始直後に瞬く間に逆転弾を決め、後半32分に追加点を決めたのは、格の違いを見せつけたような強烈なインパクトを与えた。
今季の三笘は、昨季を超えるゴールとアシスト数になるだろう。昨季もデ・ゼルビ監督には2ケタ得点を要求されていたが、この調子を維持できれば2ケタは余裕で達成できると思う。より危険な選手へ進化していくのを楽しみにしたい。
【冨安健洋には先発での定位置確保に期待】アーセナルの冨安は昨季、一昨季とケガに泣いてきた。とくに昨季はリーグ優勝のかかった大事な時期に負傷離脱し、本人としてもかなり悔しい思いをしただろう。
今季のプレーを見ていると、「かなり自信をつけてきたな」という印象を持っている。守備時の安定感、1対1の強さ、高さは、調子がいい時のプレーを取り戻してきているし、攻撃でも左SBに入った時に偽SBとしてのプレーに思いきりのよさが出てきた。
そんななかで今季の冨安に期待するのは、先発での定位置確保だ。昨季は右SBのベン・ホワイトのバックアッパーとしての起用が多く、今季もここまでリーグ戦での先発起用は第2節クリスタルパレス戦での左SBのみ。それ以外は終盤に左SBアレクサンドル・ジンチェンコとの交代で、守備を固める場面での起用になっている。
しかし、先日行なわれたカラバオカップ(リーグカップ)3回戦のブレントフォード戦で、アーセナルに加入以降初めてセンターバック(CB)で先発起用された。安定した守備を披露しながら、決定機を阻止したシュートブロックなど、見せ場も作ってマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるほどの活躍だった。
相手がチャンピオンシップ(2部リーグ)に降格したレスターだったこともあるかもしれないが、改めて冨安のCBとしての能力の高さを証明した試合だった。それを見ると、やはりCBとして勝負してほしいなとも思う。
アーセナルのCBはガブリエウ・マガリャンイスとウィリアム・サリバが絶対的な存在だが、冨安はそこへ割って入れる実力は十分あると思う。とはいえ、ふたりの牙城はやはり高いものがあるので、まずは常に試合に絡んでおけるコンディションと、安定したパフォーマンスが求められるだろう。
そのために、まずは右SBのホワイトとの競争で定位置を掴むのが現実的だ。守備においてはスピード感やポジショニング、1対1の強さは、冨安のほうが優れている場面もある。
そこから先発で使われるためには、やはり攻撃でどれだけ印象的なプレーができるかだ。右サイドでMFマルティン・ウーデゴール、FWブカヨ・サカとどれだけいいコンビネーションを見せ、質の高いランニングと、精度の高いクロスを供給できるか。そこの部分で昨季のホワイトは質の高いプレーを披露したので、冨安に求められるレベルも高くなる。
現状でも、守勢に回る展開が予想される相手には、冨安がファーストチョイスになるケースもあるだろう。ただ、それだけではなく、マルチなバックアッパーというポジションから、常に冨安が選ばれるという主力へのステップアップを期待したい。
【遠藤航に求められるのは、まず慣れること】遠藤のリバプール加入は正直驚いた。30歳の選手が獲得されたのは、それだけユルゲン・クロップ監督に即戦力として高く評価されていることの証だろう。同ポジションで獲得に動いて獲れなかった選手がいて、遠藤は第1候補ではなかったもしれないが、それでもクロップ監督の獲得リストに名前が挙がっているというだけで快挙だと思う。
デビューとなった第2節のボーンマス戦では、MFアレクシス・マック・アリスターの1発退場によりひとり少ない状況での投入と、難しい状況だった。次の第3節のニューカッスル戦では先発したが、前半28分に今度はDFフィルジル・ファン・ダイクが1発退場となり、再びひとり少ない状況での展開になった。
2試合連続でこんな状況になるのは、なかなかあることではないが、遠藤は落ち着いて対処していた。初めてのプレミアリーグ、相手のレベルもかなり高いなかで、堂々とプレーできたのは、経験のある遠藤だからできたことだと思う。
ただ、そこからはベンチスタートが主になってきている。まず遠藤に求められるのは、どれだけスムーズにプレミアリーグ、チームに慣れるかだと思う。
ブンデスリーガとは強度やスピード感も違うし、またクロップ監督のサッカーには決めごとが多く、慣れるのが難しいとされている。遠藤は今季のプレシーズンをシュトゥットガルトで過ごしていたので、それも慣れるのを難しくさせているだろう。
また、リバプールにはトップレベルの選手が集まっている。ゲームをコントロールするタイプではない遠藤は、より周りに合わせるプレーが求められる。初めて触れるサッカースタイルのなかで、トップレベルに合わせながら慣れるというのは相当難しいことだと思う。
例えば守備の時に、遠藤としては狙いを持ってサイドを限定して相手を追い込んでも周りがまったく違う意図を持って動いているなど、遠藤の意図をまったく感じてもらえず、動きが噛み合わないというのは往々にしてある。
そこで遠藤がリバプールのやり方を、シーズンを戦いながら理解して周りに合わせていく。これは口で言うよりも遥かに難しい作業だ。ただ、それでも遠藤の頭のよさならできる。ただ、慣れる段階ではどうしてもプレーの波が出てきてしまうのは仕方がないと思う。
そんななかで、先日のカラバオカップ3回戦のレスター戦では先発し、印象的なプレーを披露していた。攻守にプレーエリアがより高い位置に上がって、カウンタープレスで潰す場面もあり、スピード感やスタイルに慣れてきたことで視野の範囲もかなり広がっていた。ドミニク・ソボスライへのアシストは、それが顕著に表れていた。
遠藤に求められるのは、まずは慣れることだが、そこから得意な守備に加えて攻撃も向上しなければポジションを掴むのは難しいだろう。いまはアンカーをマック・アリスターがやっているが、遠藤がここに入って彼のように局面を打開しつつゲームコントロールをするのはかなり大変だと思う。
日本代表のようにダブルボランチであれば、攻撃面を守田英正や鎌田大地に任せることもできるが、アンカーひとりの状況での攻撃は周りとの距離が遠く、サポートが少ないとかなり難しい。
リバプールは右SBのトレント・アレクサンダー=アーノルドが、偽SBとしてチームのボール保持時はボランチに入るので、遠藤はそこのサポートをうまく使いつつ、攻撃でも貢献できるようになれば、高いパフォーマンスにつながってくると思う。
我々は簡単に「慣れてから」と言いがちだが、最高峰のプレミアリーグ、ましてやトップ・オブ・トップのリバプールというチームに慣れるというだけで、相当にハードルの高いこと。リーグ戦では途中出場から逃げきる展開の時の守備的なカードとしての起用になっているが、そこから着実に出場時間を伸ばして、焦らずに適応していってほしい。
冨安、三笘、遠藤とそれぞれ置かれている立場や役割は異なるが、プレミアリーグでよりレベルアップできるようなシーズンが送れることを楽しみにしている。
福西崇史
ふくにし・たかし/1976年9月1日生まれ。愛媛県新居浜市出身。新居浜工業高校から95年にジュビロ磐田入り。ボランチのポジションで活躍し、多くのタイトルを獲得。チームの黄金期の主力としてプレーした。その後、FC東京、東京ヴェルディでプレーし、09年に現役引退。J1通算349試合出場、62得点。日本代表では02年日韓W杯、06年ドイツW杯に出場。国際Aマッチ64試合出場7得点。現在は解説者として活躍中。