辛い場所からは逃げてもいい…“亀”が主人公の青春映画「亀も、青春は短い」地上波放送

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テレビ東京若手映像グランプリ2023」優勝作品「亀も、青春は短い」の新撮を含めたディレクターズカット版が、本日4月17日(月)深夜24時30分テレビ東京にて放送。


「やりすぎ都市伝説」「地球風呂(みずぶろ)」などを手掛ける入社7年目の林毅さんが企画・監督した、主人公が“亀”の青春映画。今回の地上波放送では、林さんが「元々撮りたかった」という、亀の家のシーンと、東京に行ったヒロインの様子を新たに撮影。亀の母を安藤玉恵さん、父をコウメ太夫さんが演じる。林さんに、本作に込めた思いを聞いた。

なぜ“亀”を主人公に?




――主人公のちょっとドンくさい高校生・長谷川は“亀”です。本作はどんなところから発想されたんですか?

「ずっと青春映画をやりたかったんです。僕は今回ロケをした長野県・諏訪の出身で、そこから東京に出てきてテレビ東京で働いているけど思うようにはいけてない…“チキショー”というものが根本にあって。今考えると、“青春に戻りたい”“東京で生きているだけで大変なんだよ”という気持ちを表現したかったのだと思います。

そこから『若手映像グランプリ』での“戦い”ということを意識して、尺が短いので話自体はベタに。青春はスピードが速いと思うので、逆に“めちゃくちゃ遅いもの”ということで“亀”に行きつきました」

――もしかしたら主人公にはご自身を投影されているとこともあるのかなと思いながら拝見したのですが、そういう思いがあったんですね。“東京で生きているだけで大変なんだよ”という部分には、私も地方出身なのでグッときました。

「そうなんですよ。共感してくれる方は、だいたい地方出身の方で」

――主演の“亀”くんが、いい表情でいい演技をしていましたが、生き物を使っての撮影は大変ではなかったですか?

「ペット事務所に所属している亀なんですが、犬のようにしつけができないから動きを調整することはできない言われて最初は心配だったんですが、意外とうまくいきました。画映えするんですよ。“ただ止まっていてくれればいい”と思っていたところで、いい感じで首をにょきっと出すとか。そういう瞬間は現場が盛り上がりましたね」


――亀以外のキャスティングはどのように?

「亀が特殊なので他はベタでいこうと。亀に優しくしてくれるのは“ちょっと大人っぽくて不思議な感じのするキレイな子”というイメージでヒロインを探して菊池日菜子さんに。人気TikTokerの伊藤雨音さんは、芝居を投稿しているのをたまたま見ていたら、諏訪出身だとわかって、お願いしました」――「テレビ東京若手映像グランプリ」の制作費100万円ですが、ショートフィルムを撮るには厳しい条件ですか?

「実は機材費は大会全体の予算から出していいというルールがあるので機材はいいものを使って、人件費やロケ費用を節約しました。舞台となる高校は僕の母校で、エキストラも学校の生徒たちで、パン屋のおばさんは僕の母親で、みんな無償で協力してもらいました。宿泊費もないので、撮影の5日間、スタッフ十数名は僕の実家に泊まってもらって、母親が料理を作って。楽しかったですね」

――亀の長谷川くんが…というクライマックスで流れるTHE BLUE HEARTSの「人にやさしく」も印象的です。

「僕の青春時代はTHE BLUE HEARTSで生きてきたので、亀もTHE BLUE HEARTS好きという設定にしたかったんです。YouTubeで公開なので本来楽曲は使えないんですが、事務所に電話して『どうしても使いたいです』とお願いしたら、『本人確認します』と許可をいただいて。もしかしたら、ご本人にこの作品のことが伝わっているのかなとドキドキしています」


――普段は「やりすぎ都市伝説」などバラエティを担当されていますが、今回はショートフィルムでの受賞。元々の希望は、こうした映像作品だったんですか?
「映画は好きでしたが、バラエティを作っていこうと思っていました。そんな中で『地球風呂(みずぶろ)』をやってから“画にこだわって撮る”ということが面白いなと思い始めて。その番組のCMを作ったチームと、今回は映画を作ってみたいな、と」

――今回の受賞をきっかけに、今後やっていきたい企画などは?

「今回のように短編映画が地上波で放送されるのは珍しいことなので、いい機会だし、もっと増えてもいいと思っています。自分が作った短編がド深夜でもいいのでテレ東で放送されるということが、インディーズ映画を作っている人たちにとって、ひとつの目標になるかもしれないですし。もっとテレビと映画の融合ができればいいと思っているので、そういう企画を出していきたいです」


――最後に、本作は自分の“居場所”について考えさせられる物語ですが、入社7年迎えた今、林さんの居場所は見つかりましたか?

「『どんな作品ですか?』と聞かれるたびに、『“居場所”の映画です』とカッコつけて言ってたんですけど…居場所は見つからないですね、いつまでたっても(笑)。自分に合っていない場所や辛い場所からは逃げてもいい、無理して人間に合わせる必要はないよ、という意味でのラストで。もっと逃げられるようになればいいなと思いながら作りました」

――今逃げたいですか?(笑)

「いえいえ、幸せなことに居心地はいいです」

【プロフィール】
林毅(はやし・つよき)
2017年、テレビ東京入社。「ありえへん∞世界」「プレミアMelodiX!」などを経て、「やりすぎ都市伝説」「Mr.都市伝説 関暁夫のゾクッとする怪感話」のディレクター、自らの企画による「関さんぽ」「地球風呂(みずぶろ)」などを手掛ける。
Twitter:@hayashi_ttt

(取材・文/国川恭子)