●『いいとも』で学んだ“一期一会”の精神

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、『全力!脱力タイムズ』で制作総指揮、『千鳥のクセがスゴいネタGP(クセスゴ)』(いずれもフジテレビ)で総合演出・プロデューサーを務める名城ラリータ氏(フジクリエイティブコーポレーション)だ。

『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』とテレビ史に名を残すバラエティで貴重な経験を積み、「演者に合っているか」を第一に企画を考えるという同氏。『脱力タイムズ』の有田哲平(くりぃむしちゅー)や『クセスゴ』の千鳥と、どのような意識で向き合っているのか――。

○■出演者のリハより一般応募のオーディションを優先

名城ラリータ1976年生まれ、沖縄県出身。日本大学芸術学部卒業後、00年にフジクリエイティブコーポレーション入社。フジテレビのバラエティ制作センターに配属され、『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『ココリコミラクルタイプ』『もしもツアーズ』『全国一斉!日本人テスト』『オモクリ監督』(フジテレビ)、『有田P おもてなす』(NHK)、『冗談騎士』(BSフジ)などを担当。現在は『全力!脱力タイムズ』で制作総指揮、『千鳥のクセがスゴいネタGP』で総合演出・プロデューサーを務める。

――当連載に前回登場した『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』の松永健太郎さんが、ラリータさんについて「一緒に『スマスマ(SMAP×SMAP)』でダブルチーフADみたいな感じのときもあったり。昔から仲良いんですけど、(ラリータ氏の妻・ギャル)曽根ちゃんが、僕とラリータがそろうと嫌みたいなんで、最近は年1回くらいしか遊んでないです(笑)」とおっしゃっていました。

就活のときに出会って、一緒に飯食いに行ったんですけど、その後別々の会社に入って2人ともフジテレビの同じ班に派遣されて、「あっ!」って再会したんですよ。コロナになるまでは年に数回、一緒に飲みに行ってたんですけど、妻に言うと「えっ、大丈夫?」「変な女いないよね?」って心配されます(笑)。でも、戦友ですね。飲んでいても仕事とは全く関係ない話題で盛り上がれる同業者です。

――最初に配属された番組は、何だったのですか?

『笑っていいとも!』です。もともと『ハートにS』(フジテレビ)とか『3番テーブルの客』(同)とかが好きでドラマをやりたかったんですけど、『いいとも』に入ってまるっきり変わったんです。ハラハラすることが毎日あって、仕事というのを忘れて楽しくなっていっちゃったんですよ。入って1〜2カ月経った頃には、ここでいろんなものを突き詰めたら楽しそうだなと思いましたね。

――やはり『いいとも』で学んだことは大きいですか?

そうですね。何がすごいって言うと、タレントさんとディレクター、ADだけじゃなくて、マネージャーさん、一般のお客さんを誘導する警備の方、アルタに常駐するカメラマンさんなどのスタッフとか、みんなが毎日一致団結して作ってるんですよ。それが連絡し合うというよりも、「あれはこうだよね」「そうだよね」と口に出さなくても分かっていて、その一番上にタモリさんがいるという関係。これは一番最初の横澤(彪プロデューサー)さんとか、改革した荒井(昭博プロデューサー)さんとか先人の皆さんがいろんなところで試行錯誤しながら作った土台だと思うんですけど、あれは二度と味わえないと思いますね。

例えば、「楽屋貼り」(※楽屋の入口に貼ってあるタレント名の掲示)ってタモリさんとレギュラーはフリップでストックしてあるんですけど、「テレフォンショッキング」のゲストはADがカンペを半分に折って手書きで作るんですよ。その書き方を「きれいじゃなくていいから、気持ち込めて書け」ってすごく注意されるんです。ついこの前まで学生だったんで「知らない人の名前を気持ち込めて書くって何だよ」とか思うんですけど、そのゲストの方からしたら、自分だけ手書きなわけじゃないですか。「今日は『いいとも』だなあ、緊張するなあ」ってアルタに来たときに、気持ちの入った字で自分の名前が書いてあったら、ちょっとでも喜んでくれるじゃないかって。

