●リアクションにウソや忖度が一切ない

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、バラエティ番組『有田ジェネレーション』(Paravi)演出の岡田純一氏だ。

地上波の深夜から配信番組へ移行し、アングラ度にさらに磨きがかかっている『有ジェネ』は、なぜ次々とアングラ芸人を発掘していくのか。そして、この番組で感じるMC・有田哲平のリアリティを重んじる姿勢とは――。

岡田純一1977年生まれ、東京都葛飾区出身。制作会社のADとしてキャリアスタート。その後フリーとなり、『おすピー&ロンブーの起きなさいよッ!!』『オリキュン』『SMAP×SMAP』(フジテレビ)でディレクター、演出として『東野・有吉のどん底』『有田チルドレン』(TBS)、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)などを担当。現在は、『有田ジェネレーション』(Paravi)、『フリースタイルティーチャー』(テレ朝)、『ネタバレ』(フジ)などを手がける。

○■有田と小峠の前に差し出したら…の“賭け”

――当連載に前回登場した『全力!脱力タイムズ』総合演出の有田哲平さんが、一番最初に岡田さんのお名前を挙げられました。

光栄でしかないですね! まさか有田さんに指名していただけるとは。でも本当にすごいのは、この連載に有田さんを登場させた(名城)ラリータさんですよね。

――有田さんは、岡田さんについて「『どっから見つけてきたの!?』という芸人をどんどん発掘する人で、切れ者です。そこで見つけた面白いなっていう人を『脱力タイムズ』にも出てもらっています」とおっしゃっていました。

『脱力タイムズ』に桐野安生さんが出演したときは、うれしかったですね! でも、うれしさ以上に大丈夫か?って心配の方が大きかったかも(笑)。けど、今のところ『脱力タイムズ』以外の番組で見たことがないので、やはり有田さんにしか捌(さば)くことができない案件なんだなと思ってます(笑)。僕自身も他の番組でどう扱ったらいいのか分からないです。

あと、「どっから見つけてきたの?」という点ですが、有田さんが相当なテレビウォッチャーなので、「この芸人はまだ見たことないだろう」という勝手な憶測と、誰が見ても面白いネタを披露する芸人さんより、ちょっと粗挽きだけど、有田さんと小峠(英二)さんの前に差し出したら面白く昇華するんじゃないかなという賭けで選ぶこともよくありました。どちらかというと、視聴者よりも有田さんへのウケを優先した、“有田ファースト”を意識した結果だと思います(笑)。なので、読みが外れてスタジオがとんでもない空気になることもあったりしました(笑)

桐野安生 (C)TBS

○■ブレイク前のぺこぱにニコリともせず「違うじゃん」

――有田さんとの出会いは、2015年の『有田チルドレン』(TBS)が最初ですね。

レギュラー番組って1回特番やってみて、評判が良かったからレギュラーに昇格です!ってことが多いんですけど、いきなりのレギュラーからスタートで、僕にとってもレギュラー番組の初めての演出で、さらに相手は有田さんという、プレッシャーの要素しかなかったですね(笑)。有田さんほどの大御所になると、あらゆる番組のパターンをやり尽くしてるだろうから、いかに有田さんに刺激を与えられるのかと考えたのが、「有田軍団に入るためのオーディション番組」というコンセプトで、有田さんと若手芸人の出会いの場を作ってみました。

最初の打ち合わせで、若手芸人にダメ出しする進行役という設定にアナウンサーの名前を入れてたんですけど、有田さんから「芸人にダメ出しするなら、その役は芸人の方がいい。例えば小峠とかどう?」と提案を頂いて、結果、小峠さん以外の選択肢はなかったと思えるくらいハマりまくるという結果につながるんです。僕なんかよりはるかに見えてるものが違うんだな、やっぱりすごい人だなと思い知らされました。

有田哲平(左)と小峠英二 (C)TBS

――『有田チルドレン』は残念ながら半年で終わってしまいましたが、半年休んで『有田ジェネレーション』が始まりました。実際に仕事を一緒にしてみて、有田さんにどんな印象を受けましたか?

