「部下を褒めているのに反応が鈍い」
「どんなふうに距離をつめたらいいかわからない」

…こんな悩みをもつ上司のみなさんは、言葉のチョイスや言い回しをアップデートすることで、悩みを解消できるかも。

「あたらしい時代には、あたらしい言葉が必要だ」と言うのは、ゼンショー×『エヴァンゲリオン』や岡崎体育×JINROなど、数々のコピーライティングやCMプランニングを担当してきたクリエイティブディレクター・小竹海広(おだけ・みひろ)さん。

小竹さんの新著『言葉のアップデート術』から、チームの距離がグッと近づく呼び方について一部抜粋してお届けします。

(読了目安:5分)


ディズニーで「バイト」を「キャスト」と呼ぶ理由

ディズニーランドでは従業員のことをスタッフやアルバイト、ホストなどと呼ばず、「キャスト」と呼びます。

遊園地を訪れるお客さんを「接客する」という発想ではなく、役者として「楽しませる」という考えのもと、この呼び方が用いられているそうです。

さらに、キャストという呼び名に合わせて、園内でお客さんがいるスペースは「オンステージ」、お客さんがいないスペースは「バックステージ」と名づけられています。

つまりキャストにとって、園内は仕事場ではなく、舞台なのです。

実際に、ジャングルクルーズを盛り上げてくれるキャストや、通路で披露される水溜りアート、数秒で回収されるポイ捨てされたゴミなど、ディズニーランドには賞賛の逸話がいくつもあります。

東日本大震災の対応では、園内で販売しているぬいぐるみを防災頭巾にして配布したり、隠れミッキーで子どもの不安を和らげたりする神対応が注目されました。

もちろん、これらの功績は「キャスト」という呼び方だけではなく、採用方針や研修による部分も大きいでしょうし、労務上の問題をゼロにできるわけではありません。

しかし、もし普段から「バイトくん」呼ばわりされていたり、「顧客満足度を上げよう!」「PDCAサイクルを回そう!」といった号令をかけるだけでは、有事の際にモチベーションを鼓舞するのは難しかったのではないでしょうか。

そこでこの記事では、呼び方や名称を工夫することで、モチベーションを引き出し、チームの結束感を強くするような言葉の型を考えます。


栗山監督も実践する、あだ名と敬語の二刀流

2012年から10年間、北海道日本ハムファイターズの監督を務めた栗山英樹監督は、選手たちを下の名前で呼ぶことで知られています。

大谷翔平選手に対して「翔平!」と呼ぶ姿が印象的でしたし、他の選手でも、「斎藤佑樹選手 → 佑樹」「中島卓也選手 → タク」「石井裕也選手 → 石井ちゃん」などと呼んでいました。

野球監督にはあまり見られない光景ですが、栗山監督は『うまい呼び方』(サンマーク出版)のインタビューで、その理由を次のように話しています。

“選手時代に「栗山!」と呼び捨てにされると、すごく上から言われている感じがしたけど、「栗!」と愛称のように呼んでくれるコーチには、「何とかして恩返ししたい!」という気持ちになったことが原体験でした”

また、フランスの皇帝ナポレオンも、部下の兵士の名前をよく覚えていたという逸話があります。

名前で呼ぶのは、偉大なリーダーの共通点なのかもしれません。

"【BEFORE】
吉田、松本、明日のプレゼン準備は順調か?

【AFTER】
よっしー、あっちゃん、明日のプレゼンに期待していますよ"

出典 言葉のアップデート術

会社の部下に対して、苗字を呼び捨てにする光景は少なくありません。

関係性にもよりますが、やはり上から言っている印象が強くなってしまいます。

ビジネスの場では部下が従ってくれるかもしれませんが、それ以上の積極的なモチベーションが生まれるかは微妙なところです。

また、自分の部下とはいえ、敬語を使わないのも乱暴な印象を与えます。

AFTERのように、「吉田さん → よっしー」「あつし → あっちゃん」など、ニックネームで呼んでみるのも一つの手です。

普段から呼ばれているあだ名があれば、それを本人に聞いてみるのもいいでしょう。

あだ名で呼ばれるのが嫌な人もいるので、下の名前で呼ぶだけでもOKです。

そして当たり前のことですが、「敬語」を使うのも重要です。

栗山監督も愛称で呼びつつ敬語を使うことで、バランスを保っていたそうです。


ファンの呼び方を変えるだけで、グッと距離が縮まる

アーティストとファンの間では、特別な呼び合い方をする文化があります。

例えば、アイドル戦国時代の今を捉えて「ももいろクローバーZのファン → モノノフ」、スピッツという犬種から「スピッツのファン → ブリーダー」、某居酒屋の名前から「サカナクションのファン → 魚民」、Tシャツ屋さんのお客さんだから「ヤバイTシャツ屋さんのファン → 顧客」など、アーティストとファンの関係性が表れていて、調べると面白いです。

かくいう私も、2021年5月に放送回数1000回を迎えている長寿ラジオ番組『水樹奈々スマイルギャング』を毎週楽しく聴いています。

この番組では、ギャングという番組名にかけてリスナーは「団員」と名付けられ、何だか集会に集まるような感覚もあります。

先ほどディズニーランドのエピソードでも触れたように、「愛称」は複数人に対するときも有効なコミュニケーションツールです。

"【BEFORE】
当メルマガの読者のみなさん、こんにちは

【AFTER】
〇〇ファミリーのみなさん、こんにちは"

出典 言葉のアップデート術

例えば会社のメルマガの担当者になった際、BEFOREのように「当メルマガ読者のみなさん」と書き出すのは一般的ですが、つかみとしては足りない印象です。

メールを送る業界やターゲットにもよりますが、愛称が見つかるとグッと距離を縮められます。

愛称で呼べば、まるで自分に話しかけられている、という意識が高まり、読了率が上がっていくはずです。

自動車会社の場合なら「車種名+オーナーのみなさん」でもいいでしょうし、ランニング用品メーカーなら「ランナーのみなさん」がしっくりきそうです。

旅行会社なら「ツーリストのみなさん」もいいですね。

その他大勢の中の1人ではなく、私とあなたの特別な関係性を感じられる具体的でユニークな愛称がポイントです。

いい愛称を開発できると、少ないタッチポイントでもお客さんとの絆を深めることができます。

このような呼び方は「最初が肝心」なケースが多く、新生活や部署移動、新サービス開始のタイミングが勝負どころです。

お互いに打ち解けてきた入社2年目なども、愛称を考えるタイミングになるでしょう。

愛称で呼ぶのは、最初は恥ずかしいですが、久々に会った時にもすぐ打ち解けられる効果もあるので、一度開発しておくと財産になります。

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