アメリカ海軍で敵役を務めるアドバーサリー部隊に中古のF-16戦闘機が配備されました。アメリカ海軍なら空母に発着できない戦闘機は無駄なように思えますが、大丈夫とのこと。さらに増備する計画も米海軍では立てているようです。

ベストセラーだけど空母運用は無理なF-16

 2022年12月2日、アメリカ海軍の第13混成戦闘飛行隊(VFC-13)、通称「ファイティングセインツ」にF-16「ファイティングファルコン」戦闘機が配備され、基地内においてセレモニーが実施されました。


F-16配備を記念した第13混成戦闘飛行隊(VFC-13)のセレモニー。背後には黒で塗装されたF-16が見える(画像:アメリカ海軍)。

 同機は、当初は軽量戦闘機と開発されるも、汎用性に優れ、取得コストや整備コストも低い費用対効果に秀でた戦闘機へと昇華。その結果、アメリカ空軍だけでなく世界各国にも輸出されており、2022年現在の運用国は世界25か国にものぼります。生産数も累計4600機以上と近年のジェット戦闘機としては大ベストセラー機といえる存在です。

 とはいえ、F-16は陸上にある飛行場からしか発着できない空軍向けの機体であり、空母での艦上運用はできません。そんなジェット戦闘機がなぜアメリカ海軍に配備されたのでしょうか。

 その理由は、配備先の第13混成戦闘飛行隊が、一般のアメリカ海軍の戦闘機飛行隊とは異なり、訓練で敵役を務める専門の部隊だという点にあります。日本の航空自衛隊にも「アグレッサー」の通称で知られる飛行教導群という飛行隊がありますが、そこと同様の任務を行うアメリカ海軍の飛行隊であるといえるでしょう。

 アメリカ海軍では「アグレッサー」といわず、敵という意味の「アドバーサリー」という呼び方をします。この飛行隊では敵役という独自の任務を行うため、通常飛行隊と同じ航空機を運用する必要はありません。アメリカ海軍ではこれまでも、アドバーサリー飛行隊用の機体としてスイス空軍から軽量戦闘機F-5E「タイガーII」の余剰機を購入し、それを改造してF-5Nとして運用してきた経緯があり、第13混成戦闘飛行隊も以前、同機を運用していたことがあります。

FA-18「ホーネット」じゃ駄目なの?

 F-5Nは戦闘機としての機動性が高く、それでいてシンプルな機体構成のために運用コストが安いという利点を持っており、アドバーサリー飛行隊には最適な機体でした。しかし、元は軽戦闘機に分類される機体のため、これらで再現できる敵機の“レベル”には限界があり、現在の空中戦の訓練では敵役として十分なものではなくなっていたようです。


F-16でのセレモニーフライト後に握手するパイロットたち(画像:アメリカ海軍)。

 なお、アメリカ海軍では、より高性能な戦闘機として、F/A-18「ホーネット」を別のアドバーサリー飛行隊に配備し、運用していました。しかし、一般の戦闘飛行隊がより高性能な新型機F/A-18E/F「スーパーホーネット」へ装備を更新したことで、効率の悪い少数運用となり、おまけに老朽化したことで運用経費も高騰。その代替機が必要になっていました。

 アドバーサリー飛行隊もF/A-18E/F「スーパーホーネット」に更新したいところですが、保有機に限りがあるために一部の飛行隊しか更新できませんでした。そこでアメリカ海軍が目を付けたのが、アメリカ空軍で余剰となったF-16ファルコンだったといえるでしょう。

 今回、第13混成戦闘飛行隊に配備された機体は、元々アメリカ州空軍で使われていたF-16Cブロック32で、アメリカ空軍の最新型である同ブロック50よりも古い機体です。これらは最新のステルス戦闘機F-35Aの配備によって余剰になった機体ですが、アドバーサリー飛行隊の任務には支障は無く、むしろ今までのF-5Nよりも高性能な機体となっています。アメリカ海軍ではF-5Nも別のアドバーサリー飛行隊で継続して運用していく模様ですが、F-16が加わったことで模擬できる敵機と訓練の質の向上にも繋がると推察されます。

実は過去にもあった米海軍でのF-16運用

 ちなみに、アメリカ海軍がF-16を運用するのは、これが初めてではありません。1988年には敵役としての専用モデルであるF-16Nを開発して配備。これら機体はアドバーサリー飛行隊や「トップガン」の名称で有名なアメリカ海軍戦闘機兵器学校(当時)で使われていました。しかし、激しい模擬空中戦の酷使によって機体に亀裂が入るトラブルが発生し、1995年にはすべて退役しています。


アメリカ海軍のアドバーサリー飛行隊で運用される複座型のF-5F戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 しかし、F-16自体はアメリカ海軍にとって使い勝手の良い戦闘機だったのか、それから7年後の2002年にF-16A(複座のB型も)を14機購入。これらはもともとパキスタンに輸出される機体として生産されたものでしたが、同国が核兵器研究開発を行ったことによる制裁措置でアメリカに留め置かれていたもので、それをアメリカ海軍が新古品という形で引き取ったものでした。これらのF-16は、アメリカ海軍戦闘機兵器学校が併合されたアメリカ海軍航空戦開発センター(NAWDC)で今も運用されています。

 空軍機であるF-16は、通常の運用方法では海軍の戦闘機として使うことはできません。しかし、その卓越した機動性は戦闘機としてトップレベルであり、訓練での敵役という独自の任務ではベストな存在だともいえるでしょう。

 アメリカ海軍もその点は重々認めているからこそ何度も導入しているといえ、側面に「NAVY」の文字を描いたうえで、元空軍機を今後も活用し続けることは間違いなさそうです。