有田さんはリアリティを重んじる人なんだなという印象です。リアクションにウソや忖度が一切ないんですね。なので、そこまでネタのハマりが良くないと、ずーっとブスーっとしてるのですが、その後に必ずイジリどころを見つけて、結果、面白くまとめ上げてくれるんです。

あと、収録現場が面白ければ、収録時間がいくら押しても大丈夫な方。大御所の方には珍しんじゃないですか? 僕的には十分撮れ高あるし、収録の予定時間も過ぎているので「OK」ってカンペを出してもフルシカトで、さらに拡げてどんどん収録時間が押しちゃうなんてことがザラにありましたね。なので、30分番組なのに、90分スケジュールで組んだりしたこともありました。有田さんから「笑いすぎて頭痛え」って発言がたまに出てくるんですけど、その言葉聞けると「よっしゃ」って気持ちになってたりしました。

あと、有田さんはネタの見方がやっぱりすごいですね。番組に後のレギュラーになるぺこぱさんが出たときなんですけど、その頃のぺこぱさんはまだ今の“否定しないツッコミ”スタイルになる前で、松陰寺(太勇)さんが着物にローラスケートという姿でキザなことを言うキャラで、シュウペイさんがそのキザな振る舞いにツッコむというスタイルだったんです。僕としては、そのスタイルでも面白いと思っていたので、有田さんにもウケるだろうと思ってたんですけど、いざ本番を迎えたら、有田さんはニコリともせず、「シュウペイはなんで横に着物着た変な男が暴れているのに、普通にツッコんでいるんだ?」ってダメ出ししたんです。つまり、設定がぶっ飛んだものでも、その世界観でネタを演じてるなら、そこにリアリティがないと「その演技違うじゃん」と。そういう厳しい視点で見ていることに驚きましたね。後にシュウペイさんがブレイクして、シュウペイさんをクビにしたことを反省されてましたが(笑)

●有田が知らないであろうを突き詰めた結果のアングラ化

――『有ジェネ』で特に印象に残っていることはありますか?

印象に残っているというか、体に刻みこまれた思い出のエピソードがあるんですけど…。コロナになる前は、毎回収録後に反省会と称した打ち上げが行われて、ある時に有田さんが僕のインタビュー記事を「読んだよ」と話しかけてくれたんですけど、その記事の内容が、僕が『さんタク』(フジテレビ)の打ち上げの席で、(明石家)さんまさんから頂いたあだ名をタトゥーにして入れちゃいました!というものだったんです。それで、有田さんから「有ジェネは入れないの?」って聞かれて。

「番組名は入れないですよ!」なんて笑いながら話していたら、そこに同席していたTOKYO COOL(当時・全力じじぃ)が「僕らは有ジェネのために魂削って改名したんですから、全力じじぃを入れてください!」って、たまたま収録で改名企画をやった後というタイミングも重なってめちゃくちゃなお願いされたんです(笑)。「“全力じじぃ”なんてタトゥーは絶対入れたくない! “海砂利水魚”なら入れたい」って逃げのコメントを言ったつもりだったんですけど、有田さんがあっさり「いいよ、あげる!」「えー! いいんですか!」ってなって、あっさり「海砂利水魚」頂いちゃいました(笑)。いつの日か上田(晋也)さんにも許可もらえたら入れさせてもらいます!(笑)

それで結局、「全力じじぃ」は有田さんが「“FPZZ(Full Power ZiZi)”って英語表記にしたらカッコよくない?」って結構いいアドバイスくれたので、TOKYO COOLへの感謝も込めてタトゥー入れちゃいました(笑)。こんな話で大丈夫でしょうか?

有田のアドバイスで入れた“FPZZ”タトゥー

――番組の特徴と言っていいのが、アングラ芸人の起用だと思います。

有田さんがまだ知らないであろうところを突き詰めた結果かもしれないです。どんどん掘っていったら見たことのない芸人が生息する地下にたどり着いちゃったみたいな。必然と番組がどんどんアングラ化しちゃったっていう(笑)。結局、僕もアングラ芸人が好きなんですよね。思い起こせば、『有田チルドレン』の頃から腐葉土を担ぎ続ける芸人とか、理解不能な芸人ばかり起用してましたね。不思議と、他の番組で見ることはほとんどなかったです。

――そういった中で、特に印象的な芸人さんは?

やっぱり桐野安生さんになっちゃうんですけど、桐野さんは芸人というかドキュメントなんですよね。生き様が『ザ・ノンフィクション』に出てきそうな人。哀愁が芸ににじみ出てる。

今、一番ホットなのはスルメさんですかね。Paravi版では恋リアドキュメント「スルメと幸」という企画でシリーズ化されていて、有田さんが「なぜ、これを地上波のときにやらなかった! やってたらスルメもっとブレイクしてたよ」と言わしめた傑作が『有田ジェネレーションYouTube』でも見れるので、ぜひ見てもらいたいですね。スルメの生き様、納言・幸さんの優しさが胸を打つこと間違いなしです!

スルメ (C)TBS

○■Paraviに移行して1回収録39本撮りの新記録

――『ネタパレ』(フジテレビ)も担当されていますが、差別化は考えますか?

