新たに建造された巡視船「わかさ」がJMU横浜事業所で海上保安庁に引き渡されました。同船は海上警備の中心となる役割が与えられているそうで、乗員たちはそのための訓練も積むといいます。

武器は30mm機関砲や砲水銃など

 海上保安庁は2023年2月13日、巡視船「わかさ」の引き渡し式をジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所 鶴見工場で実施しました。

 配備先は京都府の舞鶴海上保安部(第八管区)。韓国や北朝鮮、ロシアといった国々に面し、沿岸には原子力発電所が集中して立地する日本海で警備・救難任務に当たります。


新造巡視船「わかさ」(深水千翔撮影)。

「わかさ」は、2012年4月に1番船が竣工した「くにさき」型巡視船(1000トン型PL)の21番船。金沢海上保安部に配置換えとなった、いわみ型巡視船「のと(旧わかさ)」(1250総トン)の代替として建造されました。

 船体サイズは1500総トン、長さは96m、幅は11.5m。搭載エンジンはディーゼル2基、速力は25ノット(約46.3km/h)以上を発揮します。定員は37人で、女性の海上保安官が乗り組むことを当初から想定した構造になっています。

 船首側には目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備える30mm機関砲や、遠隔で操作できる高圧放水銃を装備。ブリッジ上には赤外線捜索監視装置と遠隔監視採証装置が設置されています。操舵室の後ろ側には通信装置やヘリコプターからの画像伝送装置などが置かれたOIC(オペレーション・インフォメーション・センター)室が設けられており、領海警備などの任務に当たる船隊の中枢(指揮統制)艦として機能するようになっています。

 甲板上には、高速警備救難艇1隻と複合型ゴムボート2隻を搭載。ヘリコプター甲板は第八管区の航空基地と連携することを前提にした設備が設けられており、海上保安庁最大のヘリコプターであるH225「スーパーピューマ」をはじめ、飛来した各種航空機に電源や航空燃料の補給が可能な設備を備えています。

 両舷に設置されたフルカラーの停船命令等表示装置は、日本語や英語、韓国語、ロシア語、中国語が表示可能。調理室にはIHクッキングヒーターが置かれており、揺れる船内でも火を使わず安全に調理ができる配慮も。また、災害派遣や被災者の救助を想定して、炊飯器を追加で設置できるようにもなっています。

海上デモやテロに警戒「特警隊」って?

 海上保安庁は現在、国土強靭化や防災・減災への取り組みとして、緊急時の対応能力を向上させるため巡視船艇の整備を推進しています。

 今回、引き渡された「わかさ」は、2016年に決まった「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、2019年度補正予算で建造されたもので、船価は約72億円。原発などへのテロの脅威や、大和堆(日本海中央部の海底地形)周辺で違法操業を行う北朝鮮漁船への対処といった重要事案が発生した場合に駆けつける、警備実施等強化巡視船(特警船)に位置づけられており、特別警備隊(特警隊)の運用を行うための設備も用意されています。


新造巡視船「わかさ」の引き渡し式の様子(深水千翔撮影)。

 特別警備隊とは、違法・過激な集団による海上デモや危険・悪質な事案、テロ警戒などに対応するため、指定された巡視船の乗組員によって編成される「海の機動隊」です。

 たとえば不法行為を行っている小型船が警告に従わず逃走しようとした場合は、「わかさ」に搭載している複合型ゴムボート2隻に特警隊員が乗り込んで追跡し、挟み込んで強制的に停船させた後、移乗して容疑者の確保を行います。

 出動時はヘルメットや防刃チョッキ、プロテクターなどを着用。状況によっては投石や火炎瓶の投擲、銃火器による抵抗も考えられるため、大盾の操法や犯人を確保する上で必要な格闘術なども身に着けています。ゆえに「わかさ」には、こうした訓練を行うスペースも用意されているそうです。

 海上保安庁長官の訓示を代読した海上保安庁警備救難部長の渡邉保範部長は次のように述べました。

「『わかさ』は、遠方海域における不審事象や不法行為への対応のほか、若狭湾内に多数所在する原子力発電所などの重要臨海施設の警戒警備を強化するために建造された。日々研鑽を重ねた『わかさ』特警隊が乗船し、高度な規制能力や捜索監視能力などを備えた本船をもってすれば国民の安心、安全に大きく寄与できるものと確信している」

 なお、2月9日には岡山県玉野市の三菱重工マリタイムシステムズで、「わかさ」と同型の「はてるま」が進水しています。同船はくにさき型巡視船の22番船で今年(2023年)中の就役が予定されています。さらに、尖閣領海警備体制の強化を目的として2021年度補正予算でも23番船が予算化されていることから、同型船の増備は今後も続く模様です。