――細かい心遣いが継承されているんですね。

当たり前のことではあるんですけど、パッとできることじゃなくて、長く続けることによってそういう考え方が生まれるんですよね。他にも、コーナーに参加する一般の方へのケアについて、めちゃくちゃ注意されました。先輩ADから「オーディションに受かった人だけじゃなくて、落ちた人が大事なんだ。俺らの対応が良ければ、家に帰って家族に『落ちちゃったけどめちゃくちゃ楽しかったよ! アルタって狭いんだよ!』って喜んで話してくれれば、またファンになってくれる」って言われましたね。だから、そっくりさんコンテストなんて、全然似てない人が200人くらい来るんですけど、その人たちを事前に弾かずに、全員アルタの舞台に立ってもらうんですよ。「ここにタモリさんが立ってるんだ」っていう気持ちをお土産に持って帰ってもらうんです。

――どんなに時間をかけても。

200〜300人が集まるときは朝9時からオーディションをやるんですけど、11時40分くらいまでかかるんですよ。それが終わって急いでタレントさんに来てもらって3分くらい説明して準備するんです。タレントさんには失敗しても「すいませんでした」って謝れるけど、一般の方には二度と謝れないから、その“一期一会”を忘れるなというのはよく言われました。

僕らって、ディレクターとADと放送作家さんと場合によってプロデューサーと会議室で話すけど、自分たちの力だけじゃ成立しないから、演者さんや他の人の力を使わなきゃいけないんですよ。だから、制作スタッフたるもの、第三者の人に対してどういう風に思いを伝えられるかが大事だというのを『いいとも』で一番学びました。

――『SASUKE』(TBS)の乾雅人さんも、『クイズ100人に聞きました』(同)の時代から、同様の理由で「オーディションや予選会から、皆さんを全力で楽しませる」ことを大事にしていると言っていました。

テレビっていろいろ言われてますけど、やっぱり大衆に向けてソフトを作るというのが、他のメディアと明確に違うところだと思うんですよね。それを先輩たちが作ってきたんです。やっぱり最初に作った人が一番偉いと思うんですよ。その土台を僕らが応用させてもらうことが多々あると思うので、テレビソフトっていうのはいろんな人の努力の結晶なんだと思います。

○■あの冷静なタモリに熱弁されたこと

タモリ

――タモリさんとの印象的なエピソードを挙げるとすると、何でしょうか?

僕が『全国一斉!日本人テスト』という番組を立ち上げたんですよ。ゴールデンの番組なので、当時こういう場合は演出に局員を入れるのが普通だったんですけど、プロデューサーの石井浩二さんが「これはラリータが考えた番組だから」と言ってくれて、総合演出をやらせてもらったんです。若くて熱い気持ちがあれば何でもできる、と勘違いしていて、その当時『いいとも』の水曜日も担当していたんですけど、タモリさんにものすごく熱いプレゼンをしてたら、「お前は熱すぎるから、そんなディレクターはダメだ」って言われて(笑)

――(笑)

僕『いいとも』でも、当時1人だけ局員じゃないディレクターだったんですけど、その後、年に1回あるスタッフがタモリさんを囲む会で、みんなでボウリングしてお酒飲んでどんちゃん騒ぎするんですね。そのときに「そんなに熱くなるな」って言ってたタモリさんが、「お前みたいに外部から来てる人間がほとんどなんだから、お前は背中を見られてると思って頑張れ」って、僕より熱い話をめちゃくちゃしてくれたんですよ。それがもうカッコよくて!

