凍結や積雪した冬の道路を走行する際の必需品「スタッドレスタイヤ」は、夏タイヤよりも溝が残っている状態で交換したほうがよいとされます。実は“溝50%”以下だと、死に直結する可能性もあるのです。

「サイプ」と「柔らかく、しなやか」が肝のスタッドレスタイヤ

 凍結や圧雪でアイスバーンと化したり、もしくは降雪で路面がシャーベット状になったり――こうしたタイヤがグリップしにくい冬の道路を運転するのに、スタッドレスタイヤは欠かせません。アイスバーンや雪道でスタッドレスタイヤがグリップする仕組みは、接地面(トレッド面)にあります。トレッド面は、細かな溝が彫られたブロック状に刻まれているのです。


スタッドレスタイヤ装着車のイメージ(画像:Anna Grigorjeva/123RF)。

 雪上では、このブロックと溝が雪を踏み固めるほか、ブロックのエッジ部分で雪を引っ掻くことで抵抗が増してスリップせずに走行できます。またアイスバーンでは表面にできる薄い水膜がスリップの原因となりますが、タイヤのブロック表面にはサイプと呼ばれる小さな溝があり、これで水膜を排水し、タイヤと路面を密着させてグリップします。

 このサイプによる排水性を確保しながらタイヤを路面に密着させるためには、ゴムが低温でも柔らかく、しなやかなであるという特性が重要です。ゴムに柔軟性があれば、路面と密着する面積が増えるからです。

溝が50%減ると途端にスベる?

 しかしブロック部分が摩耗し、溝が新品の状態から50%摩耗すると従来の性能が発揮できなくなります。50%といえば、夏タイヤならまだまだ使用できそうな溝の深さです。しかしスタッドレスタイヤの場合は、ブロックが低くなると雪を踏み固める性能が低下するうえ、摩耗によってエッジが丸くなると抵抗力も低くなり、結果、滑りやすくなるのです。

 そもそも、アイスバーンを走行する際に肝となるブロック表面のサイプは、細く浅い溝なので、50%摩耗すると排水性能が急激に低下する、もしくは皆無になってしまいます。

 このようなことから、国土交通省は例年12月、1月頃になると「溝が50%以下の冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)は使用禁止」ということを運輸事業者に通達しています。当然ながらタイヤの性能は自家用車も同様なので、溝が減ったスタッドレスタイヤは必ず交換しなければなりません。

雨の高速でわかるスタッドレスの“弱点”

 もうひとつ、スタッドレスタイヤを使用する際に注意すべき重要な点があります。じつは「雨水に弱い」点です。大量の雨水を排水できる夏タイヤとは異なり、スタッドレスタイヤはアイスバーン表面に薄く張った微量の水を排水することに特化しており、ブロック間にある深い溝は、雪を踏み固めることに重きを置いた形状になっているためです。

 スタッドレスタイヤが持つこの弱点は、生活道路など車速が低い場所ではあまり顕在化しませんが、高速道路のような車速が高い状況では、タイヤの排水が追い付かずハンドルやブレーキのコントロールが不能になる「ハイドロプレーニング現象」が発生しやすくなるのです。


新品のスタッドレスタイヤ。サイプの溝もしっかりある(小林祐史撮影)。

 現在のスタッドレスタイヤは雨の排水力も向上してはいるものの、近年の高速道路の法定速度は100km/h以上となっているところもあり、そのような場所では依然として危険性は無視できません。これは摩耗度に関係なく、新品のスタッドレスタイヤであっても同様といえます。

 スタッドレスタイヤ装着時には、タイヤの摩耗度を常に確認するのはもちろん、高速道路で雨に遭遇した場合は、速度を控え、ハンドルやブレーキ操作に細心の注意を払うことも、忘れてはならない点でしょう。