近年課題になっているスーツ問題について、元検査官が現トップに痛烈批判(画像はイメージです)【写真:ロイター】

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検査の形骸化の匿名告発から波紋が広がる

 ノルディックスキー・ジャンプで近年課題になっているスーツ問題について、海外の現役ジャンパーが不正の温床になっている検査の形骸化を匿名で告発。スイス大衆紙「ブリック」が報じていたが、これにドイツ選手たちが反発するなど波紋が広がっている。そんな中、かつて国際スキー連盟(FIS)検査責任者を務めていたゼップ・グラッツァー氏(オーストリア)が現状の検査体制を批判。責任は「私の後任者たちだ。彼らが失敗してしまったのだ」と指摘している。

「ブリック」の記事では、匿名である現役選手が「最近は用具検査を真剣に受け止めていない」と、検査が形骸化していることを暴露。最近のワールドカップ(W杯)オーストリア・クルム大会にはサイズオーバーしたスーツで出場したが、スタート前の検査はパスし、競技後は検査を受けることなく通り過ぎたと明かした。

 不正の手法も明かし「実際、どの選手もインチキをしているから自分もやらなければならない」と語ったことに対し、北京五輪の個人ラージヒルで銅メダルに輝いたカール・ガイガーらが検査官に問題はなかったなどと反発。波紋が広がっていたが、「ブリック」はその後「過信、経験不足、人選ミス! 元検査官トップ、現検査官トップを非難」との見出しで、検査体制を批判するグラッツァー氏の意見を掲載した。

 グラッツァー氏は2020-21シーズンまで約20年間、男子の検査担当をしていた。翌シーズンに行われた北京五輪ではスーツ規定違反が続出。グラッツアー氏の後任は1年で退任となり、現在はクリスティアン・カトル氏が担当トップとなっている。

「私の後任者たちだ。彼らが失敗してしまったのだ」とグラッツアー氏は不正問題の原因が後任者たちにあるとバッサリ。記事では、同氏が挙げた現行体制に対する批判を5つ紹介している。

 まずは「新しい測定法」について。「それまで立って検査を行っていたが、座ったり横になって測定されるようになった」と変化を紹介し、グラッツァー氏は「これは間違っている。プレート上に立っていれば床に足がきちんと着くが、横になった状態ではそれが難しく、操作しやすくなる」と指摘した。記事では「数センチの余裕で飛距離は10メートル近く伸びるのだ」ともされている。

グラッツァー氏に現トップのカトル氏は反論

 続く2つ目は「経験不足な検査官トップ」。カトル氏は2022年7月に就任しているが、グラッツァー氏は人選ミスと感じている模様。「彼は(検査が)どのように実施されるのかきちんと勉強していない。細かい感覚、知識、コミュニケーションが欠けているのだ」と評している。これにカトル氏も「経験は積んでいる。2005年からFISで様々なポジションを担ってきたし、この数年はFISカップで用具検査を担当してきた」と反論している。

 3つ目には「基準に満たない用具検査チーム」を挙げ、4つ目には「傲慢さ」を指摘している。グラッツァー氏によると、後任の検査官はだれも助言を求めてこず「後任たちは自分たちが何でもできると思い込んでいる」と批判。対してカトル氏も「彼は20年以上も担当していたのに、後任に紙きれ一枚すら引き継がなかった。20年前ならいざ知らず、今はそういうやり方ではだめだ」と言い返している。

 グラッツァー氏は、カトル氏が検査スタッフ増員の要望を語ったことに憤怒したそうで「以前は(検査の)大部分を自分たちだけでやっていた。昼夜問わずチームに現場対応できるようにしていた。今の騒動なようなことは一度もなかった」と断言。以前は選手が不満を直接検査官に言っていたが、今ではメディアを通じて語ることに「それが新しい上層部の全てを物語っている」としていた。

 カトル氏は再び「選手やコーチから個人的にフィードバックをもらっているが、全くそういうことはない」と反論するなど、現トップと元トップによる対立が明確となっている様子。5つ目には「不完全な改善」が挙げられ、「唯一の成果はレーザー測定導入だが、それだけでは足りない」とされている。カトル氏は「この春か来年には3D測定が導入される予定です。こうした開発はこの数年進められていなかった」と語っている。

(THE ANSWER編集部)