――タモリさんのそういうお話、なかなか聞かないですね。

お酒が入ってたのもあると思うんですけどね。タモリさん以外でも、『いいとも』の演者さんってみんなすごいんですよ。『いいとも』って曜日担当のディレクターはサブ(=副調整室)にいて、客席の最前列のど真ん中にいるADがカンペを出してインカムを付けて進行をやってるんです。僕、それがすごい好きで、もちろん時間が押したらどこをカットするかとかはディレクターが考えるんですけど、ADからも提案して、それがスタッフとしてステップアップになるんです。

そのときにすごいなと思ったのが、「ご先祖さまはスゴイ人!」ってクイズコーナーがあって、爆笑問題の太田(光)さんがいつもボケて、普段だったら一番最後に落とすんですけど、ある日、そのときの流れで太田さんが最初に答えたほうがいいなと思って、「太田さんから」ってカンペ出したんですよ。そしたら東野(幸治)さんが本番中に「違う」って意思を見せたんですね。で、生放送が終わった後に東野さんの楽屋のほうに行ったら声をかけられて、「あそこで太田さんから行くのは俺もそうだと思う。でも、カンペで『太田さんから』って出すと他の演者さんに太田さんから行くってバレるから、できれば目で合図してくれ」って言われたんですよ。『いいとも』っていつも一流の人が集まってる場所じゃないですか。その人たちは、生放送でどうやっていくかというのを常に計算されているので、演者の空気を変えないように考えなきゃいけないんだと。そういう細かいところまで教えてもらいました。

――ライブ感を大事にするんだと。

そうですそうです。そういう細かいことから大きなことまで、いっぱい学びがあったんです。だから、最初に『いいとも』に入れたのが本当に幸せでしたね。違う番組だったら、辞めていたと思います。

●SMAP5人の“団長力”が生きていた『スマスマ』

――『いいとも』から一度『スマスマ』に移ったんですよね。

2年くらい『いいとも』のADをやってたら、当時ディレクターだった亀高(美智子)さんが「あの子、『スマスマ』に入れたい」って言ってくれたみたいで、そこから松永と一緒です。『スマスマ』でディレクターになりました。

――毎日の生放送と、収録の総合バラエティという、また違ったシステムの番組へ。

『いいとも』のおかげでタレントさんと接するということはだいぶ練習させてもらったんですけど、『スマスマ』はもう来る人が豪華すぎて、まずそこに麻痺(まひ)するんですよ。視聴率も獲りまくって、そこにも麻痺する(笑)

でも、『スマスマ』のスタッフを経験した人は皆さんおっしゃってますが、もう二度とできないすごい番組だったというのは、まさにそうだと思います。自己プロデュース能力の高い5人が、毎週水・木にスタジオにやってきて、こっちはあのSMAPで台本を書いたり、構成を考えたり、画を撮ったり…当時はそれが幸せなことだというのを忘れてやってましたね。本当に良い経験で、フジテレビのAD生活は辞めたいと思ったことがないんです。眠たいのはしょっちゅうでしたけど(笑)

――それだけ夢中になってやっていたという感じなんですね。『いいとも』との作り方の一番の違いは、どんなところでしょうか?

『いいとも』は、太田さんが(妻の)太田光代さんのことを言われて恥ずかしがったらそれをすぐ来週のコーナーにしたり、DAIGOさんの最新ワードの解答が面白すぎてそれを歌にしてCDを出したり、そういう直近の流れを大事にして爆発させるということをやるんですけど、『スマスマ』の場合は夏にライブがあったらそこまでを加味した企画を作るとか、中居(正広)さんが『27時間テレビ』をやるときはそれに向けてやっていくとか、長いスパンで5人をどうするかというのを考えるんです。だから、それぞれにディレクターが付いて、なるべく寄り添って話ができるような環境になっていて、ファンの人たちにどれだけ5人の魅力や違う面を見せるかというのを、一番考えていましたね。

僕は木村(拓哉)さんに付いていたんですけど、木村さんは自身がクリエイターになってどんどん意見を言ってくれるんです。内容もそうですけど、画の取り方を含めて。「ホストマンブルース」というコントでは、(放送作家の)鈴木おさむさんとかと考えて提案するんですけど、「ここは俺より(稲垣)吾郎を立てた方がもっと面白いと思う」とか、全体を考えた意見をおっしゃってくれるんです。やはり『スマスマ』はSMAPを見るためにお客さんが来てるから、その人たちを裏切りたくないという気持ちが強かったんだと思います。

