羽田空港直結の複合施設「羽田エアポートガーデン」とともに新バスターミナルが開業。一方で成田空港はバス乗り場を移設します。両空港のバスアクセスは歴史的に違いがありますが、いま、それぞれの方向性で競争が激化しつつあります。

羽田に“離れた”新バスターミナル 成田は“近くに”バス停移転

 2023年1月31日、羽田空港内に「羽田エアポートガーデン」が開業しました。第3ターミナルから連絡通路で結ばれた複合施設で、ホテルや商業施設のほか、バスターミナルも設けられています。一方、成田空港では、3月1日、第3ターミナルのバスの乗り場が移転します。従来、同ターミナルに到着した航空旅客がバスに乗るには、歩道橋を渡って乗り場に向かう必要がありましたが、到着ロビーの正面、通称「カーブサイド」から乗車できるようになります。

 羽田では、旅客ターミナルのバス乗降場とは別にバスターミナルを新設。片や成田は、旅客ターミナルに近づける改修。対照的な動きがあった両空港ですが、バスのアクセスをめぐっては歴史的にも、方針の違いがありました。

「羽田は鉄道」「成田はバス」から始まった


羽田空港第2ターミナル。バスを降りるとすぐに航空の出発ロビー。階段のないフラットな動線(成定竜一撮影)。

 両空港のバスの歴史には、いくつかの段階が存在します。羽田空港の旧旅客ターミナル時代、東京空港交通のいわゆる「リムジンバス」などの停留所は、ターミナルの端にありました。当時、空港へのメインの交通機関はモノレールであり、バスの路線数は限られていたのです。

 一方、1978(昭和53)年開港の新東京国際空港(成田空港)では、リムジンバスがメインの交通機関に位置付けられました。当時、鉄道は旅客ターミナルに直接乗り入れなかったからです。当時の成田〜TCAT(東京シティエアターミナル)線は「超ドル箱」で、輸送力確保のため連節バスを導入した時期もありました。

 90年代、両空港のバスに転機が訪れます。1991(平成3)年、JR「成田エクスプレス」と京成「スカイライナー」が成田空港のターミナルビル地下へ乗り入れました。一方の羽田では、93(平成5)年に現在の第1ターミナルが開業。バス乗り場が到着ロビー正面に移転し、規模も一気に拡大しました。

 つまり、バスがパッとしなかった羽田では大きなチャンスが、反対にドル箱だった成田では大きなピンチが、ほぼ同時に訪れたのです。

十数年の安定期を崩した“格安勢” 羽田の再国際化がきっかけ

 この事態に、東京空港交通は一つの決断をしました。羽田、成田〜都心路線はほとんどが同社の単独運行でしたが、他のバス事業者との共同運行により郊外都市への路線網を広げることにしたのです。京王バスと共同で八王子や多摩センター線、西武バスとは所沢や川越線といった具合です。

 これにはリスクもありました。例えば羽田〜新宿線の乗客の一部が、他社と共同運行の羽田〜調布線や吉祥寺線に転移してしまった場合、共同運行先も「取り分」を得るので、同社の運賃収入はおおむね半減してしまいます。

 しかし、この挑戦の結果は「吉」と出ました。共同運行相手のバス事業者は、多くが大手私鉄系です。大手私鉄のグループは、鉄道車内のポスター、無料配布の広報誌など、沿線住民に自社のサービスを告知する力は抜群です。「乗り換え不要、階段なしで空港へ」という利便性は広く認知され、一気に路線網が広がりました。

 羽田と成田の双方で、一定のシェアを維持する「安定期」は、十数年続きました。

 次の変化は、成田で起こりました。2010(平成22)年、羽田の「再国際化」により、国際=成田、国内=羽田という住み分けが崩れ、空港間の競争が始まったのです。立地で劣る成田は弱点を克服するため、成田〜東京都心を格安運賃で運行するようバス事業者らに働きかけました。


東京駅八重洲南口のバスターミナルに発着していた「THEアクセス成田」。現在は「エアポートバス東京・成田」として、京成便もこの場所から発着(中島洋平撮影)。

 それに答えたのが平和交通らの「THEアクセス成田」、京成バスらの「東京シャトルです。成田〜東京駅・銀座が900円からという運賃はインパクトがあり、続々と増便を繰り返しました。これらは2020年に「エアポートバス東京・成田」として統合されています。

 また、成田は、第3旅客ターミナルを新設し、LCCを積極的に誘致しました。ただバス乗り場は、低コスト、短期間で整備したため離れた位置に設置せざるを得ませんでした。コロナ禍による一時的な影響はあったものの今後も順調にLCCの就航が期待できることから、隣接する貨物施設になんとか移転してもらい第3ターミナルを増築、かつ目の前にバス乗り場を移設したのが、冒頭でご紹介した「カーブサイド」です。

羽田の新バスターミナル勝機ある?

