WW2期は軽戦車、中戦車、重戦車と分類していましたが、今はそれがありません。技術の進化などにより役割分担の必要性が薄れたことが大きな理由ですが、その前に戦車の母国であるイギリスでの運用思想の大きな失敗が源流となっています。

なんでもこなせる機動力と火力に優れた戦車

 2022年現在、ほとんどの国の戦車は「主力戦車」または英語の「Main Battle Tank」を略した「MBT」と呼ばれるものです。かつては、軽戦車、中戦車、重戦車、歩兵戦車、騎兵戦車、巡航戦車、駆逐戦車など、様々な分類、呼び方のあった戦車が、第2次世界大戦を経て一本化されていったことには、イギリスでの戦車開発のある意味での失敗と、冷戦期の戦車運用法に大きなきっかけがあります。


第3世代主力戦車に分類される、陸上自衛隊の90式戦車(画像:陸上自衛隊)。

 戦間期、戦車の母国であるイギリスでは、戦車対戦車を想定した機動戦向きの巡航戦車と、重装甲で歩兵を援護する歩兵戦車とに分けて開発していました。しかしこの設計思想は、第2次世界大戦中に問題だらけだったことが明らかとなります。

 巡航戦車は機動力があるものの装甲が貧弱で、戦車砲も進化著しいドイツ戦車相手には力不足でした。歩兵戦車に関しては、重装甲、重火力こそ確保できましたが、そのせいで自重が重すぎて速度が出ず、また初期の歩兵戦車は歩兵支援を中心にするという設計思想でありながら機関銃座や陣地攻撃に必要な榴弾を使用することができませんでした。

 このように、この時期のイギリス戦車はどっちつかずの中途半端なものばかりで、結局アメリカ軍からM3やM4「シャーマン」といった中戦車を輸入するなどして対応していたのです。

巡航戦車と歩兵戦車のいいとこ取りをすればいい戦車ができる!

 アメリカ製戦車で穴を埋めつつも、イギリス陸軍は優秀な次期国産戦車を開発するため、ロールス・ロイス製の「ミーティア」という、航空機用の「マーリン」エンジンを元に開発した高出力エンジンを戦車に搭載します。最初にクロムウェル巡航戦車へ搭載されたこのエンジンは、それまでイギリス戦車が搭載していたエンジンの倍以上、出力があり、重装甲、重火力、高機動性という巡航戦車と歩兵戦車の特性を両立しうるものでした。

 こうして、これまで各種の戦車が分担していたあらゆる任務の兼務を理想とした万能戦車の開発が始まります。その目標が形となったのは、1945(昭和20)年4月に登場した、主力戦車の元祖ともいわれる「センチュリオン」です。


主力戦車の元祖ともいわれる「センチュリオン」戦車(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 同戦車は17ポンド砲を搭載し、当時の難敵だったドイツのティーガーI重戦車と撃ち合える火力を有すると共に、厚い装甲と高い機動性を持っていました。第2次世界大戦には実戦投入されないまま終戦を迎えましたが、その後の朝鮮戦争、中東戦争、印パ紛争などでその高い性能を示すこととなります。

 この「センチュリオン」と同じように戦後、中戦車などを発展させる形で様々な任務をこなせるように開発された戦車を、第1世代主力戦車と呼びます。

米ソの「主力戦車」黎明期は…?

 同じころソビエト連邦でも、機動力がありながら重戦車並みの高火力を誇るドイツのパンター中戦車に対抗するため、開発中に車体以外の設計は陳腐化していたT-44を発展させることが試みられます。

 こうして、優秀だったT-44の車体に100mm戦車砲を搭載し発展させたT-54が戦後に完成します。この戦車は最初の分類こそ中戦車でしたが、「センチュリオン」と同じく重装甲、重火力、高機動性を備えた汎用性の高い車両として、同車両を発展させたT-55と共に、冷戦期に入ってからの東側陣営における第1世代主力戦車と見なされています。


朝鮮戦争に投入されたM46「パットン」戦車(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 アメリカに関しては、第2次世界大戦終結からしばらく、それほど戦車開発に積極的ではありませんでした。しかし、さすがに中核となる中戦車がM4「シャーマン」だけでは非力ということで、戦中に開発したM26「パーシング」の運用扱いを重戦車から中戦車に変更し、さらにそのエンジンやサスペンションを改良する形で、主力戦車M46「パットン」が登場し、朝鮮戦争に投入されます。アメリカ軍はこの「パットン」シリーズを、改良などを加えながら後継のM1「エイブラムス」にリプレースされるまで使用し続けました。

 なお戦前、戦中のアメリカ戦車と同じく、初期の「パットン」はガソリンエンジンを搭載していましたが、M48からは被弾時の安全性や燃費の観点から、他国の主力戦車同様にディーゼルエンジン化されています。

東西冷戦により主力戦車一本化はより強まる

 第1世代の主力戦車は、まだそれほど万能化が完全ではなく、機動力や火力を補うために軽戦車や重戦車と併用された時期もありますが、エンジンの高出力化や装甲の技術革新、砲弾や砲身の進化、戦訓の積み重ねにより、戦車の種類は火力、機動力、防御力をバランス良く持つ主力戦車へ集約されていくことになります。この点は現代戦闘機において、技術の発展や各国の台所事情により様々な任務をこなせるようなマルチロール機化が進んでいることに近いかもしれません。

 さらに冷戦期のソ連軍を基幹とするワルシャワ条約機構軍は、西側諸国に侵攻するプランとして、東西ドイツ国境全域に配備した1万両以上の戦車を主力とする部隊によって敵の戦線を破壊する「縦深攻撃」を用いることとなっていました。これを実行するためには、戦車が多目的な戦闘をこなせることに加え、補給や修理などの効率化のためにも、戦車装備の共通化と運用の平準化は必要不可欠でした。


スウェーデンのStridsvagn.122戦車は、ドイツのレオパルト2A5戦車の改良型(画像:スウェーデン軍)。

 対するNATOなどの西側諸国でもこれは同じで、車体こそ自国の地形や思想により自動装填装置の有無や機動力と防御力どちらを重視するか、といった点で差異はあるものの、砲身に関しては、西側で共通の砲弾を使用するという観点から、第2世代主力戦車は「ロイヤル・オードナンスL7」、第3世代以降は「ラインメタル 120mm L44」などの砲身を採用、あるいはライセンス生産し搭載したり、同じ仕様のものを自国開発したりする国がほとんどになります。

 冷戦終了後は、複数の国での大規模な共同作戦の可能性が低くなったということで、国ごとの予算の関係で軽戦車に近いものが開発されたり、主力戦車の穴埋めとして装輪戦車が導入されたりしています。しかし、搭載エンジンがガスタービンかディーゼルかなどの違いはあっても、基本的に主力戦車と呼ばれる戦車が装甲部隊の主力であることは、さらに大きな技術革新でもない限りは変わらないと思われます。