結婚式前夜、夫以外の男とスイートルームに泊まった花嫁。夫にバレたあと、女に下された天罰とは
人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。
そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。
20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。
これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。
◆これまでのあらすじ
「緊急事態だから来て」と言われ、優子の家に行ったサトミと菜々緒。そこで優子から、平蔵の浮気疑惑の話を聞く。
女同士の作戦会議
「ねぇ、サトミ。今日は俺、ちゃんと子守りできたでしょ？」
「え？うん、まぁそうね」
優子の家に行った日の夜、息子が寝たあとで夫がすり寄ってきた。
以前の醜態を反省したのか、今回はちゃんと見ていてくれたように思う。
でも、父親なのだから当たり前のことだ。
「もっとちゃんと褒めて〜。ほら、オムツもパンパンになる前に替えたんだよ」
「……」
私は、執拗にアピールしてくる夫に、少しうんざりしながら答える。
「子守りじゃなくて、子育てって意識を持ってほしいな。あなたの子どもでもあるんだから」
「はいはい。子育てね！了解」
褒めてもらえると思っていた夫は、投げやりに答えた。
「あとさ、あなたが接待で銀座のお店に行くのは黙認しているけど、他の女性に本気になるのだけは、絶対にやめてね」
「はい？そんなダサいことしないっての！俺にはサトミがいるのに」
夫は強く言い返してきた。
― はぁ…妻を女として見てないくせに。
私は、「そう」とだけ言って視線をスマホに移した。
【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち
【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち
翌日、私はお昼に六本木にある『ニュー松坂』を予約した。
息子に食事をさせながら、ある人を待っていると、個室の扉が開く。
「お待たせ！」
やってきたのは、菜々緒だ。
夕方からネイルの予約をしているが、それまでは時間があるというのでランチに誘ったのだ。
「ごめんね、2日連続で会うことになっちゃって」
私が申し訳なさそうに言うと、菜々緒は笑顔で、首を横に振った。
そして、私の向かいに腰を下ろし、メニューを見ながら言う。
「なんかさ、リリカの結婚式で再会してから、こうやってたくさん会えるのが、嬉しいんだよね」
― え…！
まさか菜々緒の言葉に胸を打たれるとは、思わなかった。
しかも、私もまったく同じことを思っていたから、驚いた。
「菜々緒、そうやって素直に気持ちを口にするところ、ほんと好きよ」
私が手でハートを作ったので、菜々緒は「サトミのキャラじゃない」と笑った。
ひとしきり笑い合ったところで、ちょうどビールがきて乾杯する。
フィレステーキと海鮮のコースを注文し、前菜をいただきながら私は姿勢を正した。
「じゃあ、本題に入るけど」
私はそう切り出して、昨夜見つけたリリカのInstagramの投稿を菜々緒に見せた。
「うっわ！これ、載せちゃうんだ」
菜々緒は、あからさまに引いている。
この写真からわかることは、リリカが結婚式の前日に誰かとホテルのスイートルームに泊まっていたこと。
そして、そのホテルが、平蔵が泊まっていたホテルと同じだということだ。
“友達とバチェロレッテパーティー”などと書いてあるが、もちろんそれは嘘だろう。
なぜなら、男と泊まったことがバレて、彼女は離婚することになったのだから。
「問題は、リリカが一緒に泊まっている相手が、堀井平蔵かどうか。ってことだよね」
菜々緒がつぶやいた。
「私もそう思う」
「でも、平蔵はあの日、大阪出張って嘘をついていたし…。サトミは、彼とリリカが一緒にいるところを見ちゃってるからね」
「はぁ…あんなに可愛い奥さんがいるのに。信じられない」
優子の心情を思うと、本当に胸が痛い。
「菜々緒は、平蔵さんと仕事で付き合いがあるんだもんね。その時に何か聞いてる？」
私は、フィレステーキを一口食べてから聞いた。
菜々緒は否定した。
「ただ、あの人すごく社交的で優しいから、モテると思う」
