阪神本線が12月のダイヤ改正で、快速急行が芦屋駅を朝以外通過することになりました。停車駅が「減る」という、昨今の傾向と異なる変更、なぜ生まれたのでしょうか。

阪神12月のダイヤ改正で

 阪神電車が、12月17日実施のダイヤ改正の内容を発表しました。そこでネット上を中心に話題になったのが、快速急行の停車駅である芦屋駅が、朝ラッシュ時以外は通過となるという点です。もともと土休日は通過だったのですが、今回いよいよ「完全通過」に近づきました。


阪神9300系電車(画像:写真AC)。

 阪神といえば列車種別が複雑怪奇なことで昔から知られ、停車駅の多い"下位種別"のはずなのに、停車駅の少ない"優等種別"の停車駅を通過するという「逆転現象」な停車パターンが日常茶飯事となっていました。

 これは「千鳥停車」と言われ、速い優等列車へ乗客が集中するのを避けるため、あえて停車駅を種別ごとに分散させるという目的があります。これは、駅間距離が短いという特徴の阪神ならではの方法とも言えます。

 阪神なんば線を介して近鉄との直通運転を行う現在でもその「逆転現象」は健在で、快速急行は特急が通過する武庫川・今津に停車しますが、特急停車駅の御影は通過します。奇怪なのが朝の大阪方面で運転される「区間特急」で、青木・深江・打出・香櫨園といった普段は各駅停車しか止まらない駅にちまちま止まりながら、線内有数の主要駅である西宮は通過してしまいます。「千鳥停車」を象徴する種別と言えるでしょう。

 さて今回、快速急行は、特急停車駅をさらに通過するようになります。それが芦屋駅です。

 SNSなどでは「JRの新快速すら停まる芦屋を通過するなんて」「このご時世、停車駅が減るのは異端」「地元民には実質減便」と驚きの声が上がる中、「私の知ってる阪神電車が帰ってきた気分」「先祖帰り」という声も。なぜこのように感想が分かれたのでしょうか。

なぜ「停車駅が減る」ことに?

 もともと快速急行は、芦屋を通過していました。1990年代前半は下記のように、どちらが優等列車なのかよくわからない、バラバラの停車パターンでした。

【1998年改正直前の基本停車パターン】
特急:西宮・芦屋・御影
快速急行:野田・尼崎・甲子園・西宮・魚崎

 それがダイヤ改正でいったん特急へ実質的に統合し、特急停車駅は徐々に増加していきます。しかし、2009年に阪神なんば線が開業し、近鉄との直通が始まり、近鉄直通系統の優等種別として「快速急行」が終日列車へ復活します。

【2009年改正時の基本停車パターン】
特急:尼崎・甲子園・西宮・芦屋・魚崎・御影
快速急行:尼崎・武庫川・甲子園・今津・西宮・芦屋・魚崎

 このときに復活したのが、先述の「御影通過」という逆転現象でした。さて、これには別の明確な意味がありました。それは「近鉄の電車がうまく停車できなかった」という理由です。

 御影駅ホームは大きくカーブしており、1両長さ19mの阪神車は問題ないものの、21mの近鉄車だと、車両とホームに危険な間隔が生まれてしまうのです。そのため、近鉄車が主として乗り入れる快速急行は、通過扱いとなりました。

 実は今回の「芦屋通過」も、これに似た物理的要因で発生したものです。もともと6両編成だった快速急行が8両編成へ増強されるのに伴い、芦屋駅ホームは「電車がはみ出てしまう」という事態になるため、通過せざるを得なくなったのです。2020年のダイヤ改正で土休日通過になったのも、同じ8両化が理由でした。

 特に今回は、「近鉄方面から10両編成で来た列車を尼崎で切り離して6両化」から「全車8両にして切り離し作業を解消」という本格的なもの。これにより全体の所要時間が5分程度短縮されています。

 では芦屋駅のホームを延ばせばいいという話ですが、簡単にはいきません。ホームの両側が踏切に挟まれているため、どうにも延ばせないのです。阪神本線では高架化が進められ、すでに大阪梅田〜神戸三宮間32.1kmのうち95%が高架もしくは地下ですが、ほんのわずかに残った地上区間のひとつが、ここ芦屋なのです。

 芦屋駅は芦屋川をまたぐようにホームがかかっています。芦屋川は土砂の堆積で周囲より標高が高いため、周囲の線路は高架化が達成しているのに、この堤防道路との交差部のみ踏切になっているのです。ここをさらに高架化するのは影響範囲が大きくなることもあり、まだ事業化には至っていません。