そもそも番組のコンセプトが、『ネタパレ』は劇場感覚で今旬のネタが見られる番組、『有ジェネ』は有田ファミリーに入るためのオーディション番組という違いがあるので、『ネタパレ』は視聴者のことを考えた人選。『有ジェネ』は有田さんのことを考えた人選だと思います。

『ネタパレ』(フジテレビ系、毎週金曜23:40〜) (C)フジテレビ

『ネタパレ』では新人若手芸人を選出する際にネタの面白さを一番において見ますが、『有ジェネ』で選出する際には、ネタはそこまででも有田さんと小峠さんの前に出したときに何かしらの化学反応が起こりそうな人を起用しがちです。『ネタパレ』が輩出した四千頭身、ハナコ、ぼる塾など華のある芸人に『有ジェネ』に出てもらったんですけど、有田さんの判定は「失格!」でした(笑)

逆に、『有ジェネ』で激ハマりしたムラムラタムラという芸人がネタパレに出演したことがあったんですけど、南原(清隆)さんに全然ハマってなかったので、今後『ネタパレ』でムラムラタムラが見れることはないと思います(笑)。ネタと平場のセットで面白かった人なので、彼の良さを生かすことができなかったのは申し訳なかったですね。『ネタパレ』のオーディションでは、他のスタッフから「この芸人は有ジェネ向きですね」って言われることもありましたね(笑)

ムラムラタムラ (C)TBS

――『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日)でも、ほとんどテレビに出たことのない若手芸人を積極的に起用していますよね。

ラップができる芸人さんを掘り下げていった結果、思いの外たくさんいた!っていうだけです。そんな芸人さんたちのラップを始めたきっかけが、「『フリースタイルダンジョン』でした」と言ってくれる方が結構いて、そんな方たちが今度は出演者として番組を盛り上げてくれてることに、魂が引き継がれてる感があって感動を覚えましたね。

――『有ジェネ』はParaviに移行しましたが、地上波との変化はいかがですか?

一番大きな変化は、収録の本数ですね。有田さんがいろんな所でネタにしてましたけど、初回はなんと19本撮り(笑)。でも、不思議なもので積み重ねると慣れてくるんですね。なんて思っていた矢先に、YouTube版『有ジェネ』の配信が始まることになって、前回の収録では、合わせて39本撮りという新記録を更新しました(笑)

ヒコロヒー(左)と納言・幸 (C)TBS

あとは、自由度が高いのでやりたいと思ったことが企画として実現しやすいですね。納言の幸さんに恋心を抱くアングラ芸人・スルメに密着した恋リア企画「スルメと幸」は必見ですし、新たなアングラ芸人の恋リア企画もスタートしますので、ぜひ見てもらいたいです。

●『スマスマ』ケタ違いの規模で得た経験値



――岡田さんがこの業界に入ろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?

子どもの頃からテレビっ子で、昔からエンタメの世界に憧れを持ってました。小学5年の頃、ニッポン放送でやってた『三宅裕司のヤングパラダイス』というラジオ番組を姉に勧められて聴いてみたんです。夜10時からの放送だったので、隣の部屋で寝ている親にバレないように枕の下に小さな携帯用ラジオを置いて寝ながらこっそり聴いて。家の壁が薄かったので(笑)。その番組が衝撃的に面白すぎて声を殺して笑ってました。そんな抑制された環境がキラキラしたエンタメ界への憧れを強くしていったのかもしれません(笑)。そこからブレずに大人になるまで憧れ続けてましたね。

就職はいたって簡単でした。コンビニで求人誌を立ち読みしてて「フジテレビで走り回ってみませんか?」というキャッチコピーでADの募集があったので。フジテレビで働けるならぜひ!と思って応募しました。

――最初に担当した番組は何ですか?

最初に配属されたのが『LOVE LOVE あいしてる』でした。すぐに辞めてしまうんですけど、その時のチーフADだったのが後に『SMAP×SMAP』チーフプロデューサーとなる黒木(彰一)さんで、僕が辞めた後に黒木さんから絵ハガキが家に届いていたんです。そこに「岡田とは、また一緒に仕事する予感がしてます」ってメッセージが書かれていて、こんな末端のADごときにありがたいなと思って、しばらくお守りがわりにカバンに入れてました。そこから7〜8年経って、僕がフリーになってから、フジテレビの廊下で偶然的に再会することができたんですけど、その時に「フリーになったんですけど、そんなに食えてないんで何か仕事ください」って言ったら、その翌週には特番に呼んでいただいて、そこからフジテレビでのキャリアが始まって『SMAP×SMAP』に入ることにつながっていきました。

――『スマスマ』ではどんなコーナーを担当したんですか?

