円安で強みのコストパフォーマンスを発揮できなくなり、停滞感が強まっていた中国メーカーのオッポやシャオミ。だが2023年9月末に入り、両社は大規模な発表イベントを実施し再び攻めに転じる姿勢を見せている。円安傾向が変わっていないにもかかわらず戦略を転換したのには、日本市場で強まるグーグルの存在感が影響しているのではないか。

○ハイエンド・ミドルハイモデルの積極投入に舵

円安であらゆるものの値段が上がっている昨今。スマートフォン市場でも端末価格の大幅な値上がりに加え、国内メーカー3社を相次いで撤退・破綻に追い込むなど影響が顕著に出ているが、これまで勢いのあった中国の新興メーカーも円安には苦しめられているようだ。

実際、オッポは2021年7月の「OPPO Find X3 Pro」を最後に国内でハイエンドモデルを投入しておらず、それ以降はミドルクラスの「Reno A」やローエンドの「A」など低価格モデルのみを展開。またシャオミも、2022年前半までは積極的に新機種を投入していたが、後半に入ると販売したのはソフトバンクが取り扱ったハイエンドの「Xiaomi 12T Pro」のみ。2023年の前半に至ってはローエンドの「Redmi 12C」のみと、急速に新機種投入ペースが落ちていた。

だが2023年9月末に、両社は大規模な新製品発表イベントを相次いで実施。ともに従来の消極姿勢から一転し、攻めの姿勢を見せている。

それは各社が発表した新製品からも伝わってくる。2023年9月27日に発表会を実施したシャオミの新製品を見ると、スマートフォンだけでもローエンドの「Redmi 12 5G」に加え、ハイエンドの「Xiaomi 13T」「Xiaomi 13T Pro」の2機種の発売を発表している。

一度に3機種の投入を明らかにしたことにも驚きがあるが、それに加えてハイエンドの2機種は、実は前日にグローバルでの発表がなされたばかりのもの。それをFeliCaに対応させるなど国内向けのカスタマイズをしっかり施して発売するとしているだけに、力の入れ具合を見て取ることができるだろう。

シャオミが発表した新機種「Xiaomi 13T」シリーズ2機種は、グローバルでの発表翌日に、FeliCa対応した上で国内投入すると発表。力の入れ具合を見て取ることができる

加えてシャオミはスマートフォン以外にも多くの製品投入を発表。中でも注目されたのが、最近国内でも注目を高めつつあるチューナーレステレビの「Xiaomi TV A Pro」。「Google TV」を搭載しており各種動画配信サービスを大画面で視聴できるものだが、KDDIが独占販売し家電量販店ではなく全国の「auショップ」で販売されるなど、販売施策の面でも非常に特徴的な内容となっている。

シャオミはスマートフォン以外にも多くの新製品を発表。大画面のチューナーレステレビ「Xiaomi TV A Pro」はKDDIが独占販売するという

翌日の2023年9月28日に発表会を実施したオッポの新製品も、やはり攻めの姿勢を見て取ることができる内容といえる。なぜなら同社が日本市場に向けて投入を打ち出したのは価格重視のミドルやローエンドではなく、それより1つ上のクラスとなるミドルハイクラスの「OPPO Reno10 Pro 5G」だったからだ。

OPPO Reno10 Pro 5Gはカメラ、チップセットの性能がミドルクラスの「OPPO Reno9 A」より高いだけでなく、独自の80W急速充電に対応し、28分で2%から100%まで充電することが可能という独自性も備わっている。それゆえソフトバンクが、同じく高速な急速充電に対応しているXiaomi 13T Proと同様、「神ジューデン」スマホとして販売することを明らかにしている。

オッポの新機種「OPPO Reno10 Pro 5G」は80Wの急速充電に対応。専用の充電器が必要ではあるものの、バッテリーが2%の状態から28分で100%に充電できるという

○中国メーカーをも圧倒するグーグルの低価格戦略

オッポの日本法人であるオウガ・ジャパンの専務取締役である河野謙三氏も、円安が急速に進んだこの2年間が「どの企業にとっても経験したことない状況」と話し、事業環境が非常に厳しい様子を見せている。だがその一方で、OPPO Reno10 Pro 5Gの発売を機として「再び日本で積極展開する」とも話し、ミドルハイクラス以上の製品を積極投入し攻めに転じようとしている様子を示している。

円安の進行以後ミドルクラス以下のモデルに集中していたオッポだが、日本法人のオウガ・ジャパンの河野氏はOPPO Reno10 Pro 5Gを機として、再び攻めに転じる姿勢を見せている

だが市場環境を振り返ると円安の傾向が大きく変わっている訳ではなく、むしろ再び1ドル当たりのレートが150円に近づくなど一層円安が進む可能性も出てきている。にもかかわらず、なぜ中国メーカーは攻めに転じるに至ったのかというと、攻めなければ負けていまう状況が生まれてしまったが故だろう。

その理由は米グーグルにある。グーグルは2021年発売の「Pixel 6」シリーズ以降、日本での存在感を大きく高めているが、そこにはコストパフォーマンスの高さが非常に大きく影響している。

グーグルはPixel 6シリーズ以降、自社開発のチップセット「Tensor」をスマートフォンなど多くの機器に採用しており、クアルコムやメディアテックなど外部からチップセットの調達が必要なメーカーと比べると低価格化を進めやすい。それに加えて同社は日本市場に重点を置く姿勢を示し、円安が進む中にありながらもPixelシリーズを相場より安い値段で販売している。

とりわけ低価格モデルの「a」シリーズは、5〜6万円台という価格ながら上位モデルと同じチップセットを搭載。非常に高いコストパフォーマンスを実現したことで大きな注目を集めている。

しかも2023年発売の「Pixel 7a」では5G向け周波数帯の1つである4.5GHz帯(n79)に対応し、この周波数帯を使用しているNTTドコモからの販売も実現。それゆえ2023年には各種調査会社の調査でもグーグルが急速にシェアを伸ばしている様子を見て取ることができる。

日本市場で攻勢をかけるグーグルはコストパフォーマンスで他社を圧倒。「Pixel 7a」でNTTドコモからの販売も実現し、販路の拡大も順調に進んでいる

このグーグルの動きは、従来コストパフォーマンスを武器にしてきた中国メーカーのお株を奪うものといえるだけに、中国メーカーの危機感は高いだろう。だがもう1つ、中国メーカーが危機感を抱く理由は政治にある。

米国企業であるグーグルは中国メーカーと違い、米中の対立や、ここ最近急速に悪化している日中関係など、政治の影響を受けにくい。中国メーカーの採用を避けているNTTドコモからの販売を実現できたのも、4.5GHz帯の対応に加え政治的影響の少なさが大きく影響していることは間違いない。

それだけにグーグルに対する中国メーカーの危機感は非常に強いといえ、円安が進む状況下であっても攻めに出る必要に迫られたというのが正直な所ではないだろうか。企業体力的にも多くのスマートフォンメーカーを圧倒しているグーグルが相手となれば一筋縄ではいかないだけに、今後2社がいかなる戦略をもって市場での生き残りを図るかが注目される。