渋谷区のコミュニティバスに、初めてのEV車両が導入されます。事前の内覧会では、車両を手掛けた「国産EVバスメーカー」が意気込みを語りました。

渋谷区「ハチ公バス」増備車両にEVバスが採用

 渋谷区コミュニティバス「ハチ公バス」に、EV(電気自動車)バスが初導入されます。2023年3月1日の運行開始にさきがけて2月13日(月)、そのEVバス車両が報道陣に公開されました。


渋谷区で3月から走り始めるEVモーターズ・ジャパン製EVバス(乗りものニュース編集部撮影)。

「ハチ公バス」は2003(平成15)年に運行開始。「夕やけ小やけルート」「春の小川ルート」「丘を越えてルート」「神宮の杜ルート」の4路線が運行されています。今回は「神宮の杜ルート」にEVバスが導入されます。既存の日野製「ポンチョHX」に加えて増備となる形で、運行間隔は23分から15分へ高頻度化します。
 
 車両は北九州市に拠点を置くEVモータース・ジャパン製のコミュニティバス用ミニタイプ「F8 series4-Mini Bus」。定員29名、サイズは既存の日野ポンチョとほぼ同等です。航続距離は120kmにもおよび、1回の充電で1日の営業分を賄ってしまうとのこと。担当は淡島営業所で、夜中に充電を行い、朝から夕方まで帰還せずに運用される予定です。

 EVモーターズ・ジャパンによると、長い航続距離を達成できた理由の大きなひとつに、軽量化を挙げています。シャーシやフレームはステンレス製ですが、その他の外装パーツは繊維強化プラスチック製。また燃焼系を持たないという特性からハイブリッド車両よりもさらに軽量という利点があります。

中国販路で"修行" 手ごたえつかむ

 EVモーターズ・ジャパンの佐藤裕之 代表取締役社長は「今年は(日本の)EVバス導入元年とも言える年。まずは地域交通がEV化へ本格的に動こうとしています」と話しました。特に住宅密集地をくまなく進むコミュニティバスで、EV化による騒音や排気ガス低減が地域住民へメリットとして期待されます。

 同社は2019年に設立。佐藤社長はもともと前身会社で他社向けにインバータなどの開発・納入をおこなっていましたが、東日本大震災などをうけ移動電源車としてのEVバスの可能性に気づいたといいます。しかし当時はそもそもEVバスの市場が成立していなかったため、自社でEVバスのパッケージ化を行うべく、準備を進めることにしました。


EVモーターズ・ジャパンの佐藤裕之 代表取締役社長(右)と長谷部健 渋谷区長(中)と古川卓 東急バス代表取締役社長(乗りものニュース編集部撮影)。

 まずはEVの需要が高かった中国に拠点を設け、実証実験として500台を導入。走行試験も5000万kmに達し「手ごたえを感じた」として、いよいよ日本での販路を開拓すべく、現会社の設立に至ったという経緯があります。

 同車のバスはすでに那覇バス、伊予鉄バス、宮城交通、さらに都内では1月から港区「ちぃバス」で、計9台納入済み。さらに6台の導入予定があるとのこと。そのなかで渋谷区への導入は会社設立当初から声を掛けていたといい、東京都からは補助金交付もふまえ「ノンステップバス標準認定」を見据えて開発するよう助言もあったそうで、それをもとにして現在のラインナップが生まれたといいます。

 EVバスとしては、中国BYD社車両の導入が全国で進んでいますが、国産車両はメンテナンスやランニングコストなどで利点があるほか、製造過程での不透明性、いわゆる「ブラックボックス」がないことで現地での安心感にもつながるとしています。日野自動車との提携解消も、そのブラックボックスが要因だったとのこと。

 本社のある北九州市では生産工場を立ち上げ、秋から徐々に生産体制を整えていくとしているEVモーターズ・ジャパン。年間生産台数1500台を目標にするといいます。さらにテストコース「ゼロエミッションe-PARK」も整備予定です。まだ完全自社生産体制になっていない現時点では、渋谷区のバスを含め、中国・福建省のウィズダム社にて生産し、ドイツ製の車軸などを使用しているとのこと。バッテリーは中国製ですが、近いうちに東芝製へ切り替える予定だとしています。


※一部修正しました(2月14日10時13分)。