〈安倍元首相襲撃事件から約半年〉伯父が語る山上徹也の今。「衣食住を与えてもろうて元気にしているようです」「英和辞典、参考書を差し入れた」「統一教会は今、逃げ回っている」

2022年7月8日、午前11時半頃、奈良県で参院選応援演説中の安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから、約半年―。殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(42)の身柄は、現在、大阪拘置所にある。鑑定留置の期限は1月10日、山上容疑者は殺人罪で起訴される方針だ。元総理大臣殺害という戦後、類を見ない大事件を起こした山上容疑者……。改めて事件の背景を伯父の証言をもとに振り返る。

差し入れは英和辞典、英検参考書…

「統一教会とか、救済法案とかはどうでもいいんです。私は徹也のこれからだけを考えているんです」

そう話すのは、安倍晋三元首相を銃撃した、山上徹也容疑者(42)の父方の伯父である。伯父の口調からは、過去を払拭し「これから先、山上容疑者がどう生きるか」ということだけを考えている、迷いのない強い思いを感じ取ることができた。

事件があった7月8日から、約半年、山上容疑者は拘置所で今、何を思うのか――。

「徹也に会いに行っている(徹也の)妹から話を聞きますが、徹也は元気にしてるみたいです。衣食住与えてもろうて、こんな自由な時間はない。妹は、英和辞典、私は英検の参考書を差し入れてます。でも、徹也が全然、勉強していないみたいで、妹に怒られているみたいですわ」

12月10日に旧統一教会の被害者救済法案が可決。旧統一教会に対する取り締まりは厳しくなってきている。

渋谷にある統一教会日本本部

「自民党は、解散請求に応じたくないから、救済法案を可決させたんでしょう。統一教会が解散すれば、清算法人になる。そうすれば、裁判所が清算人を専任し、その内部書類が手に入って、安倍さんのビデオメッセージに、どれくらいお金が動いたのかがわかってしまう。だから、解散させたくないんじゃないですか」

「統一教会はどうでもいい」と一刀両断する伯父であったが、山上容疑者の鑑定留置期間の延長には疑義を呈していた。現在、徹也容疑者は1月10日まで、大阪拘置所に勾留されている。

当初、山上容疑者の鑑定留置は11月29日までの予定であったが、奈良地検の請求で来年2月6日までの延長となった。これに対し、弁護人が準抗告の申し立てを行い、地裁が1月10日までに短縮する決定を出していた。

地検は再び、鑑定留置期間の延長を求め、簡易裁判所が1月23日までの延長を認めていたが地裁は、簡易裁判所の決定を取り消し、再び1月10日までとしたのだ。

「2ヶ月は辛抱しますけど、さすがに4ヶ月は徹也にとって酷ちゃうかと。私も鑑定のとき、検事と2時間ほど話しましたけど、雑談ばかりでした。鑑定の必要ないじゃないですか。鑑定留置の延長も、地裁ではなく、簡易裁判所が出したということは、検察が簡易裁判所やったら言うこときくと思ったんでしょう」

12月24日、奈良地検が山上容疑者を殺人罪で起訴する方針を固めたことがわかった。

「私は、納得いっていません。そもそも、鑑定も果たして必要やったんかと常に疑問を抱いていたので」

刑期を終えて、出てくるのは60代半ば?

「私は、統一教会や、その被害者には興味がない。徹也のためにやっているだけです。刑期はおそらく25年、仮出所で、22年、23年で出てくると思います。私も息子が3人いてますけど、『徹也が出てきたときは頼むからな』と伝えています。みんな了承してくれています。徹也も昔は、ここに遊びに来たりしていてね。うちの子らも、みんな『てっちゃん』言うて、兄弟みたいなもんなんですよ。和歌山に先祖ゆかりの寺があってね、そこへみんなで行ったりしてましたよ」

現在、伯父は山上容疑者が刑期を終え、出所してきたときに備え、金銭の準備をしているという。

A子(山上容疑者の母親)は、84年に夫が自死した後に、夫の生命保険金の6千万円を統一教会に献金。さらに98年にも、A子の亡くなった父親から相続した土地や家を売り払って、さらに約4千万円を献金している。合計約1億円を統一教会に支払っていたが、伯父は、2005年から2014年にかけて、約5千万円を取り返したという。

「2004年にA子が韓国行って帰ってこんで、家賃も滞納して、子どもたちが食べ物もあらへんと困窮しているときに、私は統一教会に対し、返金を求めてFAXを何度も送ってたんです。でも統一教会からは、ろくに返事はこず、返事がきても『待ってくれ』ばっかりやった。でも、2005年に徹也が自殺未遂したときに、慌てて返金してきたんですわ。