 反攻に出た成田に対し、羽田も「エアポートガーデン」で競争力強化を狙います。旧国際線旅客ターミナル跡地の再開発で、民間デベロッパーが開発を担いました。バスターミナルを併設したのは、旅客ターミナルを発着する従来の空港連絡バス路線に加え、全国の都市や観光地を結ぶ高速バスも誘致しようという戦略だと考えられます。

 これらの取り組みは、今後、どう展開するでしょうか。

 まず羽田ですが、エアポートガーデン発着のバスの需要は、さほど大きくないと筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は見ています。羽田発着のバスは、もともと、新宿などの都心部はもちろん、郊外の主要駅、さらに山梨、群馬、栃木、茨城など周辺県の中規模都市まで、稠密な路線網が完成しています。

 エアポートガーデン開業により新たに開業する路線は、より遠方ということになります。既存路線網にぽっかり空いた「穴」であった静岡県各地と、秋田県、青森県など北東北からの夜行路線は、一定の需要を見込めるでしょう。

 例えば北東北の人が、羽田を午前に出る国際線に搭乗する際や、「中国、四国や九州で昼に所用がある」という場合、前日の夜行高速バスで東京へ向かい羽田から朝のフライト、というような使い方は、以前から存在したからです。ただ、その需要のサイズでは、都心から羽田へ路線を伸ばすためのコストを回収するのが精一杯でしょう。


羽田エアポートガーデンのバス時刻表。青森、酒田、白馬・栂池、金沢、新潟、長野といった行先が並ぶが、現時点で路線数や便数は多くない(成定竜一撮影)。

 では、インバウンドはどうでしょう。FIT(個人自由旅行)化が進み、一般論としては、空港連絡バスや高速バスの利用増加が期待されます。しかし、空港から観光地へ直行するバスの成功事例は、スキーやビーチなど滞在型リゾートへの路線にほぼ限られます。羽田の場合、「白馬のみ」と考えていいでしょう。箱根や日光など周遊型の観光地の場合、インバウンドは都心のホテルを拠点に動くケースが多いからです。羽田空港内にあるホテルの客室は合わせて2000室を超すといっても、それだけでは高速バスを毎日運行する市場規模に全く届きません。

 長野県など直通便がなかったエリアから羽田空港を利用する人の需要も考えられます。しかし少ない便数しか設定できないなら、30分間隔など頻発する高速バスでバスタ新宿に向かい、羽田行きのバスに乗り継ぐ方がよほど便利です。立派な施設が生まれることはバス業界として喜ばしいことですが、都心部で相次ぐバスターミナル計画と異なり、需要を少し読み違えていないか、危惧しています。

成田は“なし崩し的に路線網が失われる”懸念

 一方、成田空港の課題は、路線網の整理と維持です。現在、成田発着の空港連絡バスは2種類に分かれます。一つは、東京空港交通や京成バスが各地のバス事業者と共同運行する従来からの路線で、都心まで3000円台を基準とした運賃設定です。もう一つが、2012年以降に生まれた、都心まで1000円台で結ぶ路線です。

 成田〜都心の距離で3000円超という前者の運賃は、都市間の高速バスと比べるとかなり高めです。逆に後者は、停留所を絞り込むなどして低単価を実現しています。

 しかし、両者の区分は明確ではありません。本来、前者は、高級ホテルや郊外の主要駅まで乗り換えなしで結ぶ「プレミアムサービス」に位置付けられます。しかし、成田ではそれが普通であったため、プレミアム感をうまく打ち出せていません。このまま低運賃の路線が増えれば、高単価の路線の市場をなし崩し的に奪ってしまいます。


池袋と成田空港を結ぶ格安バス「池袋シャトル」出発式。同日に渋谷〜成田の格安バスも運行を開始した。2022年8月(中島洋平撮影)。

 東京空港交通らが育て上げてきた稠密な路線網や、沿線で大きな販売力を持つ大手私鉄系事業者という重要なパートナーを棄損してしまう恐れがあるのです。両者を明確にブランド分けし、それぞれの強みを生かせる環境づくりが重要です。

 東京の都心部では、高級ホテルを擁する大規模な再開発プロジェクトや、新たなバスターミナルの建設計画が相次いでおり、空港連絡バス乗り入れの要望は各地から届くと思われます。バス事業者や各空港会社には、潜在的な需要を正しく読んで路線を開設するとともに、ますます複雑になる路線網を利用者に上手に案内する環境づくりが求められています。