それから、女優さんとコントをやるとなると、前室からウェルカムな感じで迎えたり、僕以外にもカメラマンさんとかカメアシ(カメラマンアシスタント)さんとかと話してコミュニケーションを取ったりして、座長の意識があるんです。TMC(砧スタジオ)に本当に狭い美術さんのたまり場があったんですけど、ゲストがいないときは木村さんがいつもそこでしゃべってたんですよ。

――もうスタッフの一員という感じだったんですね。

中居さんも、すごいことが決まったときに豪華なお弁当をみんなに用意してくれたり、記念のグッズを自腹で作ってくれたり、“俺が引っ張っていくんだ”という感覚がすごくあって。そういう“団長力”が5人それぞれにあるので、みんなが5人のことを好きになって、「この人のために一生懸命考えよう」ってなるんですよね。

『SMAP×SMAP』の収録が行われていたTMC砧スタジオ

○■企画が演者に合っているかをまず考える

――その経験が、今でも生かされているのはどんなことでしょうか?

これは僕の番組の作り方のベースになってるんですけど、例えば木村さんがやりづらいとか、ファンにニーズがないことはやめようと判断していたので、企画がこの人に合っているのかというのをまず考える癖が付きましたね。この企画は面白くて数字も獲りそうだけど、AさんよりもBさんのほうがフィットするんじゃないかと。もちろん営業さんがスポンサーを取ってきてくれるので視聴率が良いのが一番ですし、今の演者さんは無理なお願いをしても「分かりました」とやってくれる人が多いと思うんですけど、その人に信頼してもらうために、その人のファンが喜んでくれるためにというのを考えないといけないと、自分では思うんです。

だから、「自分はこう思います」「こういうことが好きなんです」というのをタレントさんに話して、分かってもらってから作るようにしています。そうして、座長と“心中”するような作り方がすごく好きなんです。今一緒に『脱力タイムズ』をやらせていただいている有田(哲平)さんとは、ひとまず有田さんが60歳になるまで一緒に作っていって、今回はどうやっていこうかというのを一番考えるディレクターでありたい。フジテレビって、目立つディレクターがいっぱいいるので、自分が目立って違いを出すためにも、そこを突き詰めようと思いましたね。

●有田哲平の教え「目先の笑いを作ろうとするな」

『全力!脱力タイムズ』有田哲平 (C)フジテレビ

――『全力!脱力タイムズ』でご一緒されている有田さんのすごさというのは、改めてどんなところでしょうか?

バナナマンの設楽(統)さんが、有田さんのことを「タレントの能力をトーク力とかでグラフにしたら、五角形に近い人」と言っていたんですけど、まさにそうだと思います。特にすごいのは、僕が「AとBで悩んでるんですけど、どうですかね?」と相談すると、普通は「A´」とか「B´」で返ってくるところを、有田さんは両方の要素を入れながら「C」にして返すんです。「Aだとこれが足りない、Bだとこれが多すぎる。じゃあ分かった、Cにしよう」って、これくらいのスピードで。そのやり取りが、もう300回続いてるんです。

――瞬時にアイデアを出されるんですね。

有田さんはよく、「お前がゼロイチを持ってきてくれないと俺は考えられないから、お互い様だ」って言ってくれるんですけど、僕はあの人もゼロイチで考えられると思います。たぶん、昔からプライベートで遊びに行ったときに思ったこととか、普段から「これ変だよね」みたいに感じたことを引き出しにブワーッと入れられて、「この場合はこんなのあったな」って持ってくる速度が速いんですよ。

――有田さんから言われたことで、特に印象に残っているのはどんなことですか?

よく注意されるのは、「階段を上っていくような感じで番組を作らなきゃいけないのに、目先の笑いを作ろうとするな」と言われるんです。今のテレビって、なるべくコンパクトにするために、フリがあってオチ・フォローを飛ばしてすぐボケで笑いにして、ぎゅうぎゅうにするんですよ。それがリズムになってチャンネルを変えられないというのがあるんですけど、日常会話でフリからボケなんてないだろうと。だから有田さんは、フリになってるか分からないような会話から、「あれ? これってもしかして…」ってなって笑いに行くのが理想であって、その理想に向けていろんなカモフラージュをしていくのが『脱力』なんですよ。