コントや企画モノを主に担当してました。「ワンピース王決定戦」なども担当してましたね。僕は2010年からチームに入れていただいたんですけど、初めての担当が「本当にあった恋の話」という視聴者から寄せられた衝撃の恋愛エピソードを再現ドラマ化するという企画で、木村拓哉さんと上戸彩さん主演で撮らせてもらいました。現場に入ったときの木村さんのオーラがすごすぎて、あまりの緊張で木村さんと目が合った瞬間に頭の中が真っ白になって思考停止状態になったのをよく覚えてます(笑)

そんなダメダメなスタートだったんですけど、帰り際に「(でき)上がり楽しみにしてるよ」と優しく声をかけていただいたのを覚えてます。上がりマズかったら俺、終わりじゃん!ってことで必死に編集しましたね(笑)。いまだに木村さん以上の覇気をお持ちになられている方にお会いしたことはまだないです。

『スマスマは』全てにおいてスケールがケタ違いで、新コーナーを立ち上げるたびに、深夜特番以上の規模で作らせてもらうことができたので、他の番組では経験できない現場の経験値を重ねられたことで、いろんな景色を見させていただきました。番組に携われたことには感謝しかないですね。

――そうした中で、初めて演出として担当した番組は何ですか?

2008年に『科学忍者隊ガッチャピン』(BSフジ)という、ガチャピンが浅草を舞台に悪の組織と家でも作れる科学兵器で戦う、という教育バラエティ番組です。BSの番組なので視聴率が出ないのと、早朝の10分番組だったので、「ちゃんと見てくれてる人がいるのかな?」って思ってたんですけど、あるとき、(放送作家の鈴木)おさむさんから電話が来て、「友達の奥さんがあの番組面白いって言ってたぞ」ってわざわざ連絡頂いて、「本当にいたんだ!」っていう驚きと、わざわざ連絡くれる優しさに感動しましたね(笑)

○■GENERATIONS小森隼の驚異のトークスキル

――『有ジェネ』関係以外で、演者としてすごいと思った印象的な人はどなたになりますか?

最近すごいなと思ったのは、GENERATIONSの小森隼くんですかね。2017年からABEMAで『GENERATIONS高校TV』という番組からのお付き合いになるんですけど、彼のトークスキルの伸びしろが半端なくすごいです。毎年、『小森隼の小盛りのハナシ』という約90分間1人しゃべりするトークライブを見てるんですけど、最近では「番組がどうやって作られていくのか知りたいです」ってことで、制作のリモート会議にもこっそり顔を出したりしてるので、「どんだけストイックなんだよ!って思ってます(笑)

GENERATIONS from EXILE TRIBEの小森隼

――今後やりたいことは何ですか?

一番は『有ジェネ』の地上波復帰ですね。有田さんは「『有ジェネ』はライフワークだ」とおっしゃってくれたりするので、この火は絶やしたいくないなと。『有田チルドレン』が終わって『有ジェネ』として復活して、地上波が終わってParaviに移行して、今はYouTubeまで広がって……。また、地上波に戻れたら。

――ご自身が影響を受けた番組を1本挙げるとしたら、何ですか?

『BAZOOKA!!!』(BSスカパー ※ABEMAで今年復活)の「高校生ラップ選手権」ですね。『フリースタイルダンジョン』を担当させてもらえたのは、「高校生ラップ選手権」のファンだったことがきっかけだったんです。立ち上げの会議時に、おさむさんが「フリースタイルバトルの番組やるけど、岡田、高ラ(=「高校生ラップ選手権」)好きだったよな、やるか?」「やります!」。これで番組の演出が決まりました(笑)。僕の人生に大きな影響を与えてくれた番組ですね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

ABEMAで編成局長をされている谷口達彦さんです。僕なんかが紹介するのはおこがましいのですが、ABEMAがAbemaTVとして立ち上がった黎明期から、今でもお世話になっている方で、立ち上げ当初、出会ったときには「テレビのこと何も分からないんです」と言っていたのですが、グイグイ出世されて、今では手を伸ばしても届かない遠い存在になってしまいました(笑)。『THE MATCH』の話も聞いてほしいですし、若い層に刺さる企画を生み出し続けるABEMAのこれから、いろいろ聞いてほしいです。

次回の“テレビ屋”は…



ABEMA編成局長・谷口達彦氏

戸部田誠(てれびのスキマ) とべたまこと ライター。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。』などがある。最新刊は『売れるには理由がある』。 この著者の記事一覧はこちら