今後、徹也が刑期を終えて、出てきたらお金がいる。そのために今、準備しているんです。統一教会にも『なんぼ出すねん』と。でも、統一教会は今、逃げ回っている」

伯父の目の前に置かれたファイルには、統一教会宛の手紙や、取材を受けた記者の連絡先や内容が細かくメモされており、山上容疑者に対する慈愛の念が伝わってくる。

取材に応じる伯父

山上容疑者に対する支援する声は社会にも広がっているようだ。今、伯父のもとには、全国から多くの物資などが届いているという。

「最近は落ち着きましたけれど、衣服とか、座布団、お菓子にクオカード、役立つ多くのものをいただいています。中には現金を送ってくださる人もいますね。本人は送り主に返してほしいとは言うてるみたいですが……」

山上容疑者が勾留されている拘置所にも多くの物資が届き、収容しきれないものは、伯父の家で保管しているという。

きっかけとなったビデオメッセージ、そして、コロナ

「コロナさえなかったらな」と、伯父はぽつりとつぶやいた。

「徹也の妹は、3人のきょうだいの中で、一番、頭良かったんちゃうかな。でも経済的な問題で高校は中退してもうた。その後、大検取ってね。就職して一人暮らし始めたんですわ。

2020年やったかな、コロナが流行する前に、徹也の妹と会って、今後の話をしてたんですよ。貯金聞いたら、ゼロやって言うから驚きました。毎月の給料から、家賃やら、食費やら、奨学金も払ってたら、何にも残らへんから、私が全部奨学金を返済したんですよ。徹也の妹のこと片付けたら『次は徹也や』言うてたら、コロナで徹也に会えなくなってしまったんです」

高校時代の山上容疑者

困窮する中でも、懸命に生活を立て直そうとしていた妹。いっぽうの山上容疑者は、コロナ渦の中、孤立をさらに深めていく。伯父と山上容疑者の妹が将来の道筋を見つけた2020年当時、山上容疑者は、派遣会社に登録し、工場で勤務する中で、あの動画を発見してしまったのだ――。

旧統一教会の始祖である文鮮明氏と妻が設立した関連団体「天宙平和連合」(UPF)に寄せられた安倍晋三元首相のビデオメッセージである。

〈UPFの平和ビジョンにおいて、家庭の価値を強調する点を高く評価いたします〉

安倍元首相が褒め称える相手は、紛れもない山上容疑者の“家庭”を崩壊させた敵(カタキ)だったのである。

殺害された安部元首相

そして、2022年7月8日、11時31分、あの事件は起こってしまった…。

「山上容疑者に会いにいかないのか?」と、尋ねると伯父は首を振った。

「(徹也の)妹から、徹也が私に詫びているという話を聞いたんですよ。そんな、徹也に会ったらかわいそうですやん。だから、会いに行きません。今後の裁判の証人出廷もするつもりはありません。すべて、もう、事件直後に検事に話してますので」

そして、伯父は、こう、山上容疑者のことを回顧する。

「徹也は優しいんですわ。優しいから、妹のことも守ってね。だから、妹は、そこまで統一教会に対して憎悪はない。それは、全部、徹也が統一教会のことは一身に受けて、妹を守っていたから。だから、妹はいまでも『てっちゃん』『てっちゃん』言うて、徹也のこと慕ってますよ。

そういうとこ、弟(徹也の父親)に似てるんですわ。どっかの記事に、弟がアルコールやってA子にDVしたってありましたけど、そんなことありません。事件直後、検事が来て、A子に、弟がどういう人やったか聞いたんですよ。そしたら、A子がちょっと上を見ながら、『優しい人やった』って言うたんですよ。弟も優しすぎてね。徹也も一緒ですわ」

何度もいいますが「血は水よりも濃いんです」

甥の山上容疑者を1984年に自死した弟(山上容疑者の父親)と重ね合わせる伯父。「今後も徹也を懸命に支えていく」と力強く話す。

「私の母親も亡くなりましたけど、弟に『お袋を頼むよ』って言われたと思って、ずっとやってきました。だから、徹也のことも弟から『兄貴、子どもを頼む』って言われたと思って、やってます。当然です。『徹也も、我が子と同じ子どもや』って思って面倒をみてます。それは徹也の妹も一緒ですわ。法律にはちゃんと、直系血族の扶養義務って書いてあります。扶養義務というのは、ご飯一つやったら二つに分けることなんです。

徹也のために、徹也が出てくるときのためにやっている。それしかありません。弟の子どもやから、何でもしますわ。当たり前のことや。何度も言いますが、血は水よりも濃いんです」

伯父や親族は山上容疑者が“塀の外”に出る日を待ち続ける。

2022年12月末、山上容疑者は年越しに何を思うのだろうか。

取材・文/松庭直 集英社オンライン編集部ニュース班