今のテレビは、なるべくエピソードや展開を入れるためにコンパクトにコンパクトに編集するのが正しいんですけど、それをすると怒られるんです。なので、その上げていく前の笑いが一切ない“分からない”時間が10分くらい続くのが、作っていて結構怖いんですよね。

――毎分の視聴率もありますし。

そうなんです。今のテレビって10分あったら3コーナーまでいけますから。だからADさんには、よく「これは真似しないでね」って言います(笑)。ただ、根本的には報道番組をやってるという設定があるので、本当だったらオープニングから何もやらないのがいいんですよ。あそこで1つ笑いがあると、来てくれた俳優さん、女優さんが安心するからやってるんですけど、ゲストもだいぶ一周してきたので、そろそろオープニングのネタもやらなくなると思います。「あれ? 本当に今日は報道番組なのかな?」って思わせることが大事なんで。

あと有田さんって、アンテナがすごくて、『しゃべくり007』(日本テレビ)とか他の番組で会ったゲストが『脱力』に来るってなると、その人の情報を僕に教えてくれるんです。「上田(晋也)との対応でこんな人だと思う」とか「この人はいろいろやってくれるから、もうちょっと積極的にいっても大丈夫」とか言ってくれて、その通りやってみるとドンピシャなんですよ。本当にいろんなところで観察して、分析して、どんどんストックして、それをこちらに反映してくれるから、僕らはすごく助かります。

――そのおかげで、先ほどおっしゃってていた「ゲストにフィットした企画」ができるんですね。

ゲストは基本的に役者さんが多いので、自分の色じゃなくてもキャラとして演じてくれるんですよ。でも、あくまでもご本人として出ているので、設定でありつつ、本人の色も見えるところの“真ん中”を取りたいんです。そういうときに、有田さんからの情報がありがたいんですよね。ずっと真剣な顔してておもしろブロックをバーン!と作るほうが、本人もスイッチが入りやすいとか、そういうパターンも考えやすくなるので。

○■『脱力タイムズ』に役者が出たがる理由

――よく『脱力タイムズ』は、ゲストの俳優さんが出たがる番組だと言われますが、そうした作り方が要因としては大きいのでしょうか?

そうですね。やりづらいと来てもらえないと思うので、1つは台本になっているのが大きいと思います。それと、キャラを付けているというのを分かりやすくするために、メガネをかけて「別人です」というアイコンでやるようにしているんです。

あともう1つあって、これは視聴者の方もそうだと思うんですけど、番組を長くやればやるほど、“共犯”になってくれるんですよ。僕としてはドキュメンタリーを撮っていて、その中で毎週アクシデントが起きるんですけど、「この芸人さんはこの後どうなるんだろう?」って共犯を経験できることが楽しいんじゃないかと。しかも「ドッキリです」という番組じゃなくて、あくまで報道番組でアクシデントが起きているので、自分が意図して積極的に参加しているわけではない。外馬にいながら、実は大事な部分をやっているという共犯ポイントがいいんじゃないかと思うんですよね。それで隣の芸人さんたちの対応能力を見て感動される方もいっぱいいらっしゃいますし、すごい笑って帰られる方もいらっしゃいますから。

6月3日にゲスト出演する藤森慎吾(左)と加藤シゲアキ (C)フジテレビ

――『脱力タイムズ』は、改めて芸人さんのすごさを感じますよね。

やっぱり瞬発力がすごいんですよ。芸人さんって、その場に数人いたら自分が何の担当かというのを暗黙の了解で一瞬に判別するんです。『(さんまのお笑い)向上委員会』(フジテレビ)とか、最近だと『ラヴィット!』(TBS)とかもそうだと思うんですけど、入った瞬間にフォーメーションを組むんですよね。妻が木曜日に出てるんですけど、妻が前に出るときもあれば、(ニューヨークの)嶋佐(和也)さんが行くときもあるみたいな感じで、演者さん同士で決まっていく。僕らは設計図をしっかり描いて台本に落とし込むんですけど、そこまで予想できないので、台本を超えてどんどん膨らんでいく。そうやって、小さかった種が大きく育つので、僕らはやってるときにどこに水をやればいいのかというのをいつも探しているんです。