菜々緒が発したその言葉を聞いて私は、優子から頼まれた先日の食事のことを思い出した。
平蔵は、私たち夫婦の話を、親身になって聞いてくれた。
その時に抱いた印象も悪くなく、むしろ好意的なものだった。
「やっぱり、平蔵さん本人に聞くしかないね」
「東京のホテルにいた証拠写真はあるし、そこを問い詰めたら吐くでしょ」
私たちはシメのガーリックライスを食べ終わったので、六本木ヒルズのカフェに移動することにした。
息子をベビーカーに乗せると、スヤスヤと眠り始めた。
「それにしても、本当に可愛いねぇ〜」
菜々緒が、まるで親戚の叔母のように目を細め、ベビーカーの中を覗きこんだ。
「実はサトミと優子に嫉妬していたんだ。ふたりとも結婚して子どももいて、いいな〜って」
― えっ…私と優子に、嫉妬？
「そうなの？菜々緒は、結婚願望なさそうだから、そんなこと思っているとは…」
私が言うと、「いい人がいれば、すぐにでも結婚したい」と打ち明けてくれた。
「私も菜々緒がうらやましいよ。私は部下なんてできたことないし、仕事辞めなきゃよかったかも…って、何度思ったか」
これは、お返しに言ったのではなく、本音だ。
私が結婚を機に仕事を辞めたのは、そんなに責任のある立場じゃなかったし、続けたいほど好きでもなかったから。
でも、もし続けていたら…私にもいつか部下ができたかもしれない。
昔は、同じような道に立っていた私たち。
でも、いくつもの分かれ道を進み、やがてそこにひとりで立っている。
それが正解なのかもわからずに。
自分が選ばなかった道が気になるし、これでよかったのかと自信を持てなくもなる。
その不安を打ち消すために、私たちはマウントをとってしまったり、自分よりも不幸な人を見て安心したりしてしまうのかもしれない。
「私、優子のためにできることは、なんでもやってあげたい」
ホットココアを冷ましながら、私は菜々緒に言った。
「うん。私もそう思っているよ」
私たちは、そんな話をして解散した。
「すっかり遅くなっちゃったね〜。でも、ほら。お外キラキラだよ」
帰り道、私は息子に話しかける。
気づくと17時を回っていて、けやき坂はホワイト＆ブルーのイルミネーションが輝いていた。
もうすぐ12月。
普段、港区にはいないような、若いカップルが手を繋いで歩いたり、写真を撮ったりしている。
いつもは道が混むから嫌なのに、今日はそんな光景も微笑ましい。
私も、彼らに倣って息子の写真を撮った。
尖りまくっていて、怖いもの知らずで、今よりキツイ性格だった20代。
親友と呼べる友達もいないまま結婚して、子どもを産んだ。
日々の生活のハイライトだけを切り取った投稿で、Instagramのフォロワーが増えることに優越感を味わう。
それは、育児中の私が社会とつながる唯一の手段だった。
しかし、私の3万人のフォロワーは、ほとんどが会ったことのない人だ。
面識のない他人から得た承認欲求に、意味はあったのだろうか。
確かに、SNSは便利で楽しい。
でも、心の奥底ではずっと何かが足りなかった。それがなんなのか、今ならわかる。
私は、本物の友情がほしかったのだ。お互いを心配したり大事に思ったりできる友達が。
『サトミ：優子、大丈夫？』
家に着いてから、3人のグループLINEで優子にメッセージを送った。
もし、私が彼女と同じ状況だったら、胸のモヤモヤを誰かに吐き出したいから。
『優子：ひとりでいろいろ考えちゃって、正直参ってる』
― やっぱり。
優子のことだから、平蔵に真正面から聞けないのではないかと思っていたが、その通りだった。
『菜々緒：そうだよね。でも、私たちがついているから。できることがあったらなんでも言って』
『優子：ありがとう。ふたりがいてくれてよかった』
「ひとりじゃ平蔵に話を切り出せない」「でも、これ以上、友達に頼るのもかっこ悪いし、申し訳ない」
優子は、そんな気持ちを、私たちに吐露した。
優子のためになんでもやると決めた私は、ある提案した。
『サトミ：ねぇ、子どもたちの合同お誕生日会しない？そこに平蔵さんも出席させよう』
▶前回：「出張中の夫が、なぜこのホテルに…？」32歳妻が男の嘘を見抜くために画策したコトとは
▶1話目はこちら：夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する？
▶Next：1月7日 土曜更新予定
優子の代わりに、サトミは平蔵に詰め寄ることに
