日本の次世代宇宙ロケット「H3」の打ち上げが目前に迫りました。既存のH-II、H-II A、H-IIBロケットを経て、30年ぶりの“フルモデルチェンジ”となった同機は、日本の将来の宇宙開発も左右する重要な存在です。

既存ロケットとどう変わった?

 2023年2月17日、日本の新型基幹ロケット「H3」の初飛行が行われる予定です。現在運用中のH-IIA、そして2020年に運用終了したH-IIBから、フルモデルチェンジし「H3」が付与された同機は、従来機とどのような違いがあるのでしょうか。打ち上げ能力と機体構成、外観上の見え方などから探ります。


H3ロケットの打ち上げイメージ(金木利憲/東京とびもの学会撮影)。

 H3とH-IIA、それぞれもっとも打ち上げ能力が高い構成でカタログスペックを並べてみます。

・H3(24L型、Lフェアリング):全長63m、全備質量574t、コア機体直径5.2m、静止遷移軌道に6.5t

・H-IIA(204型、5Sフェアリング):全長53m、全備質量443t、コア機体直径4m、静止遷移軌道に5.95t

 両者を比べてみると、機体サイズ、打ち上げ能力ともにH3がひとまわり大きくなっていることがわかります。最近の人工衛星市場は、“大型衛星1機打ち上げ”と“小型衛星の多数打ち上げ”の二極分化が進みつつありますが、H3はどちらにも対応できるよう設計されています。

 参考までにH-IIBロケット(2020年運用終了)のスペックも挙げておきます。なお、こちらは静止衛星の打ち上げに使われることがなかったため、この数値は計画のみで終わりました。

・H-IIB:全長56.6m、全備質量531t、コア機体直径1段目5.2m、2段目4m、静止遷移軌道に8t(※計画値)

 また、外観上の特徴や、打ち上げ時の見え方も変わっています。

 1段目の国籍表示は、これまで「NIPPON」だったものがH3では「JAPAN」になり、ロケット先端のフェアリング(衛星収納カバー)の外観は、直線的だったものが滑らかなカーブを描く曲線的なものになりました。

 また、発射時の豪快なエンジン点火の様子も、H3では見えなくなります。これまでは見学場所によっては1段目エンジンや固体ロケットブースタ(SRB)の点火を見ることができましたが、H3ではともにノズルの位置が発射台内になったためです。

若手にバトンがつながったH3開発

 H3ロケット開発の意義は、発展と継承、というキーワードで語ることができます。

 発展とは、いうなればロケットの改良です。人工衛星にとって、より良い打ち上げができるようになったことや、準備作業が短縮されたことで、より高頻度の打ち上げができる体制になったことなどがあります。

 一方、継承というのはロケットの新規開発能力の維持です。大型液体燃料ロケットのフルモデルチェンジはH-II以来30年ぶりとなります。H-II開発当時に若手だった世代は、すでに定年が近づく年代になりました。これ以上あいだが開いてしまうと技術継承ができなくなる、ギリギリのタイミングでH3プロジェクトは開始されたといえるでしょう。


2018年6月25日、燃焼試験後のLE-9エンジンを眺めるH3の岡田プロジェクトマネージャー。この時は「8合目まで登ってきた」とコメントしたが、その8合目が長かった(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)。

 自前のロケットがなくなってしまうと、宇宙への輸送は他国頼みになります。そうすると相手国の事情で打ち上げ時期が決められてしまったり、そもそも打上げを引き受けてくれなかったりする事態が起こります。日本独自の宇宙開発を続けていくためにも、H3は重要なプロジェクトだったのです。

 とはいえ、継承に当たっては苦難もありました。H3ロケット最大の山場は、第一段エンジン「LE-9」の開発でした。プロジェクトマネージャーの岡田さんは、その困難さを「エンジンには魔物が棲んでいる」と表現しました。

 ただし、この魔物は正しい行いをすると良い結果を返してくれるので、後に「魔物といっても悪魔ではなく、実は私たちを見守っている神様のような存在なのかも知れないと思い始めた」というコメントもありました。

 しかし、技術的な困難さに加えてコロナ禍が重なり、初打ち上げは延期を余儀なくされたのも事実です。

 こうした苦労を乗り越え、H3は初打ち上げに臨みます。予定日時は2月17日(金)10時37分55秒〜10時44分15秒。成功を祈って皆で見守りましょう。