この瞬発力のすごさを特に感じるのは、千鳥さんですね。だから『クセスゴ(千鳥のクセがスゴいネタGP)』では、ネタを見たときの千鳥さんの即興芸を楽しむように作ってます。打ち合わせも、ノブさんに「ゲストがいらっしゃるので、こういうトークがあります」というのを説明するくらいで、ネタの話とか、「僕はこんなこと狙ってます」とか一切言わないです。大悟さんなんて「今日も1つよろしくお願いします」、これだけ(笑)。ある意味、有田さんとは真逆なんですけど、これが僕のやってるものに対して千鳥さんが一番フィットする形なんじゃないかと思って。

●『クセスゴ』は千鳥との“勝負”「嫌になってもらおうと(笑)」

『千鳥のクセがスゴいネタGP』千鳥

――『クセスゴ』は「千鳥さんのコメントまでが1つのネタ」という考え方ですよね。

「クセがスゴいネタ」というのが1つのボケなんで、それを2人がどう斬るか。芸人さんのネタというところで、1個枷(かせ)がかかってるんですよ。“まるっきり悪く言えるの?”とか、そういうのも含めて、毎回こっちからどんな球が来るか分からないボールを投げているので、本人たちは「楽しい」と言ってくれてますけど、本当はしんどいと思います。たぶん、事前に「この人はこんなネタなんで、次のためにこういう流れを作りたいんです」と言ったら、千鳥さんはその方向に持っていってくれるんですよ。

でも、僕がやりたいのは、千鳥さんが目の前に来たどんな料理にも急に対応できるという瞬発力の高さを見せたいんです。コロナ禍で作った番組なので、ネタが面白い若手芸人さんを紹介して、劇場やYouTubeを見に行ってほしいという思いも最初はあったんですけど、今は千鳥さんが何を言うのかという、ある意味で僕らと千鳥さんとの勝負。「どんな斬り方しますか?」というプレッシャーを毎回かけて、嫌になってもらおうかなと思うくらい(笑)

――エハラマサヒロさんって、芸達者でネタもしっかりしてて面白いじゃないですか。でも、『クセスゴ』だとなぜかちょっと場違いな感じになって(笑)、あんなイジられ方をされるなんて想像できませんでしたよね。

そうなんですよ。僕らも芸達者でネタが面白い人として出てもらったんですけど、エハラさんはみんな嫌いじゃないはずだし、芸人さんたちの中の立ち位置は分からないんですが、あのイジられ方って何か分かるじゃないですか(笑)。でもあのイジりができるのは、千鳥さんが若手の頃からいろんな人といろんなことをやって何年も時間とお金をかけて培ってきて、みんなが好きになった結果のエハラさんの斬り方なんですよ。

――前にラリータさんにお話を伺ったとき、「芸人さんがみんな異常に千鳥さんのことを好き」とおっしゃっていました。

僕は芸人さんじゃないので、正しくは分からないんですけど、千鳥さんはプレイヤーの1人としてどんな悪球でも打ってくれるんですよ(笑)。しかもそれが「よく当たりましたね!」という感じじゃなくて、芯に当たってゲラゲラ笑える。千鳥さんがいるだけで現場がハッピーになるので、芸人さんだけじゃなく、スタッフもタレントさんもみんなが千鳥さんと一緒に仕事したいという理由が分かりました。

――『クセスゴ』では芸人さんではない方がネタに登場することがあるじゃないですか。それも、千鳥さんが見てくれているというのが大きいですか?

そうですね。でも、芸人さん以外は、さっき言ったまさに“悪球”ですね(笑)。まずあれだけだと成立しないんですよ。トータルテンボス大村親子(大村朋宏・晴空)みたいに、息子の晴空くんがお父さんに対する悲哀を歌うのは、意味があるように見せられるんですけど、とろサーモンの久保田(かずのぶ)さんと(加藤)礼愛ちゃんの組み合わせは、全く意味が分からなくて必然性がない(笑)。それでもあれをやるのは、礼愛ちゃんがイノセントであるからこそ、横にいる久保田さんのことがツッコみやすくなる。それを千鳥さんにガイドする役割なんです。だから、東儀親子(東儀秀樹・典親)と吉川晃司さん(のモノマネをする神奈月)の組み合わせに、理由があっちゃダメなんです。

――『クセスゴ』のフォーマットが別の特番のコーナーになったり、『ワイドナショー』の松本人志さんものまねを披露したJPさんが本家に登場してハネたりと、展開が広がっている感じもありますが、番組の手応えとしてはいかがでしょうか?

