国内未導入“2機のレア機”日本飛来、実は別の狙いアリ? 例の「スペースジェット凍結」と思わぬ関係か
2022年、エアバスとエンブラエルが、日本では未導入の「リージョナルジェット」を相次いて羽田へ飛ばしました。もしかすると、ここには搭載している「エンジン」から見た狙いもあるかもしれません。
革新的なシステムを採用した「PurePower」エンジンを搭載した2機
2022年、欧州・エアバスのA220-300と、ブラジル・エンブラエルの「195-E2」、2機の旅客機が羽田空港に相次いで飛来し、内覧会などが実施されました。これらはともに日本で導入がないレア機で、かつ150席以下と比較的小型に分類され、国内の短距離路線を担当するような「リージョナルジェット」というものです。
このレア機の“売り込み”は航空機メーカーばかりが取り沙汰されますが、もうひとつポイントがあるかもしれません。それは2機に搭載されているエンジンです。
羽田空港に飛来した2機の様子。上がエアバスA220、下がエンブラエル「195-E2」(乗りものニュース編集部撮影)。
5月に羽田へ飛来したA220-300はエンジンにPW1500Gを2基、11月に来日した195-E2はPW1900Gを2基、それぞれ搭載しています。これらはアメリカのプラット・アンド・ホイットニーが手掛けた、斬新な機構を特長とする同系統エンジンということができるでしょう。
「PurePower」シリーズと呼ばれるこれらのエンジンは、いわゆる「ギヤード・ターボファン」として知られているものです。
現代の主流である「高バイパスターボファン」エンジンでは、吸い込み口にある「ファン」部分は一定より回転速度が高すぎると、飛行効率が落ちてしまいます。一方、エンジン内にある圧縮機を回す装置「タービン」は、ファンが求める効率的な回転スピードとくらべ、より速い速度のほうが高い出力(推力)を生み出せることになります。つまりこのふたつは、望ましい回転スピードが異なるのです。しかし、このファンとタービンは同じ軸で繋がっています。そのため、タービンを高速で回しすぎると、それにつながるファンの回転数が速すぎてしまい、効率が落ちてしまいます。その逆もしかりです。
そこで「PurePower」シリーズでは、タービンを高速回転させたまま、ファンを最適な回転数に抑えて駆動するため、ファンとタービンのあいだに調整用のギアボックスを挿入。このことで飛行効率を高め燃費を向上させるほか、騒音を抑制できるとされています。
この「PurePower」シリーズ、国内ではANA(全日空)のA320・A321neoで採用。またJAL(日本航空)・ANAが導入予定だったものの、現在は開発が事実上凍結されている「三菱スペースジェット」でも同系統のエンジンが搭載されています。
A220/195-E2の飛来には「PurePower」のライバルの台頭も関係?
その一方で、今回飛来した2機種が搭載する「PurePower」シリーズのライバルとされているのが、アメリカのゼネラル・エレクトリックとフランスのスネクマが合弁するCFMインターナショナルの「LEAP」エンジンです。こちらは金属の3分の1の重さで耐熱温度も20%高いセラミックマトリックス複合材料(CMC)などの採用により、燃費が改善され、排出ガス量と騒音が抑制されるとしています。
ジェット旅客機は、複数のエンジンから航空会社が選択できるのが多数派です。しかし、なかには装備可能なエンジンが1種類のモデルもあり、今回羽田に飛来したA220もE195-E2も、「PurePower」PW1000シリーズの1択となっています。
A220-300に搭載されているPW1500Gエンジン(2022年5月9日、乗りものニュース編集部撮影)
ただその一方で、ライバルの「LEAP」エンジン搭載機にも2022年、国内で大きな動きがありました。7月にANAが導入を発表した737-8と、11月にスカイマークが導入を発表した737-8/10です。これらはいずれも「LEAP」エンジン一択の旅客機です。
本来であれば三菱の「スペースジェット」がデビューすることで、日本国内の航空会社が保有する200席以下の旅客機では、「PurePower」シリーズがよりシェアを強め、その規模を拡大するはずだったでしょうが、その計画も円滑にはいかず、ライバルエンジンの「LEAP」搭載機が次々にそのシェアを拡大しそうな現状です。
A220-300と195-E2が飛来した月と、737-8/10導入が発表された月はずれてはいますが、1年を通してみると、前者2機のツアーはエアバスとエンブラエルだけでなく、「PurePower」エンジンのシェアを再度獲得したい、プラット・アンド・ホイットニー側から見ると、別の見方ができるかもしれません。
メーカーは機体、エンジンを問わず、常にライバルの動向を探っています。航空機の売り込みは、エアバスやボーイングなどが真っ先に頭に浮かびますが、エンジンメーカーも交えて考えると、世界の航空機商戦の激しさが一層感じられると思います。