2022年9月下旬、横須賀にアメリカ海軍の「ズムウォルト」が寄港しました。ステルス性を考慮したという奇妙な外観がよく話題になるものの、実際の性能はどれほどなのか、実際に乗った体験をもとにひもときます。

イージス巡洋艦よりデカいステルス駆逐艦

 艦首に「1000」のナンバー(艦番号)を描いたアメリカ海軍のステルス駆逐艦「ズムウォルト」が2022年9月下旬に突如、神奈川県の横須賀基地に寄港しました。まるで折り紙で作った様な異様な外見から、一躍世間の注目を集めた艦です。


駆逐艦「ズムウォルト」の艦首部分は刃物の切っ先のように尖っており、艦全体が内側に傾斜しているのもわかる(布留川 司撮影)。

 同艦は、ズムウォルト級駆逐艦の1番艦、すなわち「ネームシップ」にあたり、姉妹艦として2番艦「マイケル・モンスーア」、3番艦「リンドン・B・ジョンソン」があります。これらズムウォルト級が、なぜこのような特徴的な外見をしているかというと、その理由はレーダーに映りにくいステルス性を追求したため。ただ、同様なコンセプトの軍艦は世界中に存在しており、決して珍しいものではありません。

 たとえば、海上自衛隊の新鋭艦である「もがみ」型護衛艦もそのひとつです。船体表面の突起部分を減らし、平面ばかりで構成されたのっぺりとした軍艦は、現代の新鋭艦のひとつの流行といってもいいでしょう。

 しかし、ズムウォルト級は、もがみ型以上にステルス性を徹底的に追求した結果、艦全体が内側に傾斜したピラミッドのような形をしており、昔のコンピューターゲームに出てきそうな現実感のないデザインとなっています。

 ゆえに、実際に間近で見ても、「ズムウォルト」が全長183m、満載排水量約1万5000トンの軍艦と言われても信じられないでしょう。なお、艦種区分も駆逐艦とはなっているものの、アメリカ海軍が運用しているイージス巡洋艦タイコンデロガ級と比べて、全長も排水量も上回っています。

 その特異な外見によって得たズムウォルト級のステルス性能とは、どのようなものなのでしょうか。筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は「ズムウォルト」就役時、アメリカでの報道公開に参加し、艦内を見学して艦長などに話を聞いたことがあります。そのときの体験を元に同級のステルス性について見てみます。

さすがステルス! レーダー反射断面積はイージス艦の50分の1

「ズムウォルト」が就役したのは2016(平成28)年10月のこと。アメリカ本土のメリーランド州ボルチモアで就役式典が行われましたが、ズムウォルト級の一番の特徴であるステルス性について、現地にいたアメリカ海軍の広報担当者に説明を求めると「レーダー反射断面積(RCS)はアーレイ・バーク級駆逐艦の50分の1」と即答してくれました。さらに、「軍艦が活動する外洋では、ズムウォルトを追尾するのは困難だろう」とも付け加えていました。

 つまり、ズムウォルト級はレーダー上ではより小さい船舶、すなわち漁船やクルーザー、遊覧船程度にしか見えないようです。またRCSの低さから継続して探知するのが難しいということは、攻撃のための接近や兵器の照準も合わせにくいということを意味します。


展示のために砲身が出された「ズムウォルト」のAGS 155mm砲。専用砲弾の調達中止により、この砲が戦力となることはないようだ(布留川 司撮影)。

 ズムウォルトに乗艦し船体を間近で見ると、あらゆるものが船体内部に収納されており、少しでもレーダー反射を生み出す凹凸部分を減らそうと工夫しているのがよくわかりました。遠くから見ても、間近から見ても、やはりこの艦の印象は「のっぺり」の一言で表せます。

 甲板の外縁部に船殻を覆うようにミサイルを収納したVLS(垂直発射装置)が埋め込まれていますが、そこも蓋のヒンジなどといった可動部分は内側に作り凹凸を極力減らすデザインになっているため、外から見るとただの四角いパネルにしか見えません。そのため、この艦に80発分のミサイル発射装置があることは、外見からはほとんどわからないでしょう。

 船体前部の甲板には主砲として155mm砲が2門装備されていますが、それら砲身も射撃時以外は、ステルス性を考慮した砲塔内部に入れられるようになっています。個別の装備品も船体と同様にステルス性が考慮されていることを感じ取れました。

船体外板を触ってみた!

 許可を得て船体外板を触ってみたところ、ステルス戦闘機のようにレーダー反射を抑える特別なコーティングがされているような感じはなく、その質感は通常の艦艇と同じ金属的な質感でした。広報担当者に聞くと「この艦のステルス性は、船体の形状と素材(マテリアル)で実現している」とのコメント。ステルス戦闘機とは異なる技術的なアプローチがされているのかもしれません。また、船体より上のデッキハウス部分だけはタイル状のパネルで覆われており、船体の部分ごとで異なるステルス対策が施されているように感じました。


タイコンデロガ級イージス巡洋艦(右)と並んで停泊しているズムウォルト級駆逐艦(左)。艦全体の印象が全く異なっており、さらにズムウォルト級の方が大きい(布留川 司撮影)。

 ズムウォルト級駆逐艦はステルス性を極端に追求した軍艦と言えますが、ゆえに建造費用が高騰し、建造数も当初の計画の32隻から前出の3隻にまで削減されています。運用コンセプトも二転三転しており、火力プラットフォームとして主力装備になるはずだった155mm砲についても、専用砲弾であるLRLAP(長距離対地攻撃砲弾)が価格高騰を理由に調達中止となっています。

 こうした事情から、ズムウォルト級の開発計画そのものが失敗と考える意見も多く出ていますが、本艦には特異なステルス性だけでなく艦内ネットワーク・自動化といった先進的な艦内システムが組み込まれており、船体も大きいことから潜在的なポテンシャルは高いとも言えます。アメリカ海軍は将来的な計画としてズムウォルト級の艦内システムのアップグレードや、155mm砲を撤去して同海軍としては初となる極超音速兵器を搭載する計画も立てているようです。

 その見た目からイロモノ的な扱いを受けることもあるズムウォルト級ですが、それゆえに軍艦としての存在感は他の軍艦より大きいのは間違いなく、今回の横須賀への寄港も対外的なアピールの意図が含まれているのかもしれません。今後、本艦がどのように運用されていくのかは、アメリカ海軍の将来と動向を判断する上で注目すべきポイントだと筆者は考えます。