この前、井森美幸さんがゲストに来たときにおっしゃってくれたんですけど、他の番組に出ても何も言われない姪っ子さんが「『クセスゴ』出てたね」ってLINEをくれたと聞いて、それはうれしかったですね。僕の中の1個のバロメーターで地元(沖縄)の友達っていうのがあるんですけど、彼らが『クセスゴ』も『脱力』も「あれ面白かったね」って言ってくれるようになったので、次のステップに行かなきゃなというふうに思います。

でも、『クセスゴ』は基本的にはワイプですけど千鳥さんを前面に出している番組であって、「クセがスゴい」というタイトルもノブさんのものですから、やっぱり千鳥さんが好意的に見られているということが一番にあるんだと思います。

○■「毎週見せていく」レギュラー番組の腐心



――見取り図さんの「南大阪のカスカップル」、レインボーさんの「ひやまとみゆき」、ネルソンズさんの「ゾンビ」など、ネタがシリーズ化していくのはレギュラー番組ならではですよね。

でもテレビのレギュラー番組が大変なのは、連続することなんですよ。終わったら来週が来る…終わったら来週が来る…と向かっていかなきゃいけない。これは有田さんともよく話すんですが、『脱力』も『クセスゴ』も「見てます。面白い番組ですよね」って言ってくれるんですけど、『水曜日のダウンタウン』(TBS)にしても『ゴッドタン』(テレビ東京)にしても、面白いことをやってるという安心感で毎週は見てくれない人が結構いるんですよ。その見えない視聴者をどう取り込むかというのがレギュラー番組の難しいところなんですよね。だから、毎週見てくれる人には本当に感謝しなきゃいけないし、毎週見せていく努力をしなきゃいけない。

これはテレビだけじゃなくて、新聞、雑誌、ラジオもそうだし、ポテトチップスのうすしおだって、おいしいのはみんな知ってるけど、いつ食べたかって言われるとずっと前だったりするじゃないですか。僕は毎日コンビニで缶コーヒーを買うんですけど、すぐ買えるという強みで日常に組み込まれてるんですよね。そうやって日常に入ってずっと愛されるロングセラーにしていかなきゃいけないので、毎週作り続けてるんです。だから、10年、20年続けてこられている番組が一番偉いと思います。「あの長寿番組も終わったね」ってサラッと言われるかもしれないですけど、長く愛されるソフトを作るって、めちゃくちゃすごいです。

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

とんねるずさんの番組や、『夢で逢えたら』(フジテレビ)のオープニングとかあるんですけど、もう1つが地元でやってた『お笑いポーポー』(琉球放送)なんですよ。沖縄の人なら誰に聞いても分かると思うんですけど、沖縄の喜劇人の方が方言でコントするんです。世代によって言葉が全然違うので何言ってるか分かんないんですけど、「これはたぶん、オリンピックを目指す子どものために親が何かやってるんだな」って何となく伝わってきて。そういうのを面白くて見てたんですけど、こっちだと誰も知らないんで、あんまり言ってないです(笑)

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

ここは、くりぃむしちゅーの有田さんがいいなと思います。『脱力』では座長として作っていますし、僕が参加していた『有田P おもてなす』(NHK)もだいぶ有田さんの気持ちがコミットしていたんですよ。他にもそういう番組があると思うので、間違いなく“テレビ屋”だと思います。僕らのようなスタッフとは違う番組作りの目線があると思いますし、有田さんが次に誰を指名するのかっていうのも興味深いですね。

次回の“テレビ屋”は…



『全力!脱力タイムズ』総合演出・有田哲平